見出し画像

【Psychology】 #556


知識や行動の制限

これによって人を支配し
自分の都合の良いように
動かす事ができる

カンフー映画を観た後なんかには
まるで自分も強くなったような気がしたり
感動作品を観た後は明日からの行動を真似ようとしてみたり

あくまでもこれは短期的なモノであるが

対人関係となると
その人から逃げ出さない限り
毎日あるいは毎週それを繰り返される
しかもそれが恋愛対象にある人物であば尚更である



私の彼は私だけの彼では無い
最初は知らなかったが
恋に落ちてしまった後だと
もうどうにもならない

彼から打ち明けられたのは
彼には複数の彼女がいる事
そしてその誰もがそれを承知している事

普通なら別れてしまう筈
普通の私なら別れていた

しかし
彼の存在は私を完全に支配していた

月に一回は集会と称して
この彼女たちと会食をする

最初は違和感があったが
次第に彼女たちとは仲良くなったが
彼女たちはライバルでもあった


私や彼女たちはそれぞれ呼び名があった
最初の彼女から順番に
日曜のサンデイ
月曜のマンデイ
火曜のチューズデイ
と曜日の呼び名が付いていた

私は1番新しいフライデイ

彼は言う
サタデイが加わったら
もう彼女は集めないと

私たちは彼に気に入られようと
躍起になっていた
それがゲームのようであり
悔しかったり
楽しかったりする

曜日で呼んでいるが
曜日と会う日とは何も関係ない
彼が会う彼女を決める

彼は常に公平でいようとしてくれる

だから彼女たちに信頼され
愛されていた

彼女たちの話題はもっぱら
最後のサタデイはどんなタイプの人なのか
予想して楽しむ事であった

だが
彼女たちはそれぞれの繋がりはこの集会以外は禁止されていた

集会の時も2人で会った時も彼女になった時点で
会っている間は彼に携帯電話を預けないといけない

仮に携帯電話を持っていたとしても
決まりを破るような彼女はいなかった

決まりを破って彼を無くすくらいなら
死んでしまった方がマシと思うほどに
心酔していたから

恐らく
この集会こそが彼女たちを変えてしまったに違いない

加速する恋心
調和と共存の本能で繋がる連帯感

彼からの新しいメッセージがある度に
更にメキメキとやる気とトキメキを覚える
その中には沢山の制限がある
小さな事から大きな事まで

例えは
普通の食事は植物由来の物しか口にしてはならない
お酒の摂取は禁じる
化学調味料が入った物も禁じるが
彼と会った時はその逆で
お酒を飲み肉を食い
ジャンクフードも食べた

彼と会う日が解放の日であった

集会の時だけは変わっていて
食べ物は自由であるが
お酒については
くじ引きで3人だけが飲める
理由は分からない
多分
彼のちょっとした遊び心なのだろう


そんな彼女たちの前に
ついにサタデイが現れた
サタデイは誰よりも若く
誰よりもスタイルが良く
誰よりもオシャレでセンスが良い
しかし
1番ブスであった

彼女たちは騒ついた
それは意外なサタデイだったから

私を含めた彼女たちは
年齢もほぼ同じで
見た目にもそんなに差は無い

かなり異質な存在だ

だからなのか彼女たちは
なぜかしらの防衛的な感情が生まれた

しかしそれは最初だけの感情であった
一年も経つと彼女たちはすっかり
サタデイと打ち解けていた

打ち解けていた
というより
魅了され虜になっていた

気が付いた頃には
見えざる順列が出来ていた
それを作ったのは彼女たちだ

実際は彼なのだが
彼女たちはそう信じてしまっている
だから拒絶するどころか

心酔している

彼が1番で
サタデイが2番
そして彼女たち

彼女たちは彼とサタデイのためなら
何でもやった

一層強固な関係になった

もう後戻りなどは無い

彼から新しいメッセージがあった
サンデイからフライデイまでの6人は
それぞれ5人の彼氏を作る事
彼氏が出来ても追いかけない事
彼氏が複数人いる事は黙っておく事
1番最初に5人の彼氏を作った者には
プレゼントがある
何かは知らされていない
また新しいゲームの始まりだ

サンデイからフライデイまで
必死になった
夜の街を徘徊する者
コンパばかり参加する者
出会い系のネットを活用する者

彼女たちは
着々と彼氏を増やしていった
彼氏たちは彼女たちの虜になっていた
その手法は知らぬ間に
あの彼氏から受け継がれていた

半年も経たない内に
全員ミッションをクリアした

彼らは1人ずつ彼女から彼氏が複数人いる事を告げられた
その時はもう既に遅しで
受け入れる選択しか考えられなかった

順番に集会に彼氏を連れて現れた
彼氏は他の彼女たちにビックリしたし
トップの彼の存在に圧倒された

彼氏たちはこうやって順番に
引き入れられた

1番最初に5人の彼氏を作った彼女は
サンデイからフライデイまでの6人のリーダーという地位をプレゼントされた

全ての彼氏が引き込まれた段階で
全体集会が行われた

そこで
2番手であるサタデイより
発表があった

「これより
ヤス様は教祖とおなりになられる
心の自由解放を目指して
お前たちは筆頭の信者となる事となった
ありがたく受け入れるが良い」

皆ウットリしている

なんて素晴らしいお方なのだ

彼女たち彼氏たちは
ヤスのためにお布施をし
郊外の土地を買い
教団施設を作った

表向きは寮完備の
IT関連会社であるとうたっている

実際にベンチャーで
そういった仕事もこなした

教団は国から宗教法人とは
認められていないが
彼らは一向に気にしない
宗教法人になってしまう事によって
カルト集団とみなされる方が
彼らには迷惑な事である

ヤスの素晴らしい所は
調子に乗って
一気に大きくしようとしない事だ
教義を広めようと躍起にもならない

それよりも
先ずはこのグループの絆を深める事に専念した

お陰で
3年後には
もう鉄の塊のような団結が出来上がった

ヤスの目的は何なのか
それは彼女たち彼氏たちには分からなかった
知っているのはサタデイだけであった



その実態は
ヤスこと田中ヤスシは心理学の研究者であり
サタデイこと山田ナオミは本当のパートナーであり助手であった

彼は論文の為に
とても危険な方法を選んだ
『知識や行動の制限によって人間はどうなるのか』
彼は逮捕起訴されても構わない覚悟でこの研究に打ち込んだ

論文はアメリカで発表され
色々な物議を醸し出した
ヤスとナオミは
論文発表の前に突然
姿を消した

残された彼女たちや彼氏たちは
その後
精神的な後遺症が残る者多数

発表後は
警視庁も動き出し
刑事事件で貞操しようとしたが
既に第三国へと亡命しており
身柄の引き渡しには応じなかった

人命が奪われた訳では無いので
軽犯罪に当たるとし
警視庁も早々に打ち切った

アメリカで発表された論文を元に
製作された映画が異例のヒットを巻き起こし
カルト集団への啓蒙に繋がった

彼女の1人
フライデイである私はその後
地元へ戻り
静かに暮らした
今も肉類は口にしていない
彼氏は出来たが
気持ちが踏み込めないまま
数年過ぎている
彼氏には過去の話はしている

優しい彼で
それも分かった上で
受け止めてくれている





ほな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?