【教師と探究学習】1年目の「失敗」、2年目の「苦悩」、3年目の「猛省」。そして……。
探究学習は、「想定外」があちこちに転がっています。従来のメソッドが通用しないことも少なくありません。そんな世界で、教師はどう進んでいくのでしょうか。通信制高校サポート校「KTCおおぞら高等学院東京キャンパス」で探究学習を担当する小嶋陽先生は「大人が介入しすぎたことも裏目に出てしまった」と、探究学習を取り入れたばかりのころを振り返ります。
試行錯誤の道のりと、そこから得たヒントを語ってもらいました。
まずは、プログラム通りにやればいい
同校が探究学習を導入したのは、4年前。
小嶋:これから「探究」という言葉がキーワードになる時代ではあるけれど、探究学習のコンテンツを自分たちでつくるのは、なかなか難しい。いろんなプログラムを比較検討し、教育と探求社の「ソーシャルチェンジ」を導入しました。ちなみに、私は導入を決めた人ではなく、決めた人から実践してね、と指示を受けた人です。
生徒が自ら見つけた社会課題の解決を探求するプログラムで、全12回の授業にはスライドが準備され、生徒のワークノートもある。分かりやすくいえば、台本にそってすすめられるプログラムです。
小嶋:例えば、1回目の授業計画には
と書かれています。
1年目の苦悩:グループワークがうまくいかない
とはいえ、生徒たちは「台本」通りにいかないもの。小嶋先生は、初年度の授業を「うまくいかないことだらけ」と振り返ります。
小嶋:まずグループワークがうまくいかなかった。振り返れば、心理的安全性の確保が十分ではなかったと思います。私たちの学校では、生徒はこの授業への参加が必須ではなく“権利”なので、制度的に途中離脱がある。そして大人が介入しすぎたことも裏目に出てしまった。失敗だらけですね。
小嶋:2年目は参加を任意制とし、1〜3年生の希望者40名で実施しました。メンターとして卒業生に手伝ってもらうサポート体制を作ったことで、生徒の主体性、探究学習ならではの創造力の部分に手応えを感じることができました。
3年目の猛省:もしかして……自分の問いかけがダメなのか!?
3年目になると、徐々に生徒たちの姿勢にも変化が。手ごたえを感じる一方、他校の発表を見て、小嶋先生は「猛省」します。
小嶋:3年目はコロナ禍で、授業はすべてオンラインでやりました。希望した生徒は25人でしたが、生徒の主体性は上がっていましたし、外部講師との連携にも力を入れて、新しい道が開かれました。
ただ、この年のクエストカップでグランプリを受賞した通信制高校、クラーク記念国際高校のチームと比較すると、何かが違う。先生の声かけや問いの投げ方の違いが、生徒の発表から見えてきます。自分とは全然違うと落ち込み、猛省しました。
そして今大会で、同校のチーム「おおぞら子育て協力隊」がソーシャルチェンジでグランプリを取りました。
小嶋:私がどういうサポートを意識したか、動画から想像してみてください。また審査員との対話もありますが、もし先生ご自身が審査員だったら、この子たちにどんな「問いかけ」をしますか?
ここで、質問タイムです。現場のリアルな悩み、ちょっと聞きづらい質問も、小嶋先生が受け止めます。
調べ学習で終わらせない。「アンケートとってみたら?」
生徒への声かけを意識的に変えることで、行動が変わったこともあるそうです。
小嶋:3年目までは「正確な情報収集のスキル」を得ることを授業で意識していました。でも、情報は調べるよりも自分で取る。数字的に不確実だとしても、その過程で得られる学びの方が圧倒的に大きいと感じました。
「アンケートは自分で取ろう」
「必要な情報のある場所へ行こう」
「やりたいアイデアはやってみよう」
そういう声かけを、ものすごく意識しました。具体的なやり方は生徒たちに任せます。結果的にアンケートが4人しか集まらなかったということもありましたが、その「ガッカリ」も含めて「学び」です。
ここでまた質問タイムです。
考えたくなる問いをジャブ!授業で実践してみよう
小嶋:授業をつくるとき、「なぜ?」「それ知りたい!」と生徒がワクワクする問いを投げかけることはとても大事です。
リンゴが木から落ちるのは、実がなる理屈があって、重力の理屈があって、これこれこうでと説明されて理解するより、「あなたはリンゴが木から落ちている事実を見てどう思いますか?」と質問されるほうが、生徒たちは想像力を駆使して考えるのかな、と思っています。
考えたくなる問い、ドライビングクエスチョンを、学習体験の中に入れてあげる。問いの順番によって、驚きと感動は変わってきます。
ここで小嶋先生は、授業で実際に用いた問いかけを披露しました。
「ソーシャルチェンジ」の3回目の授業で私が実際に投げかけた問いを、皆さんに紹介しましょう。
「英語が一番重要な教科である」という理由と、「英語の勉強は不要である」という理由を考えてください。
「英語は外国人も日本に来てるからあった方がいい」
「英語がしゃべれると世界とつながれるから英語が必要」
「英語を勉強しなくてもsiriやアプリが翻訳してくれるから要らないんじゃないか」
ーーなど、いろんな回答が出てきます。
一度ペアワーク(隣の人と意見交換)をした後、「ではみなさん、自分の意見を人に分かりやすく伝える方法(PREP法)にのっとってもう一度やってみましょう」と、問い直すのです。
まず結論(Point)から言いましょう。
「私は英語が一番必要な教科だと思います」「英語は不要です」
すると、みんななぜ?と疑問がわきます。
そこで
「理由(Reazon)はこれこれ…」と話した上で
「例えば(Example)これこれ…こんなことがありますよね」と具体的なエピソードを提示して共感を得ていく。
Prep法を説明してから練習させるのではなくて、最初にやらせて生徒に「失敗」を経験してもらう。ビフォー・アフターで、驚きと感動を演出するのです。
生徒の気持ちが盛り上がってきたところで、応用編です。
結論を言い切ったら、意見の押しつけになってバランスが悪い。その反論と、それに対するフォローを入れてもう一度伝えると、より納得しやすいでしょ?と再度問いかけます。
そして最後に、体育教師の私の前で
「体育が一番重要な教科である」
「体育は不要である」
ーーとプレゼンテーションをしてもらう。想像してください、面白くないですか?
発言が苦手な生徒を当てる? 当てない?
積極的に話さない子にも、聞く機会を持つようにしているという小嶋先生。その理由は「チャンスを奪うことになるから」と言います。
小嶋:生徒に伝えていますが、コミュニケーションは「外のお天気」みたいなもので、窓を開ける権利もあれば、開けない権利もあります。でも青空だと開けやすいので、青空のように語りかけてください。具体的には「否定」をしないこと。
うなずきや相づちがあると、子どもたちは自分の「窓」を開けやすくなります。話すとき、聞くときって、心が動きますよね。緊張したり、共感してもらったら嬉しかったり、その心の動きが成長につながるので大切にしています。
あまり話さない子に「話せないから指さない・聞かない」は、チャンスを奪うことになる。だから聞きます。ただ、安心して“No”と言えるルールを作り、授業をしています。
対話を深める「決めゼリフ」
小嶋先生が授業で使う「対話を深める決めゼリフ」を教えてもらいました。
小嶋:共感したら「私もそう思う」と言ってあげてください。
疑問があったら「どうするの?」と質問してください。
「こうすればもっと良くならないかな」と提案してください。
そうすると、対話は深まります。
生徒へのサポートの仕方は、平等ではなく公平。これが大事だと思っています。
よくやりがちですが、支援がいらない生徒に、過剰なヒントを出す必要はありません。今大会でグランプリをとったチームには、私はほとんど何も言いませんでしたし、やりませんでした。逆に支援の必要な子には、多めに支援しています。
(後編に続く)
後編は小嶋先生が、ショッキングな“問いかけ”で迫ってきます。
「あなたの知識は、ニセモノである」……どういうこと!?
この発想、どこから生まれた?
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