見出し画像

【サヨナラ赤ちゃん】 #834


何故私だけが有罪にならなくてはならないの?


私には大好きでお付き合いしていた彼氏が居た
大学のサークルの先輩

サークルの先輩と言っても
向こうはもう卒業していて社会人

一年生の時の新歓コンパで出会った

最初はただ面白い人だなぁって感想だけだったんだけど
グループLINEとかでやり取りするようになって
その後も数人のサークル仲間と連んで飲みに行ったり
遊びに行ったりしていた

そんなある日
彼は私だけを誘って
飲みに行こうってなった


この時も単なる先輩後輩として
そのつもりだった

でも彼の中ではそうでは無かった

これは後で知ったコト

その日以来
頻繁にグループでは無く
私のLINEに連絡が来るようになった

私はその事に対して
別に何も感じていなかったし
楽しかった

2人で遊びに行くようになって
数ヶ月が過ぎた頃
私は終電を逃し帰れなくなった

お金の無い私はマックで
始発まで時間を潰す事を提案したけど
彼は横になりたいと言い出した


私はその時ちょっとだけ迷ったけど
確かにその方が随分と楽だし
優しい先輩だからまぁいっかって気持ちで承諾したの

お金も出してくれるって言ったし

コンビニで食べ物とお酒を買って
ホテルに入った

初めてのホテルじゃ無いけど
やっぱり緊張する

何処のホテルも同じような部屋だ

先輩は私にシャワーを勧めて
自分はレモンサワーを飲み出した

シャワー?

なんか恥ずかしい
でもこのままもちょっとって思ったから
シャワーを浴びた

出てきたら
先輩もシャワーを浴びた

先輩が出てきて
少しだけテレビを観ながら
お酒を飲んでいたら
いきなりキスをされた

私はもうビックリ

「ちょっとぉ」

そう言うのが精一杯だったけど
次第にトロンとしちゃって
後は流れのままカラダを委ねてしまった


この日以来先輩とは会うとホテル
そんな日々が続いた


ある日
私は生理が来ない
という現実にぶち当たった


もしかして…
でも生理不順と言うこともあるかもしれない


私は様子を見た

でも1週間経っても
2週間経っても来なかった

その間も先輩とはLINEしてたし
会ってエッチもしていた
でも言えない

なんだか怖くて…


3週間が経った

流石にこれはヤバいと思い
検査キットで調べてみた

妊娠している


私は悩んだ

彼に言うべきか
それとも言わないべきか

仲良しの友達にも先輩の事は
話していなかった

相談すべきか

どうしよう

産婦人科に行くのも怖い
でもこのままじゃヤバいと思うし

インターネットで色々と調べまくった

医院長が女性の病院を見つけた

私はネットで予約し
病院に行った

やっぱり妊娠していた
私はまだ学生だし
お金も無いし
結婚もして無いし
何よりも育てるなんて
そんなのまだ考えられない

だから
苦渋の決断で中絶を決断した


そしたらそこの先生に言われた

「相手の承諾書が必要です」

えっ?てなった

先輩に言わなくちゃならないの?


その日はそのまま帰ってきた

どうしよう
言えない

どうしよう
どうしよう


そんな事を考えている間に
時間はどんどんと過ぎて行った

このままではホントにヤバい


私は意を決して
先輩にこの事を打ち明けた

すると先輩の顔色が変わった
そして

「俺の子?」

言葉が私に突き刺さった

当たり前じゃない
アンタとしかしてないんだから

私はパニックになり
カフェに居たのに
大声で泣きながら

「そんなの決まってるじゃない
なんでそんな事言うの」

彼は焦ってなだめてきたが
それが余計に腹立たしかった

もういい


私は荒ぶった気持ちのまま
その場を後にした

なんて男なの?
大好きになってきてたのに
あんな男だと知ってたら
付き合わなかったのに


私は別の病院に行ったけど
やはり承諾書が必要と言われた


そしてとうとう22週が過ぎてしまい
中絶カウントダウンが始まった

この頃はもう私は学校にも行けず
家の中にこもり気味になっていた
そしてほぼ諦めかけていた

精神的にも追い詰められ

実家にも帰らず
連絡もしていなかった

友達からは最初LINEが来ていたが
それも今はもう来なくなった

肝心の先輩もあれ以来LINEは途絶えた


そして私はもう中絶が無理なカラダになった

お腹はどんどん大きくなり
外出時はフワフワのAラインのワンピースしか着れない


このまま子供ができちゃったら
もう就職もできないし
両親にも会えない

泣いてばかりの日々を過ごしたり
諦めていいやってなる日々を過ごしたり



精神的に追い詰められたからなのか
私はショッピングモールのトイレで
早期出産をしてしまった

赤ちゃんが出てくるなんて
そんなのまだ考えてなかったのに


私は気が付いたら
赤ちゃんの口を必死に塞いでいた

泣いたら気付かれる
泣いたらバレる
泣いたら私の人生は終わる
泣いたら
泣いたら


赤ちゃんが動かなくなった


「あっ」

と小さな声が出た

今度は

どうしよう
そればかりが頭の中でグルグル回る


世界中に取り残された私


私はさっき買ったばかりの洋服に
赤ちゃんを包み
リュックサックを開き
中の物を紙袋に移し
赤ちゃんをリュックサックに押し込んだ

私のカラダはガクガク震え
恐る恐る外に出て
急足でマンションへと帰った

乗ってきた自転車も忘れて



これからどうする


分からない

赤ちゃんはクローゼットの奥に仕舞い込み
その日はそのまま眠った


次の日
何故か爽やかな気持ちで目覚めた

何故か神様が許してくれるような気持ちになったからだ


久しぶりに学校に行ってみた
授業には出なかったけど
食堂に行ったら友達が居た

向こうはビックリして駆け寄って来た


「ナオちゃん
どうしてたの
皆んな心配してたんだよ
LINEしても連絡ないから」


「ゴメン
ちょっとお父さんが病気で
ずっと実家に帰ってたから」

「そうだったんだ
もう心配したんだから

お父さんはもう大丈夫なの?」

「うん
ありがとう」


この日以来また大学生活が始まった

時々元気ないねって言われる事はあったけど
あの事はバレていなかった

ただある子から

「ナオ
ちょっとアンタ臭わない?
ちゃんと風呂入ってる?」


「入ってるわよ」

「何の臭いよ
変ねぇ」


どうしよう
確かにそうかもしれない

あの赤ちゃん
何処かに移した方が良いかもしれない


また
何となく学校に行けなくなったある日
家のドアフォンが鳴った

誰かしら?


「はい」

「あっすいません
山田さんですか?」

「はい」

「私
当マンションの管理会社の田中と申します
ちょっとだけお話がありますので
ドアを開けて頂けませんか」

「いえっ
あっはい
でも今は…」

「いや直ぐに済みますので
住人の方からの相談で
最近マンションに異臭がすると
連絡がありまして
一軒一軒確認させてもらってるんです

直ぐ済みますので
よろしくお願いします」


私は観念した
もう逃げきれない

ドアをそっと開けると
そこには警察官の姿も

部屋からは一気に異臭が放たれたようで
管理会社の人と警察官の顔が歪んだ


警察官が

「これは何の臭いですか」

そう尋ねてきたので私は

「赤ちゃんです」

そう答えると


「ちょっとすみませんね
上がらせてもらいます」

そう告げて
警察官が2人部屋に入ってきた

「赤ちゃんはどちらに?」

「此処です」


私はクローゼットを指さした

すると警察官はそこは開けずに
一旦外へと戻り
無線を使って連絡した


こうして私は警察に連れて行かれ
赤ちゃんも運び出された


私は普通の大学生から
犯罪者へと変わった

次の日
お母さんが駆けつけた


私は私の知らない外で
ニュースとなっており
ただ未成年であったので
顔も名前も伏せられていた

でも犯罪者は犯罪者

裁判も行われた



私は憔悴(しょうすい)しきっていたが
思う事がある


どうして
先輩は有罪にならないのか
先輩も共犯者じゃないか

どうして
私だけが罪を被らないといけないのか

どうして



どうしてなんだろう





ほな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?