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熱帯夜とターミナル

 深夜のバスターミナルは、思っていたよりも人で溢れかえっていた。繁華街で酒を飲んでいたのならそろそろ終電かという頃合いなのに。

 構内はむんとしていて、冷房が効いているのかも疑わしい。買ったジンジャーエールは、もう水滴を垂れていて煩わしい。


 荷物を預けて一人乗り込む。全ての人に開かれた三等席の乗合馬車は、若くとも貧しくとも、どこかしらに運んでくれる。

 車内は次第に涼しくなってきた。飲みかけたジンジャーエールは、気が抜けてきている。飲み干そうにも、お手洗いが近くなっては困る。隣には人がいる。

 薄いカーテンと窓を隔てるときっと、熱帯夜が広がっているんだろうな。甲州街道はもうとっくに夏だったろうに。


 旅に出る理由を見つけた者どもの終着点。大きなことは一つもできないけれど、身だけは軽い。

 微睡みと浅い思索が混ざる。もう車一つ持っていないけれど。リュックサックに輪っか一つ通していないけれど。左耳には穴一つ空いていないけれど。私は発つ。


 薄布と薄布の間から日が漏れる。気怠さとともに瞼をこすると、知らない磯の香りがした。

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