こるり

緡蛮たるるりてう。壱百と四拾を超える文字からなる囀り。ことば遊び。ひっそりと隠棲しつつ…

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緡蛮たるるりてう。壱百と四拾を超える文字からなる囀り。ことば遊び。ひっそりと隠棲しつつ、院生もしています。

マガジン

  • エセー

    似非。随想録。かわいらしいものから自意識がみちみちなものまで。 清濁を、併せ呑むのは、貴方です。

  • こるりの安閑旅行記

    私的な旅行の記録。おもひでぽろぽろ、ぽろりんちょ。

  • こるりのちなminuit

    読む深夜ラジオ。深夜テンションで考えた雑学と、語学系の浅い考察を中心に。もちろん世迷い言も。ゆらりゆらりと戯言。時たま嘘八百。二枚舌の百舌鳥。

  • こるりの台所太平記

    ご飯と、忘れたくないこと。あらゆる感情てんやわんや。

  • カスティーシュ

    文体をまねぶ。カスのパスティーシュ。文豪に謝れ!

最近の記事

大学祝典序曲Ⅱ

 いやはやご無沙汰。久方ぶりに筆を執る。  賢明な読者の皆さま(果たしてそんな素敵な存在はいるのか)には、おおかた察されているような気がしないでもないが、この半年ほどは自らの進退を賭けて悪戦苦闘していた。親もとで受験生として生活しており、有り体に言えば、落ちたり受かったりしていた。  勤め人の身分を失ってから久しく、このまま社会的に消えてしまうかとも思われたが、なんとか受け入れ先を見つけることが叶った。日本海側で寒さを耐え忍んでいた頃よりも、長い冬であった。  兎にも角

    • ポワゾンを食らわば、ポワソンと共に

       どうにも何かを成し遂げる体力が、私には備わっていないように思う。より厳密に言えば体力というより気力という気がしないでもないが、気力の大部分は体力から生まれるはずなので、やはり体力が欠けているのだろう。  小さな頃から、何かを諦める中で取捨選択を繰り返してきた。向かぬものを捨てることで何とか生き永らえてきたが、もうほとんど手元には何も残っていない。  成すよりも成さぬことが多かったせいで、負け癖が染み付いてしまった。ギリギリで商学を修めてからは、Plan Delay Ca

      • 運動神経、ほか

         何をするにも運動神経というものが備わっておらず、ひどく歯痒い思いをしてきた。小学校の時分の体育に始まり、果てには楽器を奏でるうちにまで。あらゆる身体的ないとなみに違和感を抱く。  なんとなく、こういう感じ。適当に真似てみて。一切分からない。いや、少しだけ分かる気はせど、出力が伴わない。  おそらくは私が全てにおいて字面から入るせいだろうか。あるいは、分からなさゆえに分かる記号に置き換えて日々をやり過ごしてきたからだろうか。  逆上がりを習得するまでに、かなりの時間を要

        • 腰痛たちとシゲキ的な夏

           腰を痛めて、椅子を新しくした。  こんなにも一つの場所に座り続けていた夏は初めてだった。受験なんてひと昔前のものになってしまったし、ここ数年は純粋な勉強というよりも調べ物の方が多くなった分、絶えず動いていた。  立ち止まって、座して志す。洋間に住む私にだって思索の四畳半はある。いつだって部屋の中から、頭の中から。飛び立とうにも羽は生えていないから、ちまちまと設計図を起こしては頭を抱えて破り捨てる。私は鳥人間。  少しばかりか年を重ねてしまったゆえか。座すと痛む首肩背腰

        大学祝典序曲Ⅱ

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        • エセー
          12本
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          2本
        • こるりのちなminuit
          2本
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          4本
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          3本
        • 小説(小鳥遊こるり)
          1本

        記事

          熱帯夜とターミナル

           深夜のバスターミナルは、思っていたよりも人で溢れかえっていた。繁華街で酒を飲んでいたのならそろそろ終電かという頃合いなのに。  構内はむんとしていて、冷房が効いているのかも疑わしい。買ったジンジャーエールは、もう水滴を垂れていて煩わしい。  荷物を預けて一人乗り込む。全ての人に開かれた三等席の乗合馬車は、若くとも貧しくとも、どこかしらに運んでくれる。  車内は次第に涼しくなってきた。飲みかけたジンジャーエールは、気が抜けてきている。飲み干そうにも、お手洗いが近くなって

          熱帯夜とターミナル

          建築家、または理詰めの提唱者

           幾人かの信頼できる友人からその評判を聞いて、16 Personalities なる性格診断テストを受けた。  まず断っておくが、私は世に出回っている「心理テスト♡」というものをとことん嫌っている。「〇〇を選んだアナタはうさぎさんタイプ〜」などと抜かしてくる輩にはもれなく平手打ち。しかしながら、今回の 16 Personalities は、どうしようもなく捻くれた阿呆にも一定の納得感をもたらしてくれた。  テスト自体の説明を含むとそこそこの分量になるので、本稿にも目次を示

          建築家、または理詰めの提唱者

          まなざしと風景――国立西洋美術館『憧憬の地ブルターニュ』展

           国立西洋美術館で開催中の企画展『憧憬の地ブルターニュ』を観てきた。都内の大型美術館に足を運んだのは久方ぶりであった。日々の雑事に追われるあまり、表現者としても鑑賞者としても芸術から遠のいていたことを痛感する。交響曲に身体を、風景画に心を揺さぶられなくなってしまう日は、刻々と近づいているのかもしれない。ひとまずその猶予を延ばすべく、忘れないうちに感想をしたためておくことにする。 『憧憬の地ブルターニュ』概要 〈基本情報〉 会場:国立西洋美術館(東京・上野) 会期:2023

          まなざしと風景――国立西洋美術館『憧憬の地ブルターニュ』展

          卓越を横目に、独立する

           無鉄砲というものとは無縁で、子どものときからさほど損をすることもなく生きてきた。  親の言いつけを守り、教師の顔色を窺い、上司の印を貰う。長いものには喜んで巻かれ、他人の紡いだ繭に包まる。  なんとか、なんとか羽織ってきた十二単とはうらはらに、自ら繕った襦袢は悲しいほどに薄く、そのうちの痩躯には目も当てられない。  ひとり、ぽつんと。どこかに放り出されてしまった。それからは、近しい年ごろの学生に混ざりゼミナールの真似事をして、蕩々と、あてもなく過ごしている。昼餐には霞

          卓越を横目に、独立する

          認識と語学

           昨年の秋口あたりから、いよいよ本腰を入れてフランス語に取り組んでいる。契機こそ必要に駆られてではあるが、それ以上に言語を学ぶことが面白くて仕方がない。  いざどっしりと構えて外国語と向き合ってみると、世界の捉え方を学んでいるような感じがする。無味乾燥だった文法のあれこれが、世界を切り分ける因子として躍動しているように思えてくるのだ。  私たちは新しいものを取り入れようとするとき、既に知っている何かに置き換えようとする。そのことが理解を促すこともあれば、かえって視野を狭め

          認識と語学

          冬の空を青とは呼びたくないんです

           冬の晴れた空は淡い。青いというより、淡い。  あえて言うなら「青」だけど、青のような何か。今の私にはまだ言い表せない色。記号に置き換えられない色。白が200色あるんだから、青だってそうでしょうに。  夏のそれは、たしかに青い。すごく青い。でもなんだかずっと眩しくて、あまりの色味の強さに逆にぼんやりしているように感じてしまう。  青春の「青」は、きっと夏の青空のような濃厚な爽快感に溢れている。誰かしらと集まって、歯を出して笑っているような感じがする。でもそのイメージには

          冬の空を青とは呼びたくないんです

          #02 読書歴開陳祭1

           どうもこんばんは、こるりです。挨拶から生まれた隙間に、自分語りや戯言をねじ込みます。今年もピイチクピイチクと鴃舌を飛ばしていきますよ。  前回の末尾に予告した通り、本稿を含めて何回かにわたって、私の読書遍歴を申し上げていきます。どうか半身でお聞きくださいな。  はじまりはおそらく、小学生の時分だと思いますが、いわゆる「読書家」ではなかったように記憶しています。小学校の読書というものが些か乱暴で、貸出カードに記した冊数を競うような心地だったから、本を読むという行為に対して

          #02 読書歴開陳祭1

          ちゃづる / タピる

           お茶漬けが、好きだ。交響的晩酌の終楽章にはいつも君がいる。私にとってお茶漬けは、マーラーの三番の、六楽章のような存在だ。あたたかなニ長調の出汁が、すべてを鎮めてくれる。  私と同じような茶漬愛好家は江戸時代にもおり、「ちゃづる」なんて動詞まで生まれたらしい。  ほう、「ちゃづる」か。江戸よりももっと最近、似たような語感を聞いたことがある気ががする。  そう。君の名は――「タピる」。  その頃は私もちょうど若者だったが、タピオカなんて飲みませんよとしたり顔で、行列の横

          ちゃづる / タピる

          #01 隙・自・語

           どうもこんばんは、こるりです。文語調で話すことに定評がある阿呆です。子どもの頃からどうも、わちゃわちゃとした会話が苦手で、これまで幾度となく人見知りを発揮してきました。その反面、一定の礼節を弁えていたため、世の大人たちからの評価はわりに高く、色んな下駄を履かせてもらっておりました。  しかし、今では私もいい大人です。一体誰がかわいがってくれるのでしょうか。慇懃な返答を続けてきた末路が、慇懃を重ねることから遠ざかるとは何たる皮肉でしょうか。悲しきモンスターです。  私は、

          #01 隙・自・語

          立つなニャオハ(妙釈・走れメロス)

           メロスは、激怒した。必ず、かの邪智暴虐の獣王を跪かせなければならぬと決意した。メロスには生態学が分からぬ。メロスは村の学士(ポケモン学)である。生体の構造には無知の劣等生であったが、科学の力の凄さを路行く人に説いて回り、指導教員の温情で学士号を取得した。それでも四肢動物の二足歩行に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは出発し、野を越え山越え、十里離れたこのパルデアの市にやってきた。  メロスは実家を、勘当された。当然ながら、恋人も無い。しかし、村の或る律儀な博

          立つなニャオハ(妙釈・走れメロス)

          牡蠣と小さな城

           牡蠣を食べると、あの子のことを思い出す。  大学のひとときにすれ違った、友だちと言っていいのかも分からない、あの子。  管弦楽部で燻っていたときに軽音サークルを覗きにいって、コピーバンドを組むことになった、あの子。  高校からの音楽仲間に、軽音サークルを紹介してもらった。大抵の楽器の心得はあったから、余っていたバンドにキーボードとして入れてもらった。  あろうことか、文化祭にも出た。管弦楽部の出店はないから、縁遠いものだと思っていたのに。赤い法被を纏った実行委員が、

          牡蠣と小さな城

          二周目の花弁

           あさ、目を覚ますと、年を取っていた。十二菊、二つ重ねて、二十四。  束の間の青春を無為に過ごし、瞬間的な美さえも持たず、蕾のまま枯れていく。花火のような生を語るには、輝きを知らない。  本を読むことで繕ってきた得体の知れない欺瞞は、いともたやすく、メッキのように剥がれ落ちる。剥がれ落ちるメッキさえ、偽りの金を演じることなく、錆のようにくすんでいる。身から出た錆。むしろ、錆でできた身。  悧巧なゼスチュアを倣って、大人を恐れて、きわめて、穏便に生きてきた。いとこのお姉さ

          二周目の花弁