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【教師と探究学習】“ニセモノ”でなく“ホンモノ”のリアルを、生徒に。私がそう考える理由

4年前から探究学習に取り組んできた「もうすぐ43歳の体育教師」、小嶋陽先生。主体的・対話的な学びを生みだそうと試行錯誤を重ねるなかで見えてきたものを、エッジの利いた言葉でこう表現しました。

「あなたの知識は、“ニセモノ”である」
えっ「ニセモノ」? どういうことですか?
前編に続き、後編です。

小嶋陽 KTCおおぞら高等学院東京キャンパス・キャンパス長。鹿屋体育大学(鹿児島)卒業後、鹿屋工業高校の非常勤講師に。だが、大学時代のラグビーの夢を諦めきれず、ニュージーランドへ。帰国して大手運送会社で働きベンチャー企業の立ち上げに参画。30歳でKTCおおぞら高等学院に就職。キャリア教育や探究学習の活動にも広く関わる。

日本最大級の探究学習の祭典「クエストカップ2022 全国大会」。出場チームの学校で、教師は生徒の学びにどう伴走してきたのでしょうか。今回は社会課題探究部門「ソーシャルチェンジ」でグランプリを受賞したチーム「おおぞら子育て協力隊」のKTCおおぞら高等学院東京キャンパス小嶋陽キャンパス長による講演(3月5日)を記事にまとめました。

“ニセモノ”って何ですか?

小嶋:おおぞら高等学院の第一の理念は「なりたい大人になるための学校」です。では、なりたい大人になるためにはどうしたらいいのでしょうか?

答えは「なりたい大人の近くにいること」だと思っています。

おおぞら高等学院の生徒は毎年「将来、あなたはどんな大人になったら幸せですか?」というテーマで作文を書いています。

小嶋:では、子どもたちの近くには「どのような大人」がいるのでしょうか?

「親と先生」が多いですよね。

ということは、この学校教育の仕組みって……「限られた大人(先生、親)が、“知らないこと”を、子どもたちに伝えていることが多い仕組み」、もっと端的にいうと、「ニセモノが知らないことを伝える仕組み」になっている可能性があります。

小嶋:例えば漫画家になりたい生徒に、漫画家の経験のない私が、漫画家について話す、という感じです。

これからの教育は、生徒が「ホンモノ」と出会う機会をもっと増やすことが重要だと思っています。多様な大人(ホンモノ)が、自らが経験したことを自分の言葉で伝えていく。”ホンモノ”が自分のことについて伝える機会を増やす仕組みです。

多様な“ホンモノ”のリアルな言葉

小嶋先生が担当する同学院のキャリア教育プログラム「社会の架け橋プログラム」は、多様なホンモノたちをゲストに招く特別授業です。

さまざまな分野で活躍する方をゲストとして招き、働きがいや生き方、プロフェッショナルの精神を学びます。

小嶋:「社会の架け橋プログラム」を始めたのは、そもそも、こどもたちに多様な選択を示す必要があるのに、それを私だけで解決しようとしても無理だ、と感じたことがきっかけでした。

授業には、いろいろな大人が来てくれて、それぞれの体験を自分の言葉でリアルに語っていただきます。こうした“生き方のリアル”を聞くと、心が動く生徒がでてきます。もちろん、1人の大人がすべての生徒の心を動かせるわけではありません。ただ、たくさんの大人との出会いで、1人でも自分の心が動く大人と出会えればいいな、という気持ちで続けてきました。

小嶋先生はここで「社会の架け橋プログラム」で出会った大人たちの話を聞いた生徒たちの言葉の一部を見せてくれました。

「どうしよう」じゃなくて「どうにかする」
「生きづらさを工夫」という言葉がすごく心に残った。
「不登校の経験は長い社会経験だった」
「マイナスな感情を超えるほどの要求」
「苦手なことがある私でも働ける場所があるかもしれない」
「コンプレックスは理想の自分がある」
「高校生だからとか関係ない」が響いた。
「失敗した人じゃないと、失敗した人の気持ちは理解できない」
「やりたいことってやったことある事の中からしか選べない」と聞いて「うおお」って思った。
「早起きが苦手なら時間を選べる仕事」に救われた。
「自分にあるものをちゃんと見つけて受け入れてあげること」を大切にしたい。

小嶋:いろんな大人がいろんなことを言う、そのなかから、子どもたちは多くを感じ取るのです。

変化の中でも変わらないもの


社会の変化が激しくなり、これまでの「正解」が通用しなくなったと言われるようになりました。でも、すべてが変わってしまうわけではない、と小嶋先生は考えます。

小嶋:みなさん、このような話を聞いたことはありませんか?
「20年後までに人類の仕事の約50%が人工知能ないしは機械によって代替され消滅すると予測」
「日本人の仕事の49%が消滅するという見通しを公表」
「日本中の業務の27%が自動化され、約1660万人の雇用が機械に代替される可能性があると指摘」

もう、将来に対して不安しかありませんよね?でも、みなさんちょっと考えてみてください。

例えば、運送業(物を運ぶ仕事)も、走って届ける(飛脚)からトラックで届ける、自転車で届けるになり、これからはドローンなどに代わるかもしれないといわれています。物を運ぶことは変わらなくても、物を運ぶのに必要なスキルは変わっています。

そうなんです。常に変化はしているんです。ただ、その変化の速度がものすごく早い社会になっているということなんです。

でも、変化の速度に関係なく変わらないものもあります。「困っている人を笑顔にする」ということです。これは、仕事の本質、社会の本質だと思います。これって実は、「ソーシャルチェンジ」のテーマと一緒なんです。

変わりゆく時代のなかでも変わらないもの、そこを見つけていくことがこれからの時代に必要なスキルなのではないでしょうか? だから答えのない課題を探し、自分なりの答え(納得解)を見つけていく探究学習が必要なのです。

小嶋:夢なんてない、未来とか仕事とか分からない、と悩む生徒もいます。でも「分からない」とは「知らない」ことであり、「知らない」の解決策は「知る」、「知る」の同義語は「出会う」だと、私は考えています。逆に一つのことしか見えていない生徒にも同様のことがいえるかもしれません。

クエストカップ2022全国大会の社会課題探究部門「ソーシャルチェンジ」でグランプリを受賞した「おおぞら子育て協力隊」のメンバー。

探究学習の活動では生徒たちを外に出すことを小嶋先生は勧めます。

小嶋:「おおぞら子育て支援隊」は虐待される子どもたちをどうにか助けたい、それには養育者を支援することが必要と考え、「フリースペース」を提案しました。

そこに行きつくまでに、まず、養育者の支援サービスを調べるために子育てサロンにアポを取り、サロンで職員に「お母さんたちに聞いてみたら」と提案され、アンケートをすることになり、そこから新宿中央公園でアンケートを取るには許可がいると公園の管理人から教えてもらい、役所で許可を取って、見知らぬお母さんに体当たりでアンケートをとりました。

「おおぞら子育て支援隊」がインタビューした大人たちの一覧

小嶋:生徒にとって、一つひとつのアクションは勇気のいることでしたが、外に出ることでいろんな大人(ホンモノ)との貴重な出会いがありました。

以上が、これまでの私の「リアル」です。もし参考になる部分があれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。

この後、参加者の質問タイムでした。

Q.生徒のモチベーションをもう一歩上げるための工夫は? こんな感じでいいんじゃない?というレベルで止まってしまいがちです。

小嶋:探求を深めるためには、やはり「問い」だと思います。生徒がもっと調べたり、考えたくなる問いかけができるといいですね。あとは外に出ること!

Q.探究学習の時間を確保するのが大変そうで、同僚の教員が乗ってくれません。

小嶋:可能であれば、複数教室で同時にやる。今日参加されている先生がファシリテーションして、他の先生は教室でサイドワークをする。全員の先生に同じことをさせるのは、業務の足し算になって負荷が増えます。効率よく、ラクできる仕組みを考えるといいのでは。オンラインの活用は効率化のポイントかもしれません。

Q.グループワークの前提として、生徒個人のワークや個人探究は行いますか?
小嶋:個人で考えるのがまず必要です。最初からグループワークにすると、どうしても「リーダー」と「ライダー」、「話し手」と「聴き手」に分かれてしまう。テクニックとして、個人で考えたものをシェアして協働する順番で必ずやっています。例えば、個人で「新説 桃太郎」のストーリーを考えて、3時間目にプレゼンテーションをする、となったら、生徒は皆めちゃくちゃ考えます。導入時に生徒が乗り気にならない、グループワークで話が活発にならない場合は、個人に重きを置く時間を長くするのもいいかもしれません。

【参考】
探究学習はじめの一歩!【実例】探究学習のテーマ16種
「探究学習」の最先端 教育と探求社の総合パンフレット
教員向けイベント情報


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