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雑な伝統と風習

 クリスマスと言っても別にどうってこともない。何も特別なことをしないし、今年もしなかった。外を歩いて「イルミネーションきれいだな~」くらいには思うがそのくらい。大学の辺りからそんなテンションだ。別に卑屈を拗らせているわけじゃない。ただ面倒くさいし余裕がない。ケーキにチキン、プレゼントにクリスマス飾りにどっかの宿泊料と娯楽で経済を回したい人がいて経済を回してくれるならそれでいい。クリスマス、ひいては日本におけるキリスト教の祝祭は商業主義のお祭りだから。

 七面鳥じゃなくてフライドチキンとか、イエス・キリストの誕生日なのにセックスとか、擦られ切っているし好きにしたらいいとは思う。ただやっぱりなんかおかしいやろと思うことはある。何度かショッピングモールで見たことがあるが、クリスマスツリーに願い事を書いた短冊を吊るすのは流石に違う。七夕と混ぜてサンタクロースやイエス・キリストに何を求めているのかと。
 バレンタインはまだいいとして、欧米じゃお盆みたいな立ち位置のハロウィンも大人のコスプレパーティだし、感謝祭、サンクスビギンズで収穫を祝って七面鳥を食べたりしないが副次的なブラックフライデーでAmazonや量販店に人が群がる。経済が回って楽しければ基本何でもいいのだろう。あんまり深く考えてはいけない。八百万の神を信じる日本人の前では所詮キリストも沢山いる中の一人なんだろう。
 イースター聖パトリックやサンクスビギンズそのものが日本でイマイチ流行らないのは、何をやって楽しめばいいかがわからない、何を売り込んで儲けに繋げればいいかがわからないからだと思う。ダイソーに3月くらいになると聖パトリック用のクローバーモチーフで緑色の帽子やパーティメガネが並べられるが、まあ売れ残ってそのまま通年のパーティグッズ売場行きになる。そもそも認知度どれくらいだ。自分だって緑色の服着てギネスビール飲む日か何か、という認識でしかない。

 別に余所の風習を日本人が雑にやっていることにガミガミ言いたくはない。そもそも古い文献とかにはそんなものなかったのに、平成のいつ頃からか節分に恵方巻が全国に浸透し始めたし、土用の丑の日に鰻冬至にカボチャも遡れば江戸~明治辺りでかなり新しい文化だ。ついでに一粒万倍日もなんか急に去年辺りから言われ始めた気がする。風習というのは大体雑に扱われている。

 それが日本だけなのかと言うとそれもどうも違うと思う。
「クリスマスにヤドリギの下にいる女性にキスしてもいい」という風習がある。北欧の古くからの言い伝えで欧米ではポピュラー、有名なところでは『トイ・ストーリー』なんかでそんなシーンがある。

J. C. Leyendecker,『Yuletide - The Kiss under the Mistletoe』,1933

 ちなみにJ.C.ライエンデッカーはそれまで妖精としてビジュアルイメージが固定されていなかったサンタクロースに赤い服に白髭、肥満体系の老人というイメージを世界に定着させた商業イラストレーターである。

 最近の海外で描かれたイラストとかだとカップルがヤドリギを頭上に手で持って意図的にキスをするっていうのがポップカルチャーだと見て取れる。それはいい。でも問題は持っているヤドリギだ。結構な割合でヤドリギじゃなくてセイヨウヒイラギだ。

 ヤドリギ(Mistletoe)はビャクダン科で他の木から球状に生える寄生植物。二股に枝分かれしながら伸びて白い実(アカミヤドリギは赤)をつける。
 セイヨウヒイラギ(Holly, European holly)はモチノキ科で常緑広葉樹。葉はクチクラが発達して硬く光沢があり棘が尖る。実は赤くて房状。ヒイラギ(Holly olive, False holly)はモクセイ科で葉が似ているだけで別種。節分にイワシの頭と一緒に厄除けで飾るのはこっちで実が黒い。
 ヤドリギもセイヨウヒイラギもクリスマスの伝統で冬でも青々としていて生命の象徴。ヤドリギの白い実は精液で男、セイヨウヒイラギの赤い実は血で女を表すので並べて扱うことも多い。

 それでもってpixivとか「ヤドリギ」のタグで検索するとほとんどが欧米人が描いたクリスマスイラストで、半分以上がヤドリギが描かれておらずセイヨウヒイラギが描かれている。そしてそれを頭上に掲げてキスをしている。
 Googleで「Mistletoe」で画像素材を探しても赤い実にとげとげした葉っぱの画像が出てくる。
 自分が欧米圏でインターネットをしていたらヤドリギ警察になっていたかもしれない。それほどまでに誤った認識が多過ぎる。
 大学時代は授業でほとんど同じような木材のサンプルを見せられて「これがこれがヒノキ、これがスギ、これがタモ、これがケヤキ、これがリグナムバイタ…」とよく基準がわからないまま嫌々ながら同定して憶えていた身からすると、ここまで分かりやす過ぎる間違いは伝統としても分類としても凄くモヤモヤする。

 掘り下げたら日本以外の各国の風習もその国で色々ぞんざいに扱われて変質しているんじゃないかなあ。面倒だからと伝統とか季節感のあることをなるべく避けて生きている身だけど、やっぱり漠然とよくないなあと思ってしまう。

 ヘッダーの写真はヤドリギでもヒイラギでもなくナンテン(メギ科)。家の前に生えていた。

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