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引き止めた声

それはある晴れた夏の日。
うだるような暑さなのは分かっていたけど、
どうしても家から出ないと行けない。
働かなくちゃいけないから。

いつもの満員電車…かと思いきや、
夏休みシーズンに入っているのか、
学生がいなくてなんとなく
人が空いていた。

大好きな音楽を
イヤホンで聴きながら、
スマホをいじって降りる駅まで
暇つぶしをするのが通勤の日課。

会社の最寄り駅について
「今日もだるいなぁ…」
そう思いながら歩いて会社に向かう。

地味に駅から会社まで
距離があるから、
暑すぎて溶けそう。
何もかも眩しい。

なんとか大好きな音楽聴いて
意識を繋ぎ止めて
歩いてるような気がしてならない。

ああ、いつまで今の所で
働き続けるのだろうか。
本当に辞めたい。

特に楽しい場所でもないし、
寧ろ上司が変わってから、
どんどん雰囲気が最悪になっている。

このままでは
心が死んでしまいそうだ。
いや、それは言いすぎだ。
でもトキメキが全くない。

せめて通勤時だけでも
楽しい妄想でもしようかな。


宝くじが当たったら…
会社辞めて、
行きたいとこ沢山行って、
欲しいもの沢山買って、
好きなだけ家でゴロゴロしてから、
好きな仕事見つけてトキメキを
見つけたいなぁ。


もし目の前に
大好きな推しが現れたら…
どうなるだろう?
上手く話せるのかな?
緊張してすれ違うだけになりそう(笑)
わざと何か物を落として、
拾ってもらう作戦とか
考えちゃったりして(笑)
運良く拾ってもらったら、
話かけられちゃうのかな?
拾ってもらった物も、
推しのグッズだったりもして、
話が広がらないかな?


もしも今は会えなくなった人に
偶然バッタリ会ったりしたら…
どんな話をするだろう。
いや、まず相手も
今の自分に気づくだろうか?
だいぶ外見も変わったし、
それでも見つけられたら運命だよなぁ。
楽しい近況報告とか聞けるだろうか?

そんなことを日に日に
ローテーションしながら、
妄想して歩く。
なんとも哀れな自分だ。

ああ…もうすぐ会社についてしまう。
あの交差点の信号が青になって
渡ってしまえばもうすぐ着く…


あ!!!
信号が変わる!!
急がなくちゃ!!!


「ちょっと待って!!!」


ん…???

耳にはイヤホンがついて
音楽を聴いていたはずなのに
何故か誰かの声が聞こえて
振り向いた。


信号機は変わり、
私は交差点を渡れなかったが、
振り向いた先には誰もいなかった。

「空耳かな?」

そして交差点の方を目をやると、
車同士が正面衝突事故を
起こしていた。


「え???」

誰かに引き止められなかったら、
私は音楽を聴きながら、
外の音に気づかず
事故に巻き込まれていたかもしれない。

でも、誰だったんだろう?
イヤホンの音も通すくらいの
大きな声…いや、
完全にイヤホンから声が
聞こえていたような…?

ってあれ?
イヤホン充電切れてる!?!?


「え…????どうゆうこと?」


にわかに信じがたい現象…。
でもどこかで
聞いたことあるような声だったような…


















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