マガジンのカバー画像

連載小説「明日への逃避行」

10
神戸を舞台にした中編青春小説です。
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

明日への逃避行 1話「Lovers sing⑦」

明日への逃避行 1話「Lovers sing⑦」

神戸三宮・東門街、三宮の山側に位置する歓楽街を信哉は歩いている。信哉のバイト先がある北野坂は異人館街等の観光地の入口である為まだ綺麗さを保っているのに対して、東門街は雑多な飲み屋街で夜は黒服のキャッチが脇で列をなしている。地元で有名な「その筋の人」が絡む店などもあるらしいので普段なら好んで行く事はない。
そんな東門街の北側入口近く、生田神社のすぐ脇に建つ雑居ビルの中にライブハウス『ART STAG

もっとみる
明日への逃避行 1話「Lovers sing⑥」

明日への逃避行 1話「Lovers sing⑥」

信哉は商学部棟の玄関ホールに立っていた。商学部は岡本学園大の中で最も歴史が古く、去年まではキャンパスの中で一番奥の区画に学部棟が立っていた。正門から徒歩20分かかる立地で学生からは僻地と呼ばれていたらしい。しかし、建物の老朽化により去年から新校舎が建てられた為、今は学内で一番きれいな建物だ。学部棟内にスタバがあるため、他の学部生も集う溜まり場となっている。
「お、細野おったやん。」
細野健吾は商学

もっとみる
明日への逃避行 1話「Lovers sing⑤」

明日への逃避行 1話「Lovers sing⑤」

フラワーロード付近、神戸国際会館の裏手に位置する少し奥まった場所にカフェ『river』はあった。
木戸詩織がアルバイトをしていると言う店だ。先程彼女がアパートに帰って来るのを見ているため、店にいない事は分かっている。摂津本山のアパートからここに辿り着くまで、和樹は「彼女の素性調査も探偵の仕事」と3回は口にしている。3回も言うという事は自分への言い訳なのだろう。
 翔はメニュー表を見ながら悩んでいた

もっとみる