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映画 神々の山嶺 感想

谷口ジローのファンだったので楽しみでした。
満足。DVDでたら欲しい。

丁寧に描かれた、谷口画風にあわせた美しい背景画は吉田博の版画も彷彿とさせてどの場面も美しい。
人物の目線や手つきの動きにはリアルな表情。
山に憑りつかれて本能的といっていいくらいに山を目指す人達の話。

自分だったらこんな痛くつらい苦しい思いして山登りなんてできないし、落ちそうになるシーンなんかは怖いんですけど、この純粋さと緊張感がいい。
そして「何でそんな危険を冒してまで山に登るんだ」という疑問にきっと納得する答えを出すのは難しいと思うんですが、だから見たくなる。謎があるから。

原作は随分前に出版された小説と漫画なので、ストーリーについては納得して見たしやっぱり今回は映像がお楽しみだったので、映像についての感想が主になってしまいますが。

最近は日本は山程アニメーションが作られて、背景画も人物絵もそりゃ技術は上がってるんだろうとは思うんですが。

日本のアニメの背景画の技法って
「近景、中景、遠景のブロックに分けて遠近感をつける」
「近いものは影も色も濃く、遠くは空気遠近で青みをつける」などのお約束-多分過去の有名な背景職人が築き上げてきた、誰にでも伝わる、誰が描いてもそれなりに仕上がる背景技法があるんだと思うんですが-にのっとっていて、乗っ取りすぎていてどの絵見ても「またか」って思っちゃうんですよね。マンネリ。

例えば同じ黒猫や茶トラ猫で見た目がたとえ酷似していたとしても、表情や動作がちがったりしていて見飽きないし同じ猫はいない。それぞれに違う新しい魅力がある。
背景だって自然の風景はどれも作り上げるパーツは岩や木と同じだとしても一歩ごとに違う風景になっていくわけで、季節でも天気でも時間帯でも違う、だから山歩きとかダイビングとか飽きないんだと思うんですよね。
尽きない変化を見せるから、興味も尽きない。
動物にしろ風景にしろそれが「生きてる」という事だと思うんですが。

技法優先だとそれが「死んだ背景」になっちゃうと思うんですよね。

現場だととりあえず納品する上で一定の質を提示しないといけないから、技法で模索したり冒険してる暇はないのかも知れないんですが。

昔の赤毛のアンとかラスカルの背景画は今のお約束で描かれてないから今見ても新鮮で、描き手の試行錯誤の軌跡で、生きているなあと思います。

この映画は人物絵の動きもリアルな表情があるので岩をつかむ手1つとっても見ていて脳に心地いい。描き手の「生身の人間を表現したい」という意思が心地いいといいますか。
合理的に考えたら説明ができない「山に登りたい」という生身の衝動を伝えるんだからそういうの大事だと思います。
シナリオとマッチしてて、心地よいです。

これまた日本アニメをディスってすみませんが、最近の日本アニメのキャラ絵は萌え絵の真似しあいで生身から乖離しすぎだし、それも性的魅力にのみフォーカスしているというか。
性的魅力 「も」 あるキャラクターならいいんですが、
性的魅力 「に特化した」 キャラクターって、それが性癖じゃない人にとってはもう無価値になってしまう。

それ以上のものは現れないってわかるから薄っぺらいし、見ようという興味すらわかない。
貴重な休みの時間を他人の性癖に付き合わされるのもまっぴら御免。
そんなニッチな所に突き進んでどうするって思うんですけど日本アニメ。

それに人間の脳って、やっぱり魅力を感じるのは生身だと思います。
生身から乖離すればするほど魅力はない。
それを補おうとして、最近のエロ絵や萌え絵は性的魅力のパーツの乳だの尻だのをあり得ないほど巨大化させた絵が増えてきてると思うんですが、魅力を感じないのは乳や尻の大きさのせいじゃないと思うんですよね。

竹久夢二の絵なんかは顔やポーズ、指先に生きた表情があったから今見ても何かを感じさせるし、それが魅力なわけで。

神々の山嶺のパンフレットから 技法で言えば近景暖色、遠景寒色というお約束はちょっとありますが遠景の影の方が色濃く変化がある。こういうの日本アニメだと多分ボツ食らっちゃうんじゃないかなあ


この映画はいつもの日本のアニメのお約束とは違う、人間が都度都度考えて描いた絵と色と動きで描写されている生きた美しい映像が脳にキモチイイです。
こういうのが見たかった。

岸壁や雪原という変化をつけるのも難しい背景でも、二つと同じ絵にしたらいけないから、描く人も大変だとは思いますが。
でもこの映画はどのシーンもマンネリと無縁な、生きた、尽きない変化をする美しい映像です。

絵の話ばかりしてしまいましたが、音楽もいいです。
サントラが早くもAmazonMusicにありました。

https://music.amazon.co.jp/albums/B0B46TYFTL?ref=dm_sh_1e11-c8b8-8d56-6ccc-3c878


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