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【父の履歴】 #751


とても優しくて
頭も良く
繊細で
その姿は
きゃしゃで
顔立ちは中性的で男か女か一見すると分からない
ファッションも同様にどちらとも取れる
今は大学生である

彼には今お付き合いを始めたばかりの女性が居た
同じ大学に通う同級生
付き合って2か月でキスはしたけど
まだ最後までは行ってない
普通に真面目なお付き合いだ

3か月の終わり頃
やっと2人は結ばれた

ところが結ばれた後にそれは起こった

彼女のマンションに怖い兄ちゃんが3人入ってきた

「おいナオミこいつ誰や?」

「大学生さん」

「大学生かおいコラっ
オマエな俺の女に手ぇつけたやろ
おいナオミやったんか」

「ゴメン」

「おいコラっどう落とし前付けてくれるんじゃ
ちょっと事務所まで来てもらおかっ」

彼は案外アッサリ応じた

彼が逃げないように男は肩を組んで歩く
他の2人はこれまた逃げないように
肩を組んできた男の反対側と後ろを歩いた

程なくして事務所に到着し
中に連れ込まれた
彼は自分から椅子に座った

「おいコラっ
誰が座ってええっちゅーとんのんや
立たんけぇコラっ」

その後もああだこうだ言っていると
組の上層部の人たちが帰ってきた

「おいっ静かにせんか
オマエちょっと来い」

そう言ってわめいていた兄ちゃんは奥の部屋に連れて行かれた
彼はアッサリ解放され自宅へと帰った

その後
その兄ちゃんを見た者は居ない


次の日
大学に行っても彼女の姿が無かった
連絡しようか少しだけ迷ったが
やめにした

彼女は居なくなったが毎日は穏やかに過ぎている
来年は4年生
就職をそろそろ考えなきゃいけない

これと言って目標が無い
でも普通のサラリーマンとかは考えにくい
何がしたいんだろう

父の経営する会社に就職するのもひとつの手だが
先ずはやはり外の世界も知っておくのも大切だ

結局
何となく統計調査分析を行う会社に就職した

ちょうどサラリーマンになってから5年が経とうと言う頃
父から話があった
自分の体に腫瘍ができたそうで
もうそんなに長く無い
だから今のうちに会社の引き継ぎをしたいから今の会社を辞めて自分の会社に入ってくれと頼まれた

彼はいつかはそうなるだろうと思っていたが
思いの外早かったのでビックリした

父の会社は文具などを中心とした雑貨の卸をしている
大きいわけでも小さいわけでも無い
そこそこの会社
一般の人は知らないけれど業界の人は知っていると言った感じ

父には双子の弟が居てそのおじさんはヤクザの親分をしている
大学生の時に無理矢理連れて行かれたあの組のボス
彼が双子の兄の息子だと知っているのは組長以外上層部の数人だけ
だからあの時の若い衆は知らなかった

僕は会社で一所懸命勉強し働き父が生きている間に吸収できる物は吸収しようと真面目に取り組んだ
彼は頭が良いので飲み込みも早く
中性的な容姿と優しい口調で話すので他の従業員とも直ぐに打ち解けられた


父の会社に入ってもうすぐ2年になろうかという時に父は入院し
経営権は彼に移った

それから1か月後父は亡くなった
葬儀は身内だけで簡単に済ませた

会社に父の弟の組の偉い人から電話があった
時間を少しだけほしいと連絡があり
指定された場所と時間に行くと1人で現れた
普通こういう人たちは舎弟とかを連れ立って来るイメージなのに1人なんだ

ホテルの地下駐車場へ一緒に行き車に乗った
何処へ行くのだろう

何処へも行かなかった

誰にも聞かれたく無いという事でこの場所を選んだそうだ

偉い人から手紙を渡された

読んで彼は驚いた
双子だと思っていた父は双子では無く
会社社長をやりながらヤクザの組長もやっていたのであった
この事を知っているのは組のナンバースリーまでの3人しか知らない

手紙には書いてある
ヤクザの組長はオマエには向かない
ついで欲しいのは山々だが
それはオマエに任せる
もしやってくれるというのであれば
3人はチカラになってくれる
他所の組はどうか知らんがうちの組では別に組長が偉そうにする必要も無いし強く無くても良い
父さんだって強く無い
この組は父さんの父さん
おじいさんから受け継いだだけだから
俺もヤクザであってヤクザじゃ無い
やりたく無い時はこの組は解散する
それは3人には伝えてある
無理意地はしない
考えて答えを出せ

こういう訳だったのか
彼はおじさんに何度か組事務所に連れて行ってもらった事があった
おじさんと思ってたのに父だったとは

彼はクルマの中で少しだけ組長としての父の話を教えてもらった
不思議な感覚だった
会社社長として従業員との関係性は人間としても良好な関係であるが
あくまでも働いて給料を貰う
そういうものがペースにある
まぁそれが普通だ
しかしなんだろうヤクザの人の話を聞いているともっともっと心の奥底で繋がった人としての関係性のみで繋がっている
そんな気がした

彼が組長にならないと組は解散
非常に責任感のいる選択だ
その人に言われたのは自分たちには気を遣わなくて良いと
しかしもし組の解散という事になると
特に若い衆が自由になりヤクザよりタチの悪いグループができてしまうかもしれない
組長は生前こういったヤンチャなあぶれ者たちを組で引き取り人間としての誇りと生き方について指導していた
そう聞かされた

そこで彼はふと疑問に思った
大学生の頃のあの一件
あの時のあの兄ちゃんはどうなったのか聞いてみた
するとケジメの為に海に沈めたらしい

うん?
ケジメ?
殺したの?

更に彼はどういうシノギで運営しているのか聞いた
組長は昔ながらみかじめでするように言われていたが
現代社会ではそんなもんでは食ってはいけないので
主なシノギはクスリとサギをしているそうだ

これって最低な行為じゃないか
もし解散したらタチの悪いグループができるって
これ以上の悪いことってなんだ?

彼は決めた

「解散です」

偉い人は意外そうな顔をした
そしてその後
彼に罵声を浴びせたところで
クルマの窓をコツく人影が
警察官だった
彼は保護され偉い人は連行されて行った
こっちを悲しそうな目で見ている

終わった

警察で事情聴取を受けた後解放され
彼は会社に戻り仕事を黙々と続けた

組は解散となり皆が堅気の人間になった
一旦は堅気になったものの別の組に拾われる者も中にはいたが
もう彼には関係ない

彼は会社を守り育てて行くだけだ






ほな!

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