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「困っている人」は僕だった。メンタルヘルス支援団体の代表と生徒の対話

社会課題の解決策を考える「ソーシャルチェンジ」に取り組む5校30チームが、9月29日にオンラインで全国から集まり、ミニ中間発表会を開きました。自分たちが支援したい「困っている人」は誰か。どういう支援がいいのか。この時点で考えていることを共有しました。

この日のゲストは一般財団法人ポリネ理事・徳里 政亮さん。うつ病になった人の復職サポートや組織のメンタルヘルスを支援していて、「クエストカップ全国大会 2022」でも、審査を担当されました。教育と探求社で学校コーディネーターをしている早崎亜紀子を聞き手に、「困っている人」に向き合ってきた経験をお話してくださいました。生徒たちは何を感じたのでしょうか。一部をご紹介します。

ソーシャルチェンジとは
「ソーシャルチェンジ」は、困っている人を助けて、笑顔にする企画を考えるプログラムです。生徒は、自ら見つけた社会課題に当事者として向き合い、その解決方法をチームで考え、企画にまとめ、プレゼンテーションをします。

一般財団法人ポリネ理事・徳里 政亮さん

中間発表会は、自分たちのこれまで考えてきた「困っている人」を、他の人に発表する場の役割のほかに、一度設定した「困っている人」を問い直す場という役割も担っています。

気づかなかった視点を投げかけられる機会を設けることで、「本当にこの人を助けたいんだっけ?」「そのためにはこれでいいんだっけ?」と改めて問い直すことで、さらに深めるプロセスになっています。

生徒たちは現時点の中間発表を終えた後、徳里さんのお話を聞きました。

「助けたかったのは自分」から始まったうつ病当事者への支援活動

沖縄出身の徳里さんは、会社員で働いていた時、うつ病になりました。その経験がきっかけで、産業カウンセラーや健康経営アドバイザーなどの資格を取り、働く人たちのメンタルヘルスの支援に取り組む「ポリネ」を立ち上げました。

徳里:僕が“助けたかった人”は、僕自身でした。うつで悩んだ経験が会社を立ち上げるきっかけになっています。うつになる人ってメンタル弱いよね、と社会が評価しがちですが、約400名を支援してきて気づいたのは、会社の中にも、うつになりやすい組織構造があるということです。うつの当事者として、自分が経験した痛みを、次世代に連鎖してほしくない、というのが、活動を始めた一番の理由です

ーーうつの人が困っているのはどんなことなのでしょうか。

徳里:選択肢がひとつしかないと思い込んでいることが多いです。この道しかなくて、この障害物につまずいている、と。でも冷静になって回りを見てみると、ここにも、あそこにも、選択肢っていっぱいあるんです。

ーー想像していた支援と、実際に求められる支援にギャップはありましたか?

徳里 政亮さん(左)と学校コーディネーターの早崎亜紀子(右)

徳里:困ってる人って誰かの助けが必要だと思っていましたが、意外とほとんどの人が自立していて、自立した状態でちょっとつまづいた、という感じなんです。そこから立ち上がる勇気が持てないだけの状況だから、一時的に伴走するような関わり方に、軌道修正しました。自立しようとしている本人の力をそぐことのないような関わり方を続けています。

たとえば、目の前で子どもが転んだときに、自分で立ち上がれるのに親がすぐに抱き上げるような行為でなくて、見守るという支援もあるんじゃないかと。

皆さんは、困ってる人はかわいそう、という目線で見てないかな? お互いに何かに気づき合える関係で、その人が自立しようとする力を信じて、リスペクトし合ってください。正直、僕自身、今でも工夫し続けているところです。

ーーそれは実際に徳里さんが経験された失敗…?

徳里:はい。クレームを受けたこともあります。軽はずみの行為が、相手のプライドを傷つけてしまって、私たちのこと、どういう目線で見てるんですかと問われました。そのときは苦しかったです。あの経験から本当の意味で学びました。

徳里さんは、前提を絶えず問い直すことの大事さをこう語ります。

徳里:(自分が当たり前と思いこんでいる)前提を疑うって、すごく重要です。昨日僕が言ったことすら疑わないといけない。「この人はこれで困っているのではないか」というのは、本来仮説にすぎません。でも仮説にすぎなかったものが、いつの間にか、
「困っているはず」という前提にすり替わっていることがある。前提として固定化されてしまうと覆すことが難しくなります。

そうならないよう、その前提をひっくり返してみる。空気を読まなくていい。相手をリスペクトしつつ、例えばこういう見方ってできないかなとか。そういった投げかけを誰かがするだけで、違う世界の見え方が生まれるんじゃないかなと思います。

ーー徳里さんにとって「困っている人」はどんな存在ですか?

徳里:テレビで困っている人の現状が紹介されたとしても、画面越しでしか「困り感」は見えない。だからその人の気持ちをリアルに感じるのは難しいものです。そういう時はその人の「靴」を履いてみるのです。その人はどういう世界を見ているのか、相手を想像して、理解することを僕は大事にしています。

「困っている人」への想像を掘り下げる

徳里さんの話を聞いた生徒たちは、改めて話し合いました。自分たちが考える「困っている人」は、なぜ困っているのか。どんな感情を抱いているのだろうかーー。

「困っている人:日本語が分からない外国人」を考えている広島県福山市立城東中学校のチーム

「私のチームは日本に住んでいる外国人で、日本語がわからない人について話しましたが、その人たちは言葉が伝わらないから人と話すことが怖かったり、不安だったり、外に出るだけでもずっと恐怖にまみれているんじゃないか、と想像しました」

「困っている人:インターネットを上手に使えない人」を考えている桜美林中学高等学校のチームメンバー


「僕の班は、インターネットを上手に使えずに困ってる人を助けよう、と考えていましたが、その人たちは僕たちと価値観が違うかもしれない。なぜネットを使わないのか、何か理由があるのか、その人にとって大切なものは何かを知りたいと思いました」

困っている人が日常で「嬉しい」と感じるのはどんなことだろう?ポジティブな感情も想像してみました。

「困っている人:内閣総理大臣」と考えている山形県天童市立第三中学校のチームメンバー

「困っているのは総理大臣、の設定で想像すると、世界中の人や、日本中の都道府県の人とたくさん関われることへの嬉しさはあると思いました」

「成功するかどうかより、プロセスを楽しんで」

生徒から徳里さんへこんな質問もありました。

生徒:もしクラスの中でいじめられてる人がいたときに、みんなが見て見ぬふりをして、あんまり気にしてないとき、どう対処すればいいですか?

徳里:明確な答えがない問題ですね。でもその場面で、私自身が、どう感じるのか、私自身が1ミリでもいいからできることって何かなと、1人1人が考えて動いていくことしかないのかな、と思います。一般的な答えでなくても、自分なりの答えを出せるかもしれないんですよ。だから、自分が助けに行くことができなくても、自分自身を傷つけたり否定しない方がいいです。少しでも心が痛んだ、共感することができた自分を、まずは褒めてください。

最後、生徒たちに徳里さんはこんなエールを送りました。

徳里:僕が中学・高校生だった時、ソーシャルチェンジのような授業はありませんでした。だから、大人になってからでないと取り組むことができませんでした。もし中高であんなこと、こんなことを考えられる機会があったら、もっと違うことができていたかもしれないな、と振り返ることがあります。だから、今皆さんがやろうとしていることを、成功するかどうかとか、よくできているかどうかという視点で、とらえなくても、全然いいと思ってます。結果がどうあれ、取り組んだプロセス自体、大きな宝物だなと思えるようになるんじゃないかと感じています。だから、プロセスそのものを、ぜひ楽しんでください。

【参考】
自ら課題を発見し、その解決を探究する「ソーシャルチェンジ」のサイト
探究学習はじめの一歩!【実例】探究学習のテーマ16種
「探究学習」の最先端 教育と探求社の総合パンフレット
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