【動物園のカバ舎】 #997
ある日の事
殺人容疑で男が捕まった
動物園でカバの飼育担当をしている男だった
この男は園内でも評判の優しい人だった
カバの世話をするだけでなく
カバの素晴らしさを人々に知ってもらおうと色んな企画を立てて
動物園の来園者を楽しませた
この動物園は郊外にあるものの比較的人が住む住宅地にほど近い
だから小学生や中学生が年間パスポートを持っており
放課後などに友達同士や一人で遊びに来る子が多い
ヤスシもそんな中の一人だった
小学三年生のヤスシはあまり友達が居ないのか
つるむのが嫌いなのか
はたまた自由が好きなのか
いつもほぼ毎日一人で遊びに来ていた
だから動物園の職員とは仲がいい
特にカバの担当する田中さんとは仲が良かった
ヤスシがカバ好きだったのと
田中さんの真面目で熱心な人柄に自然と惹かれたのか
年齢は倍以上違うがまるで親友のような間柄だった
田中さんもヤスシを気に入っていた
カバのケメ子とマル男もヤスシを気に入ってたと思う
ヤスシが現れるとあんまり動かない2頭がとてもアクティブになるし
どちらかと言うとヤスシが居る側に頻繁に来る
喜んでるみたいだ
ヤスシと田中さんはLINEの交換もしている
休演日に家に遊びに行った事もある
田中さんの部屋は動物に関する本やDVDや置き物が沢山あった
二人は本当に仲が良かった
しかしあるLINEから
間違った方向に進み出した
いつもずっと明るいやり取りだったのに
仲が良くなり過ぎたからなのか
ヤスシが悩み事を送って来るようになった
それはヤスシのお父さんだった
ヤスシのお父さんは暴力的でヤスシもしょっ中殴られていたが
特に酷いのはお母さんにだ
一番殴られていた
お父さんは僕が居ても構わずお母さんを殴る蹴るする
お母さんは必死に許しを乞い謝り続けるが一向に止まない
このままではお母さんが死んじゃう
田中さんは胸を痛めた
なんて酷い事をするのだ
僕がヤスシを守ってあげないといけない
そういう気持ちが芽生えた
こうして二人の関係は更に密になった
昼間の動物園ではそんな話はしない
もっぱら田中さんの邪魔をしないようにそっとカバと田中さんを見つめていた
週末は忙しいから邪魔しないように動物園には行かなかった
週末はだいたい図書館で過ごした
しかしLINEでのやり取りはエスカレートして行くばかりだった
そしてとうとうヤスシはこんな言葉を繰り返し送って来るようになった
「お父さんを殺してほしい」
だった
このままではお母さんも僕も死んじゃうって
流石に最初は田中さんも間に受けていなかったが
ある日動物園に現れた時に左手にギブスをしていた
動物園では階段から落ちたと言っていたけど
実際にはお父さんにぶっ飛ばされた時に何処かにぶつけて折れてしまった
LINEで正直に言ってくれた
田中さんは真面目に本当に何とかしないとヤスシくんもお母さんも死んでしまうかもしれないと考え出した
こうなって来ると
真面目でのめり込むタイプの田中さんは現実的にヤスシとお母さんを救わねば
そう考えるようになって行った
昼間はお互いニコニコ喋って過ごして
夜にはLINEでドロドロの話をする
ヤスシのお父さんはサラリーマンだが
どちらかと言うとエリートの方だったようだ
住まいも持ち家だし家の車はベンツだし
ヤスシが小学三年生でスマホ持ってるのも裕福な家でないとなかなか無いと思う
だから近所の人はまさか家の中でそんな事が毎晩のようにあるとは思っても見なかった
田中さんは決意した
僕はお父さんを殺すと
殺人がどんなに恐ろしく
そして人間として決してやってはならない事である
もちろん田中さんは冷静であれば理解できるし思い止まっただろう
しかし今の彼は自己暗示なのか
とにかく親友のヤスシを救いたい
そしてヤスシの大切なお母さんも救いたいそう思っていた
彼なりの綿密な計画を基に殺人は決行された
そして田中さんは殺害の後自分から警察へ出向いた
こうして田中さんは殺人の容疑者として逮捕された
お父さんの葬儀が終わり数週間が過ぎた
ヤスシ自体はお父さんが居なくなってホッとしていたが
お母さんが変になっちゃった
お母さんはあれ程お父さんに殴られていたのにお父さんを愛しており
そのお父さんを亡くした事によって精神が病んでしまった
そしてその間ヤスシも警察で事情聴取された
田中さんとヤスシのLINEが見つかり詳しい話を聞きたいという事だった
ヤスシは小学生だし実行犯では無いので起訴はされなかったものの
お母さんの精神状態も悪いので施設に引き取られた
田中さんは自己の営利目的ではなく
救いたいと思い殺害したという所で
情状酌量の余地ありで刑期は大幅に縮まった
田中さんはケメ子とマル男が気にかかった
ヤスシに会いたいとも思った
出所したら会えるかなぁ
ヤスシも田中さんを案じた
会いたい
ほな!
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