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【直ぐに忘れられる人】 #818


私は直ぐに忘れられる
同じクラスメイトなのに
名前も顔も直ぐに忘れられる

酷い時には担任の先生にすら
忘れられる

友達は出来ても
直ぐに飽きられて
忘れられる

私はまるで幽霊のようだ

イジメられる訳では無い
恐らく視界に入らないのだ
だからと言って
のけ者にされている
というのでは無い
その都度都度
例えば
遠足なんかでも
独りぼっちで食べる
というのは無かった
誰かしら誘ってくれる

でも
忘れられてしまうのだ


私は高校生になり
何を思ったのか
忘れられたく無い願望が強くなり
アイドルのオーディションを
受けまくった

全然受からない

でも諦めずに
オーディションを受け続けたら
ひとつのオーディションに合格した

アイドルグループの候補生になれた

一所懸命にレッスンに励んだ

高校のクラスメイトは
私がアイドルだというコトは知らない

もちろん候補生だから
テレビなんか出るコトは無い

劇場には出る

一度クラスメイトの男子が来ていたが
私には気付いていなかった

私は頑張ったので
候補生からメインのレギュラーチームに昇格した

1番後ろだったけど
テレビに出られた

キラキラできた

嬉しかった

でも
この気持ちを共有できる
友達はいない


私はレギュラー生として
必死に努力した

でないと
他のチームメイトみたいな
花が私には無いから

誰よりも先にレッスンに来て
誰よりも遅くまで練習した

そのお陰で
学校では眠りがちだった

不思議なコトに
テレビに出ている筈なのに
誰も知らない

後ろにいるからか?


高校も卒業し
私はアイドル業に専念した


二十歳の時に奇跡が起こった
新曲でセンターをさせて貰えるコトになった
私がセンターに選ばれても
大きな祝福は無い代わりに
やっかみも無かった

私はテレビでど真ん中で踊って歌って
歌い終わった時には
タモリさんにも話しかけられた

でもだからと言って
それ以上が無く
雑誌やテレビの取材も無く
ピンでバラエティに呼ばれるコトも無く
ドラマなんかのオファーも無い


だから
自分からマネージャーに頼んで
映画のオーディションを受けまくった
何度も落ちて
やっとつかみ取ったのは端役

それでも良い

一所懸命に台詞を覚え演じた

監督からは特に注文も無く
NGも出さず一回で終わった

映画は大ヒットしたが
その後
別に私には映画のオファーは無かった

だから私はまた
何度もオーディションを受けた

アイドルグループのセンターも一度きりで
また後方にまわされた


マネージャーにInstagramを勧められた

恐ろしい程にフォロワー数が少なかった
多分
私のInstagramの投稿が変だからかもしれない

だから面倒になり
やめてしまった


映画は何本か出させてもらった
少しずつだけれど
主役の人に近いところで
演技ができる立ち位置になってきた

だからと言って
メインのキャストでは無い

エンドロールの名前も
その他大勢の中に埋もれている


演技はそれでも楽しかった
だかは私はグループを卒業し
女優業に専念するコトにした



私のグループ卒業は
ニュースにもならなかったし
特別な何かも無かった
静かに幕を引いただけだった

それからが大変だった
マネージャーは私だけの専任では無いので
ほぼひとりでスケジュール管理やオーディションの申し込みなど全て行った

これだったら独立して
個人事務所でも同じじゃない
そう思った私は
社長に相談したら
独立を勧められた

送別会は無く
社長から
花束を頂いただけで
その場にはマネージャーもいなかった

新しい私の個人事務所は
一応名ばかりにはなるが
お母さんがしてくれるコトになった
面倒な事務もお母さんが買って出てくれた

私は毎日毎日
オーディションを受けた

独立してから
受かる回数が激減した

やはり事務所の名前は大きかったのかもしれない
それでも私は諦めなかった

ある日
やっとの思いで
ひとつの映画のオーディションに合格した

主役は皮肉にも以前所属していた
グループの女の子だった
その子は大人気で
このところずっとセンターで活躍している
テレビにもピンでバンバン出演し
大活躍だった

私から見ていてもキラキラしている


映画の撮影が始まった
この監督は偏屈なのか
職人気質なのか
どうも映画会社が勝手に決めた主役が気に入らなかったみたいだった

恐ろしい程のダメ出し
彼女は疲弊し
結局のところ
降板してしまった

映画会社は他のアイドルを当て込んできた
しかし監督は断ったらしい

これでこの映画は映画会社から離れた
インディーズ映画になってしまった
だが監督は人望があるようで
スタッフは皆ついて来た
役者も殆どが残った
もちろん私も残った
大した役では無かったけど


監督が助監督に話している声が聞こえた
監督は声がデカいから何でも聞こえる

「あの子だれ?
関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「あっ
あの子ですか
あの子はこの映画に出ている子ですよ

名前はぁええっとぉ
山田ナオミ
そうナオミちゃんです」

助監督は何やら資料を見て監督にそう伝えていた

そしたら監督は何を思ったのか

「ちょっとこっち来てみぃ」

来い来いされた

私は急いで監督の元へと駆け寄った

「はい」

「君ナオミってんだな」

「はいそうです」

「役者やって何年だ」

「今年で4年目になります」

「代表作とかあんの?」

「いえ
端役ばかりでしたので」

「そうかぁ
ちょっとなぁ
このここの台詞やってみ」

そう言われたのは
主役の台詞だった
しかも
大泣きしながら
徐々に激しくなり
最後には絶叫する
という難しいシーンだった

どうせやった所で何かが変わる
という事も無いだろう
そんな気持ちもあったから
半分ヤケッパチ半分リラックスして
演じた

そしたら
もう一回やれと言われた

だからもう一回やったら
何度も何度も同じシーンをやらされた

気が遠くなりそうになったが
頭も覚醒し
気が付いたら演じている
その人自身になった気持ちになった

すると監督から

「OK」

の声が聞こえた

「おい
この子で行くぞ」

私は主役になった
突然に

その日以来
私は鬼のように役に没頭した

驚いたコトに
NGはほぼ無かった
あったとしても
私では無く
他の演者や大道具や小道具の変更によるものだけたった


撮影は無事にクランクアップした

大手の映画会社が引いたので
配給先も決まらないと
見越していたのか
監督をはじめスタッフが
クラウドファンディングを既に始めており
目標金額の2倍のお金が集まり

日本中のミニシアターで上映も決まった
各国の映画祭にも出展した

モントリオール映画祭と
カンヌ映画祭からお声がかかった

やはり日本映画はフランス人に受けが良いようだ
(モントリオールもフランス語圏である)


モントリオールでは監督賞
カンヌでは審査員賞と監督賞
それになんと女優賞を頂いた

何というコトでしょう

きっとこれで道は開かれる

大手の映画館でも上映が決まった
私の取材も沢山オファーがあった
事務所へは出演のオファーがあった

30歳を目前に
私はついに
星を手に入れたのだ


私は映画に出まくった
特にあの監督作品には常連となった
主役であったり
脇役であったり
何でもやった

もう演じるのが楽しくて仕方がない

付随して
大手のブランドのアンバサダーなども就任したり
地元の観光大使にもなった



もう忘れられるコトは無い

しかし
世の中そんなに甘くは無かった

プライベートでもパートナーとなった
監督と3年間だけ夫婦生活を送っていたが
離婚した途端
私の映画人生がプツリと音を立てて
千切れてしまった

映画が無いなら
テレビだろうと
テレビ局に挨拶も兼ねて
営業に行ったが
会ってはくれるものの
無しのつぶてであった

舞台なども考えたが
どうせ結果は同じだろう



私は引退宣言をせずに
引退したカタチとなった

40過ぎの芸能界しか知らない
私が今から何をすると言うのだ


だが
世間はありがたいコトに
あっという間に私を忘れてくれた
地元へ戻っても
観光大使だったにも関わらず
街を歩いても誰も知らんぷり


お母さんと一緒に地元へ戻り
コツコツ貯めたお金で
喫茶店を開いた

若くしての隠居生活


でも
1番合っているのかもしれない
こんな生活が
忘れられる
覚えてもらえない

そんなコトはもうどうでも良くなった

常連のおじさんたちには
ちゃんとナオちゃんって
覚えてもらっているから

店のテレビには
かつてのアイドル時代のチームメイトが食リボをやっていた





ほな!

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