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エンタメ化は加速し、長寿健康にシビアかつ、環境と弱者へ配慮するブランディングと実行がなされていく

音楽、ファッション、映画、アートなどなどあらゆるカルチャーに造詣が深い湯山玲子さんは、深い知識と経験に基づいて自然にあふれ出るキャッチ―な言葉を操り、メディアのコメンテーターとしてもおなじみです。30年後の食はどうなっていますか? という問いにも、スパスパスパーンと“預言”してくれました。「おたく化する食」「スーパー魯山人の出現」などなど、湯山さんから飛び出すその言葉の真意はいかに?

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湯山玲子(ゆやまれいこ)
著述家・プロデューサー。クラシック音楽、映画、アート、演劇、音楽、食、ファッションなど多彩なジャンルで活動。時代性や社会性を加味した独自の視点でメディアのコメンテーターとしても活躍。Shop Cahnnelで自らのファッションブランド「OJOU」、「湯山玲子のカルチャークラブ」というオンライン&体験型の教養サロン、新しいクラシック音楽の聴き方を提案する「爆クラ!」などのユニークな企画も主宰。12月19日(日)に、岐阜県高山市文化会館大ホールにて、コトリンゴの名トータルアルバムを彼女自身が交響曲化し、首藤康之がオリジナルで踊る『ツバメノヴェレッテ コトリンゴ×首藤康之×オーケストラ・アンサンブル金沢で送る新時代のダンス交響詩』をプロデュース。

OJOU
https://www.yuyamareiko.net/ojou

湯山玲子のカルチャークラブ
https://yuyamareikocultureclub.com/mypage

爆クラ
https://www.bakucla.com

「美食のおたく化」スーパー魯山人の目に耐えられるハイエンドレストランができる

――単刀直入に伺います。30年後の食はどうなっていると思いますか?

湯山 まず「美食がさらにおたく化」しますね。今やエンタメの世界全体の傾向ですが、ひとりあたりが集めることのできる情報量が恐ろしいほど大量になっています。以前なら、たとえば私がつとめていた「ぴあ」では、年間100本の映画を見なきゃいけないってことになると、もう人生をかけて映画館に通っていたわけですよ。でも今はサブスクや配信で何本でも自宅で映画が気軽に見られるようになって、1年間で100本の映画を見るハードルはものすごく低い。決まった情報で満足する人々が大勢いる一方、ジャンルを愛する人間に関してはものすごく教養値が上がってきていると思うんですよ。教養値が高くなるということはつまりおたく化で、美食に関してもそうなります。おいしいのは当たり前、その上で何が違うのかというハイエンドなクリエイティブの勝負になってくる。「肉は腐りかけがうまい」などというデカダンスも今や、熟成肉として珍重されているわけで、それがもっと先鋭化する。

――昔はテレビや雑誌だけだったのに、SNSが盛んになって、ネット上には食に関する情報が溢れかえっていますもんね。

湯山 フォワグラなんて、ちょっと昔は、一般人は未経験だったのに、今やファミリーレストランで食べられます。昔だったら「美味しんぼ」みたいな漫画から知識を得て、それを読んだ読者が店を調べて、ようやく食べに行って、といった時間のかけ方があったけれど、今や、情報を得たらすぐに店を食べログでチェックして、予約はネットでやって、という風にどんどんスピーディーに動いて気軽に美食体験ができるお金さえあれば、毎日でも美食ができるわけですよ。美食評論家みたいな人たちだって、以前はおじさんがチラホラいたくらいですよね。でも今では男も女も老いも若いも、国民総評論家時代ですよ。どんな人でも美食を1年ほどやり続けると、経験も知識も蓄積されていって、それなりのことを言えちゃうようになる。目が肥えてくる、舌が肥えてくる。ということは、みんな魯山人や辻静雄になっちゃうわけです。魯山人がこれまで言ってきたような「天然のものがいい」とか「旬を選ぶ」とか、もう当たり前すぎて評論の切り口にもならない。

――みんなが魯山人ですか・・・料理人にとっては大変な時代ですね(笑)。

湯山 その状況を楽しめる料理人だといいですよねぇ(笑)。日本中にいるスーパー魯山人の鬼のような目に打ち勝つために、料理はどんどん先鋭化してきますよ。ハイエンドレストランの時代がやってくるでしょう。思えば「エル・ブリ」はその先駆けだった。食が先鋭化して、それから先がどうなるかってことですね。だから生半可な、たとえば「うちは産直です」といった言葉のスペック以上の、本当のクリエイティブが求められる時代になると思います。私は結構前から、美食に関してはクリエイティブしか求めないです。食材に対してこんな解釈があったのかっていう発見に喜びを感じます。ミシュランの採点も、シェフのクリエイティビティにもっと重きを置いてくるんじゃないですか。

――そのミシュランのような、レストランを採点するってどう思いますか?

湯山 順位づけって本来、表現にあるべきではないとは思いますが、食は日常であり「値段にあったおいしいものを食べたい」という人々の願望は強いので、揺るぎないでしょうね。でも、もう、今の時代、表現全般に順位付けは避けられないですよ。漫才だってM-1が盛り上がるし、先日のショパンコンクールがこんなに話題になったのは順位付けをするから。反田恭平が51年ぶりに2位をとった! って盛り上がる。でも、入賞しなくったって、ものすごい技術を持っている人たちはたくさんいます。ただ、採点には「技術の向こう」が重要なわけで、ここにコンテストの癖が出てくる。つまり、入賞するために「傾向と対策」をいかにやるか、ってことになってくる。すでに行われているはずのミシュラン対策、ショパンコンクール対策、ということです。そう考えると嫌な時代ですよね。でも業界全体の盛り上がりと考えると、かならずしも嫌な時代とも言い切れない

――時代にウケるクリエイティブが大事ということしょうか。

湯山 それがものすごくおいしく印象的なひと皿であった場合、その先に行きつくのは、もしかしたら「まずうま」になってしまうかも。おいしいなんてもう当たり前で、おいしいとは別の味を求めていて。未体験の変な味なんだけど、新しい世界に連れて行ってくれるというかね。尿のアンモニアすら美食に取り入れる「仔牛のロニョン(腎臓)」料理とかですよ。地獄か天国で分けるとすれば、これまでは天国を見せることが美食だったけど、地獄を見せるなんていうのも出てくるんじゃないですか。たとえば「熟成ずし」って流行ってるでしょう。あれもギリギリを攻めていますよ。こんなに熟成ずしが流行る前、一週間以上熟成させたマグロを食べたことがありますが、香りがなくて、でもなんか、消えていく前のなんともいえない味があって、そこに「悲しさ」が漂う。「おいしくて楽しければいいや」というところで止まるのではなく、そこから突き抜ける芸術というか食の快楽がどこまで行けるのかみたいなことの熾烈な競争に美食界はなっていくでしょう。

――クリエイティビティ競争の熾烈化ですか。「エル・ブリ」以上のインパクトってどんなんでしょう(笑)。

「食のサプリ化」。ひと皿で満足する栄養フードが登場し、コンビニが健康食を牽引する

湯山 30年後に具体的にどうなっているかまでは予測できないですけどね。おいしいのは当たり前で、記憶に残すための「何これ?」な料理がさらに生まれていきますよ。でもこういう食は生きるためというより、ファッションみたいなものですからね。いっぽうで、生きるための食、つまり健康フードとかサステイナブルとか、そうした点から捉える食もどんどん注目されていくはずです。そのひとつが「人工肉」ですね。

――人工肉は話題ですよね。

湯山 これはSDG'Sの世界的風潮の元、確実に定着しますよ。まず、牛肉に対する意識が環境面からも健康面からも変わって来ていますからね。霜降り肉は伝統的な食文化としては残ると思うけど、普通の人たちは食べないものになるんじゃないかな。人工肉に関してはどのファストフードが先陣を切って導入するかに注目をしていたんですが、モスバーガーがやりましたよね。さっそく食べてみたけど、ボリューム感は肉以上かも。まだ売り上げはそんなにのびていないと思いますが、徐々にそういうものがマーケットとして広がっていきますね。ほかのファストフードも追随し、コンビニがやるようになったら、さらに加速しますよ。コンビニといえば、こういうのを見つけましてね(バッグからごそごそ取り出す)。

マカ

――マカ入りのクロレッツ? 知らなかった(笑)。

湯山 これで疲れも吹っ飛びますよ(笑)。すごいよね。スナックは機能性を謳いやすいから、こういうのがコンビニにはいっぱいある。30年後、食はますます「サプリ化」していくでしょう。プロテインバーも味や香りのバリエーションが多くてなかなかおいしい。朝ごはんに凝るとそれだけで一日が終わってしまう感じがするから、朝ごはんはサクッと食べて一日をスタートさせたい気分ってあるじゃない。そんなときにプロテインバーはよいのよ。あとはフレークね。コーンフレークだけじゃなくって、玄米フレークやドライフルーツ入り、ローカーボあり。オートミールブームもその一環でしょうね。

――そうした機能性フードがコンビニに並んでいることは違和感ないですね。ドラッグストアだってコンビニだし。

湯山 コンビニって、売り上げをビックデータ管理しているから、リアルマーケットが反映される。となると、最新重要キーワードは健康なんですよ。人生100年時代を意識して、10年前とは桁違いに健康意識が高まってるから、エクササイズ熱も高まっている。最近、みんな砂糖を敬遠するでしょ。甘い=うまいじゃないこともわかってきているし、糖質制限は業界の思惑を超えて、急速に一番化した。果物だって日本のものは甘すぎるという指摘がある。体にいいのか? というポイントが重視されると、果物の味も変わってくるでしょうね。やっぱり、おいしいことは大事だけど、一番は健康によいものを、という人たちは確実に増えていますよ。スープのレシピ本がすごく売れているのは、スープで抗酸化作用のある野菜をとりたいからという理由もある。玄米やモチ麦などの雑穀は、ちょっと前まで自然食レストランならではメニューだったけど、今はコンビニおにぎりがそれ。コンビニでいいわ、ってなっちゃう。

――コンビニで添加物にも気を付けるようになりましたからね。

湯山「この一食でいいわ」と思わせることは、すでに「食はサプリ化してる」ってことなんですよね。チンしたごはんに生卵と納豆とか、豆腐に何かのっけるとか、そういうものもひとつの「サプリ化した食」といえると思いますね。ごはんに生卵と納豆をかけて毎日食べていると、なんか、健康的には安心って思うじゃないですか。その健康的な安心感、毎日食べたい感も「サプリ感覚」でしょう。30年後は、「ごはんに納豆、生卵」的なスーパーサプリ的ひと皿がたくさん出てくるように思いますね。あと、健康という面でいうと、断食道場が流行っているでしょう? 30年後に絶対に出てくると思うのが、「食のリトリート」

――リトリート?

湯山 日常の生活から離れて、非日常的な場所で自分と向き合って心と身体を見直す、という施設のことです。そのフード版が出てきますね。断食道場もそのなかのひとつです。食生活強制矯正キャンプとでもいおうかな。これまでの食生活を徹底的に見直してくれる機関が、断食以外の方法でももっともっと増えていくでしょう。それが市町村でできるようになったらいいと思うんですけどね。町おこしになると思うのですが、ここで間違えちゃいけないのが、「地元素材を使った家庭料理」ではないこと。経験上、そういった伝統レシピは砂糖と塩満載なので。つまり、食の知識を持った先生がいて、こういうものを食べたらどうなるのかって講義をして。アスリートたちが運動をアドバイスして、食べつつ、走る!  現代人は皆、「このままの私を変えたい」と常に思っているので、「ライフスタイル矯正キャンプ」のニーズは確実に存在すると思います。

――それはいいキャンプですね。参加してみたい。今のままだと食生活はやばいぞ、と思った人は私も含めて駆け込みたいですよ。人生100年時代を生き抜きたいですもん。

湯山 断食道場から帰って来た人たちが必ずすることは、冷蔵庫の食材一掃なのだそう。価値観がガラリと変わるんですよ。あんな少ない食事で大丈夫だったんだって気づくんだって。もちろん、そんな考えは2、3日で前に戻っちゃって、また半年後に断食道場にいって、また帰って来て一掃して、の繰り返しだと思うけどね(笑)。でもやっぱり、健康を見直す意識は今以上に根付いていきます。だから、ほかに何もない。自分の健康を見つめるしかないという場所に身を置くということは大事でね。リトリートも断食もひとつの「体験型」であって、こうした体験型を含めて30年後は「食のエンタメ化」が進みます。

「食のエンタメ化」。アフターコロナの大移動時代。生産現場から食べるまでの体験型が人気に

――体験型の食といえば、グルメ旅が一番に浮かびますが。

湯山 そう。アフターコロナという点で、近々、旅ブームに火がつきますよ。コロナが収束したら、人の大移動時代が絶対に戻ってきます。なんらかの制限が付いているかもしれないけども、旅行熱って止められないですよね。そうなったときに何をするかというと、趣味を持って目的地に行くって人は実は少数派で、グルメじゃない人々も、旅先ではグルメになる。「食のおもしろ体験」施設が、地方でもっとできていくでしょう。成功してるのがご存じのように「恵比寿横丁」だし、高知の「ひろめ市場」ですよね。高知のひろめ市場がすばらしいのは、カツオのたたきの丸焼きブースなんかがさらりと存在していて、観光客だけじゃなくて地元も人もそこに来てガンガン飲んで楽しんでいるんですよね。観光客だけを相手にするような横丁や市場はダメですよ。「おカネちょうだい」が見え見えで、ちっともおもしろくない。地元の人たちを巻き込んだ体験型がこれからもっと増えると思いますね。

――湯山さんのプロフィールに「趣味は釣り」と書いてあるのを見つけましたが、釣りもエンタメですよね。

湯山 釣りは10年前からだらだらやっていたんですが、コロナで再開しましたね。葉山に隠れ家を借りたんだけど、それも大いに関係している。月に1、2回はかならず行って、釣って、釣った魚を料理屋におろして、寝て、夜にそれを食べに行くということをやる。 

――それはすごい! ご自分で握る「美人寿司」を主宰されているから、釣った魚をおろして、握ってっていうイベントもできるんじゃないですか?

湯山 熱海に別荘を持っている人のところで、やったことがあります。当日早朝に釣りをして、それをさばいて、ネタに仕込んで、ごはんを炊いて、シャリを作って、握って、お客さまをもてなして……これは自分史上最大の労働でしたね。でもね。そうした風上から風下までの食をトータルで体験するっていうのはすごく楽しくて。それが求められる時代がますます盛んになると思いますね。そしてそれに呼応して、レストランもどんどん新しいスタイルになっていくでしょうね。店を持たないレストランだってあるわけだから。

――ゴーストレストランですね。

湯山 レストランって本当に大変じゃないですか。ハード面の初期費用はかかるし、毎月の家賃、スタッフの人件費なども払っていかなきゃいけない。今回コロナ騒動があって、お客さんが来なくなると経費ばかりがかかって死活問題になることも、当たり前なんだけど、現実的な問題として直面してしまったよね。レストランって大変だぞ、そんな大変なことはやりたくないって人たちはコロナで確実に増えたと思いますね。でも料理を作るのは楽しいし、お客さんを喜ばせたい。ならば、大変な部分を避けて店を持てばいいわけで。ゴーストレストランは時代に合った形だと思いますよ。自分たちで集客してレンタルスペースでレストランをやったり、イベントをやったり。シェフが家庭に呼ばれて、ひとりいくらいくらで、と会費を決めてサロンみたいに料理をすれば、身ひとつで行けるし、お客さんもさっき言ったような「エンタメ」「体験型」を楽しむことができる。シェフにとっても経営で悩まなくてもいいから一石二鳥

――そのやり方はシェフのセルフプロデュース能力が問われそうですね。

湯山 セルフプロデュースは必要だけど、経営者として頭を悩ますよりおもしろいじゃないですか。エンターテインメントをいかに提供できるかを考え、自分を売り出し、企画を作り、イベントして、集客してってことができるシェフがますます出てくると思います。ただこうした企画づくりに関していえば、単に美食家たちに食べてもらいたい、っていうことをコンセプトに掲げるのではなくて、これからの時代は、シェフも客も、「弱者へのまなざし」を持ちながら考えられていくんじゃないかな、って思っているんです。

「弱者へのまなざしを持つ」。食での社会貢献を強く意識するようになる

――弱者? それはどういうことでしょう。

湯山 サステイナブルという時代の流れだと思うんだけど、ホームレスの人たちや子供たちにごはんを作る活動がよくなされていますよね。そうした情報に触れていると、自分たちでも何かやりたいという気持ちになるわけで、実は世界的なカルチャーの潮流で言うと、今の現代美術で、もうアートが投機の対象になるような扱いにはうんざりしているんですよ。今注目されている意識は「ソーシャルアート」というもので、これ、すごく面白くてね。この日本における牽引者のひとりが西原眠さんで、彼女の話を聞くと、本当にクリエイティブなんですよ。一つの例としては、ロサンゼルスはホームレスがすごく多いじゃないですか。路上で暮らす人々が寝泊まりしているところに、アート集団がバーッといって、壁にかわいい絵を描いてあげたり、おしゃれなソファーとか持ってきてあげたりして、応接間みたいにしてあげるんですって。賛否両論はもちろんあるんですよ。でも、記録映像を見ると、そのホームレスは顔の顔はぱぁっと明るくなって、すごく感謝をしていてね。生きる希望が出てくる環境を作ってあげるってことをアートでやる。それをゲリラ的にやってる人たちがいる。おもしろいでしょー。

――おもしろいです。そういえばシェフたちも、自分たちの料理の知識や技術を社会貢献とか、そういうことに使いたいという声がよく聞こえて来ています。

湯山 でしょう? 時代は確実にそっちに向かっていますよ。レストランでも、身障者やホームレスを雇うことがレストランの核になったり、評価本のランクづけの一票になったりする時代がやってくる。認知症の人たちをホールスタッフに雇い入れた「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトが話題になりましたが、クレーマーとは正反対の「客の寛容性」も問われる時代になってくる。大手外食チェーンがもっと動いてくれるといいよね。企業のブランディングとして、社会貢献度がどんどん評価される時代になっていきますよ。レストランも、スーパー魯山人の目だけを意識してる場合じゃなくなりますね。お金と時間がある人のためだけに自分の料理を作るっていうことに疑問を持つ人たちもこれから増えていって、シェフたちが率先して、社会を変えていこうって流れが、30年後はもっと勢いをつけてくると思います。エンタメ化するいっぽうで、こうした弱者にも環境にもやさしい食の時代が来ると思っています。

インタビュー:土田美登世

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