「引っ込み思案でアガリ症」の僕がのめり込んだ探究経験
探究学習に没頭したあの頃を、どう振り返っていますか。高校生の時「クエストエデュケーション」に取り組んだ大学2年生に話を聞きました。
人前で話すことが苦手で引っ込み思案だった生徒が、宇宙でのエネルギー開発というテーマにのめり込み、仲間と突き進んでいった先は。
中3の「トラウマ」
波田野雄琉さんと生駒拓人さんは淳心学院中学校・高等学校(兵庫県姫路市)の卒業生。同校が2018年度から導入した「クエストエデュケーション」の1期生にあたる。
波田野:僕は引っ込み思案でアガリ症でした。中3の時、自分が選んだ新聞記事を要約してクラスのみんなの前で発表したことがあったんですが、僕の発表を聞いたクラスメイトの評価シートを見たら「内容が面白くない」「早口でよく分からなかった」「救いようがない」という厳しいコメントが書かれていました。そういう経験をしていたので、高校から探究学習が始まる、そこでプレゼンもすることになる、と聞いて、本当に憂鬱でした。
高校1年に進級し、1学期にプレゼン資料の作成方法などを学んだ後、2学期から「クエスト」のコースの一つ、「コーポレートアクセス」(CA)に取り組んだ。4、5人でチームを作り、企業から出されるミッション(課題)を独自に解釈して企画を立て、その内容を発表する。
ぶっ飛んだこと、考えろ!って…センセイ、いいんですか?
周りの生徒が仲良し同士でチームを組むなか、その流れに乗り切れない9人が集まった。最初は「寄せ集めチーム」だった、と波田野くんは振り返る。9人は「眼鏡一筋」という名前のチームを作り、旅行会社HISの「さあ冒険の始まりだ‼︎ 人類が創造的に発展する未来事業を提案せよ‼︎」というミッションに取り組むことにした。
波田野:HISのミッションは楽しそうだし、優勝したらHISの旅行券も貰えるかも?、と軽いノリで選びました。
CAでは、チームが選んだ企業の事業内容を調べた後、ミッションから浮かんだアイデアを自由に言い合う「ブレーンストーミング」をやります。浮かんだアイデアを付箋に書き、それを大きな模造紙にどんどん貼り付けていきました。
ブレストを始める前に、担任の先生から「とりあえず、ぶっ飛んだこと考えろ」と言われました。想定外でもいい、どんなにくだらないことでもいいから書こう、と。そこから3コマの授業時間を費やしてブレストをしました。
それまでの授業は、先生の意図を汲み取りながら答えを考えるのが「当たり前」だった。「ぶっ飛べ、自由に」と言われて、あたまを切り替えられるのだろうか。
波田野:たしかにそれまでブレストなんてやったことなんてなかったし、良くも悪くも現実主義者だったし、奇想天外なことを言ったり考えたりするなんて、あまり許されるような雰囲気とは言えなかったと思います。言ったとしても、そんなことは無理だ、と言われたりして。
だから1時間目は「旅行会社といえば…」から連想した、ありがちなアイデアが多かったんですね。でも2時間目、3時間目とブレストを重ねるうちに、だんだんやわらかくなって、「宇宙で農業」といったアイデアが上がるようになりました。
この場ではどんな突飛なことを言っても否定されることはないんだ、と分かってきて、みんなで思い切ったことができたのだろうと、今は考えています。
「宇宙」×「太陽光発電」のコンセプト
「眼鏡一筋」のメンバーは、ブレストでアイデアを出し切った後、ふるいにかけていった。既に存在しているもの、事業として実現されたもの、簡単にできそうなものを外していき、最後に「宇宙」と「太陽光発電」が残った。この2つを合体させ「宇宙でのエネルギー開発」というコンセプトを固めた。
地上での太陽光発電には広大な土地が必要だ。だが宇宙空間ならその制約がない。そこで宇宙空間で太陽光を受け止め、発電で生まれたエネルギーを高周波の電波に変え、世界各地のHISの拠点に建てたアンテナに送電するーーという構想だ。波田野さんと生駒さんは構想のロジック作りを担当し、肉付けに必要な情報や実現性の根拠となる論文を集めていった。
生駒:宇宙で太陽光発電をする構想はすでに存在しています。大気がない分、地上の10倍以上の太陽光エネルギーが得られる、とJAXA(宇宙航空研究機構)のホームページから情報を得ました。加えて、プレゼンの段階から出ていた「宇宙ゴミ」(デブリ)を専用衛星で除去する案も採用し、エネルギーの創出とデブリ除去で「一石二鳥」のプランだ、と考えました。
離脱の中で生き残った「眼鏡一筋」
時間が進むにつれ、離脱するチームも出てくるようになった。コンセプトを企画に落とし込めなかったり、意見の相違から空中分解したり。「眼鏡一筋」のメンバーはのめり込んだ。ただ、アイデアがまとまるのか、それとも破綻するか、先の見えないのは同じだった。
波田野:確かに、当時はつかみどころのない不安はありました。テーマも「宇宙」という壮大なものでしたし、アイデアを原稿にまとめるなかで、チームメイトから矛盾を突っ込まれたりもして、乗り越えるのが難しい壁も何度か出てきました。でもここでやめてしまうと、今までの努力が無駄になるのが嫌でした。それが原動力だったところもあります。
生駒:僕は壁にぶつかっても、逆に「来るなら来い」という気持ちで臨んでいました。
もちろん、大変だったこともあります。原稿をまとめる際に、発表担当のメンバーと僕たち原稿担当メンバーの間で、文章の表現や構成などを巡って「ここは直した方がいい」「このままでいい」と意見がまとまらず、調整に苦労したこともあります。
ただ、構想を原稿に落とし込むところまでたどり着けたのだから、自分達の出せる限りのアイデアを最後までまとめようという気持ちは変わりませんでした。
手にした「全国大会」
「眼鏡一筋」のゴールはクエストカップ全国大会に出場すること。そのためにはまず、年明けの校内発表会で入賞し、応募できる権利を得る必要があった。2学期の終わり、追い込みに入る眼鏡一筋。みんなより上に行きたい、校内で頂点に立ちたい、労力をつぎ込んだ結果を出したい、とにかく勝ちたかったと2人は振り返る。
波田野:2学期の期末試験が終わり、冬休みに入るまでの数日間、授業のない日を利用して、朝から18時までぶっ通しで最後の仕上げに入りました。みんなで原稿の内容を書き直しては職員室にいる先生からフィードバックをもらう、を何度も繰り返しました。教室と職員室を1日10往復した日もありました。もう、ほんとうに殺気立ってました。
1月の校内発表会で「眼鏡一筋」は最優秀賞に。クエストカップにも応募し、全国大会への出場も決まった。
波田野:全国大会に出るまでは、同級生から「なんでそんな本気でやってんの?」「本当に賞が取れると思ってるの?」と言われながら企画やプレゼンをブラッシュアップしてきたんです。彼らを見返したいという思いも強く、それだけに、困難なことでもやればできるんだということを経験できてよかったです。チャレンジし続けてよかった。
審査員からの「宿題」
全国大会の「ファーストステージ」(予選)では、HISのミッションを選んだチームの中から2校だけが選ばれる企業賞を受賞、セカンドステージ(最終選考)に進むことになった。だが、このとき審査員から大きな宿題を与えられた。
波田野:ファーストステージのプレゼンで、宇宙から送る電波を受け止めるアンテナの実験候補地としてハワイを提案したときに、ハワイを選んだ理由を「HISといえばハワイ!」としか説明していませんでした。発表を聞いた審査員の一人から「なぜハワイなの?具体的にはハワイのどこの島が実験に適しているの?」と指摘されました。
数日後のセカンドステージ(最終選考)までにハワイを選んだ理由と、その裏付けが必要でした。ハワイ周辺の具体的な島の名前を挙げるには、高周波の電波を送っても人体や飛行機の飛行に影響のないエリアを見つける必要があります。無人島でかつ、飛行ルートから外れているところはどこか。
Googleマップとフライトレーダーで3日間調べ続け、ついにカホオラウェ島を見つけました。
圧倒された他校の発表
セカンドステージに進んだ「眼鏡一筋」。だが、他のチームの発表に圧倒された。
波田野:ファーストステージとは全然違いました。グランプリを受賞した「富士田フジコ(聖心学園中等教育学校・奈良県)」の発表は本当にうまかった。笑顔で、感情がこもっていて、ハキハキと堂々としていて、二言三言しゃべっただけで、僕らも心をつかまれていました。グランプリは厳しいな、と直感しました。
生駒:僕らのプレゼンは「なぜハワイなのか」という点で、審査員を十分納得させられるロジックを詰め切ることができませんでした。それは発表後の審査員とのやりとりから感じました。だからグランプリは厳しいだろうと思っていました。グランプリを受賞したチームは、発表内容、受け答えともにしっかりしていました。彼らが優れているところはどういうところなんだろう、とそのチームの発表の間、ひたすら探していました。
探究活動で出会った「自分」
大学生になった今、2人はこの経験をどう捉えているのか。
生駒:クエストで何度も原稿をブラッシュアップしていく中で、企画を立案することが好きなんだなと思いましたし、そうした力が鍛えられたと思います。今の大学では、試験などで文章を書くことが要求されることが多いので、いかに論理的に自分の考えを伝えるか、という力があの頃鍛えられたのかな、と考えています。
それから将来の夢を考える上で、ひとつのきっかけになったかもしれません。将来は政策を立案したり、時代のニーズに合った法律をつくりたいと考えているので、公務員を目指しています。
波田野:引っ込み思案であがり症だった僕も、人前でも発表ができるんだと実感しました。論理的に考える力や、抽象的なコンセプトから企画に落とし込む力が自分にはあることにも気づいた経験でした。いま、高校生の進路相談に乗るイベントを企画するグループの代表をやっているんですが、ゼロから企画を考えて、参加する高校生から高い評価をもらうイベントになりました。新しいことを立ち上げることやその間の苦労も含め、全てのプロセスを楽しめるようになったと思います。
【6/21(火)コロナ禍での職場体験実践共有会】
職場体験、どうしよう…。コロナ禍で全国の先生が頭を抱えてきました。今年も受け入れ職場の見通しが立たないなど、頭を悩ませている先生方も多いのではないでしょうか。
教育と探求社が開発した「インターン」は、教室でできる職場体験プログラム。コロナ禍の学校現場に、新たな職業体験のかたちをご提供してまいりました。
6月21日、昨年度「インターン」を導入していただいた千葉県船橋市立坪井中学校の先生2人に、授業での「インターン」をどう活用したのか、その取り組みを報告していただく実践共有会を開きます。コロナ禍での職場体験やキャリア教育の実践事例を詳しく聞ける機会です。ぜひご参加ください。
申し込みはこちら→https://quest.eduq.jp/intern202206/
【導入校の先生インタビュー】https://note.com/questeduca/n/ncbc6174dab51
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