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アカウンティング(企業会計)の基本㉕:「次世代管理会計の進展」を読んで、大切そうなことをまとめてみた

次世代管理会計の進展(上總康行 著)を読んでみました。

この書籍は全12章で構成されており、各章とも非常に興味深い内容でした。
その中でも、第4章の「意思決定会計と人間心理」が特に面白いと思ったので、その内容をメモしておこうと思います。

※ このnoteのまとめ(メモ)には、個人の解釈が多分に含まれているため、少しでも本の内容が気になった方は、ご自身で読んでみてもらえると嬉しいです。


意思決定の現状

経営者の意思決定は、企業経営において最も重要なタスクであるのは、いうまでもない。現場の経営管理がどんなに優れていたいとしても、経営者が適切な意思決定をしなければ、現場の努力は徒労となりかねない。

しかしながら、時々の状況の変化に応じて、経営者が柔軟かつ適切な意思決定をすることは容易ではない。むしろ、見積もりが大きく外れた計画をそのまま実行してしまったり、一旦実施された投資案件に対して、それが収益力を失ってからも撤退することなく継続してしまうようなケースが散見される。

すなわち、経営における意思決定は、必ずしも合理的に行われるわけではない。このような合理的ではない意思決定がなされる背景には「人間の心理」があり、心理学からの知見が有益な示唆を与えてくれることがある。

意思決定における心理的要因

意思決定がうまくいかない理由

経営の意思決定がうまくいかない理由は、例えば、以下のようなものがある。

  • 適切な情報を収集しきれなかった(情報不足)

  • コストや利益を正確に把握しきれなかった(見積精度の問題)

しかし実際には、上記のような理由に加えて、意思決定者の内面(心理)が、うまくいかない意思決定の問題となるケースがある。

意思決定に関する心理学

ここでは、意思決定に関する心理学のキーワードをいくつか記載する。

ヒューリスティック
心理学の領域では、直感や経験に頼る簡便な思考方法のことをヒューリスティックという。人間は複雑な問題を解く際に、ほとんどの場合、手順が定式化されたアルゴリズムを実行しておらず、ヒューリスティックに頼っている。

ヒューリスティックスには、「素早く簡単に物事を判断でき」というメリットがあるが、逆に「判断を誤りやすい」というデメリットもある。

プロスペクト理論
プロスペクト理論は、1979年にカーネマンとトベルスキーが提唱した、心理学と行動経済学の理論である。この理論は、人々がリスクや不確実性のある選択をする際にどのように意思決定を行うかを説明するものとなっている。

プロスペクト理論の基本的な考え方は、以下の通りである。

  1. 参照点
    人は絶対的な結果ではなく、自分が基準としている「参照点」からの変化に基づいて判断する。たとえば、100万円を持っている人がさらに10万円を得ると感じる「喜び」と、10万円を失う「悲しみ」は異なる強さを持つ。

  2. 損失回避
    人は「損をする痛み」を「得をする喜び」よりも強く感じる。たとえば、10万円を失うことの心理的な影響は、10万円を得ることよりも大きいことが多く、この傾向を「損失回避」と呼ぶ。

  3. 価値関数
    人が結果に対して感じる価値は直線的ではなく、次のような特徴がある。

    • 利得(得をすること)に対しては、徐々に満足感が減少する(例:10万円を得る喜びより、20万円を得たときの喜びの増加分は小さい)。

    • 損失(損をすること)に対しては、急激に痛みが増加する。

  4. 確率の重み付け
    人は確率を客観的に扱えない傾向がある。

    • 極めて低い確率(たとえば、宝くじで当たる確率)は過大評価されやすい。

    • 確実に近い確率(たとえば、99%)は過小評価されやすい。

心の会計
心の会計は、1985年にセイラーが提唱しました考え方である。この理論は、人々が自分のお金をどのように考え、使うかについて、心理的な「枠組み」を作っていることを説明する。

通常、私たちはお金を一つの全体としてではなく、特定のカテゴリー(「心の財布」)に分けて管理する。この結果、同じ金額のお金でも、その使い道や状況によって異なる価値や感情的な重みを持つようになる。

心の会計の例

  • 用途による区分
    たとえば、ボーナスとしてもらった10万円は「贅沢に使う」と考えやすいが、同じ10万円を日々の給料の中から捻出するのは心理的に難しく感じることがある。

  • 支出の見え方
    現金で払うと「痛み」が強く感じられるため、使うのをためらいやすい。一方で、クレジットカードは支払いが遅れるため、出費の実感が薄れる。

  • 予算の設定
    旅行用、教育用、生活費、娯楽費など、自分の中でカテゴリーごとに予算を立てることがあるが、その場合、一方のカテゴリーが不足しても他のカテゴリーから補うのをためらうことがある。

サンクコスト
サンクコストは、すでに支払ってしまい、取り戻せないコストのことでである。意思決定をする際には、本来はこのコストを考慮すべきではない。将来の選択肢には影響を与えないため、合理的には無視すべきとされる。

経営者の意思決定に関連する心理的要因

経営者の意思決定を歪める心理的な8つの罠を纏める。

  1. アンカリングの罠
    当初に受け取った情報(アンカー)に引きづられて、判断をしてしまう傾向

  2. 現状維持バイアスの罠
    より良い代替案が存在する場合でも、現状維持の選択をしようとする傾向

  3. サンクコストの罠
    コストをかけた過去の選択がすでに誤りであると判明している場合でも、過去の選択を正当化しようとする選択を傾向

  4. 確証バイアスの罠
    自らの直感を支持する情報を探し求める一方で、反対の情報を避けようとする傾向

  5. フレーミングの罠
    物事の理解の仕方によって、同じ内容の異なる選択肢を違うものと捉えてしまい、結論に大きな影響が及ぶ傾向

  6. 自信過剰の罠
    自分の予測精度を過大評価する傾向

  7. 慎重さの罠
    不確実な出来事について見積もりする際に、過度に慎重になってしまう傾向

  8. 想起可能性の罠
    強く印象に残っている出来事を過度に重視してしまう傾向

現実世界では、以上のような「人間の心理」と伴に意思決定がなされることを認識したうえで、管理会計と向き合っていく必要がある。

以上です。

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