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【パン屋というお父さん】 #897


お父さんはとても家族思いで優しく
近隣の住人からも評判が良かった
私たち姉妹も愛情を注いでくれていたし私たちもお父さんが大好きだった

お父さんはお母さんと一緒にパン屋を経営している
お店のパンも評判が良く
時々雑誌や新聞にも載った

お店のパンは店でも販売するが近くのホテルにも卸している

ホテルにはお父さんがいつも配達に行っている

今朝も朝早くホテルに配達に行った

ホテルに配達を終えたお父さんはいつも通りいつもの道を車で帰る途中に突然目眩を起こしハンドル操作をミスし
道路脇の電柱にぶつかって止まった

電柱にぶつかる寸前に投稿中の小学生を巻き込み重軽傷者二人と死者一人を出してしまった

お父さんも重症を負い救急車で病院に搬送された


お父さんは入院したまま告訴され
退院後に懲役10年の判決が出た

事故前に体調の異変に感じていたが店まで近かった為大丈夫だろうと判断した
この時点で車を止めていれば事故を未然に防ぐ事ができた
そう判断しての判決であった

この事故はニュースでも報道された
事故を起こしたワゴン車にはデカデカとパン屋の名前が書いてある
パン屋からすぐ側の幹線道路での事故だった為に噂は一気に広がり
パン屋は閉店へと追い込まれた

お母さんと私たち姉妹は追われるように引っ越しをした

同情する声もあったが批判の声が圧倒的に多かった


お母さんは新しい街でパートに出た
家も一軒家からアパートに変わった
前の家は売って慰謝料に当てた

私たちの生活は一転してしまい
いつも何かから逃げているような気持ちになった
お父さんがしてしまった事はとても悲しい事だけれども
私たち家族は今でも変わらずお父さんを愛しているし
早く戻ってきて欲しいと思っている



お父さんは8年で帰って来てくれた
私たちはもう成人して働いている
出所したお父さんはすっかり老けてしまっていた

お父さんは出所後に最初にした事は被害者の元へ謝罪にまわった事だった
死亡した家族の内一組は線香をあげさせてもらえたが
もう一組からは門前払いされた
その他の重軽傷を負った家族は受け入れてもらえた

お父さんは毎年事故があった日には二組の家族の元へ訪ねて行った
三年目には門前払いしていた家族も受け入れてくれ線香をあげさせてもらえた

それからも毎年毎年事故の日には必ず足を運んだ

十年経った時に一組の家族から言われた
「死んだあの子はあなたの焼いたパンが大好きだった
もし良かったらパンを焼いてやってくれないか」

お父さんは涙を流して約束した

お父さんは出所後はもうパン屋はしておらず警備員のアルバイトをしていた

お父さんは家に帰り急いで材料を買い集めパンを沢山作った
そしてそのパンをその家族の元へと持って行った

するとその家族から言われた一言

「もうアナタの誠意は伝わりました
私たちの息子は前に言ったように
アナタの焼いたパンが大好きでした
ですので息子の為にももう一度パン屋をしてもらえないか」

お父さんは驚いた
でももうお店もないし道具も何もかも買い集める費用が全くない
その事を告げると
アナタの事をメディアで紹介させてくれないかと言われた
お父さんは困惑した
犯罪者である自分がテレビなどに出るのはおかしいと

すると
反省し罪を償ったのだから新しい出発をする権利がある
そこのご家族のご主人はテレビ局のプロデューサーだった

「もしアナタさえ良ければ
他の家族にもこの事を伝えて
反対者が居なければ前向きに考えてもらえないか」

お父さんは被害者家族からの強い要望だったので頭を下げるしかなかった

次の週に連絡があった
皆同じ意見だと

お父さんは向き合う事にした


お父さんのドキュメンタリー番組は全国で放映され大きな反響があった

次の月には空いている店舗があるから軌道に乗るまで空家賃で借りて欲しいとテレビ局に連絡があり
テレビを観た学生らがクラウドファンディングを立ち上げ多くのお金を集めてくれた

そしてテレビが放映されてから半年後にとうとう新しいお父さんのパン屋が再び開業した

以前のパン屋の隣街でのオープン

オープン時にはそれぞれの家族が駆けつけてくれた

テレビ局も取材に来た

お父さんのパン屋は評判になり遠くからもお客様が来てくださるようになった

事故を起こした日はパンを無料で配布した


お父さんは死ぬまで反省をし続けた
毎年の墓参りは欠かさなかった




ほな!

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