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全ホワイトカラービジネスマン必読書/要約『ナレッジワーカーマネジメント』

夏休みの個人的な課題図書1冊目。
坂井風太さんが出演されているYoutubeにて、「ホワイトカラー労働者のマネジメントエッセンスがぎゅっと詰まった1冊(意訳)」と紹介されていたのがこちらの書籍。

私は1冊の書籍を読むと、大体8,000字くらいの要約が出来上がるのですが、今回は13,000字ということで、控えておきたい考え方や金言、実践例に溢れていました👍️

多様な専門職が集まって1つのプロダクトやサービスを提供する企業にとって、ホワイトカラーの原価管理や人事評価は非常に難しいです。
営業職の貢献は数字にあらわれても、クリエイティブや管理部門の創出する価値は定量化しづらいからです。

また、製造業の原価計算において、直接人件費・間接人件費は会計上の費用をベースに計算されますが、「誰よりも仕事を早く捌ける●●さん」「いつもミスばかりで勤務態度の悪い●●さん」といった労働者個人ごとの能力や生産性は考慮されません。一方で、ホワイトカラー職種では「誰が行う仕事か」によって生産性が大きく変動します。

本書では、ヒトしか生み出せない付加価値をいかに最大化するか、ナレッジワーカーを抱える知的サービス業が、「勝ち組企業」へと変わるための発想とテクニック、実践術を提供されています!


『ナレッジワーカーマネジメント 業績も人もついてくる数字で語るマネジメント術』

はじめに

「知的サービス業の経営管理はなぜこんなにもざっくりしているのか」
管理会計等の学問領域においても、知的サービス業を対象にした研究が少なく、結果として、知的サービス業の標準的な経営管理ノウハウが世に出回っていない。とはいえ、「ざっくり経営」を続けると事業の生産性が思うように高まらず、内部留保が厚くなりにくい。
本書では、著者が先輩、経営者から学んできた経営ノウハウや自らの実践知をまとめ、体系的な経営管理ノウハウとして公開している。


ナレッジワーカー・マネジメントの要点は次の3つ。

  1. 目的の定義
    数字で語るマネジメントの目的を定義し、社内で共通認識を持つ。

  2. 見える化
    経営理念や事業のミッションから事業・部門・個人のKPIを逆算し、KPI管理に必要なデータの見える化を経営マターで推進する。

  3. 人材管理
    KPI管理が短期主義やセクショナリズムを招かないよう、メンバーが中長期の持続的な成長及び全体最適を追求するインセンティブ設計を行う。


知的サービス業の競争力の源泉は、高度な専門知識・スキルを備えたナレッジワーカーであるため、事業を継続的に成長させるためには、優秀な人材の採用、育成、抜擢、定着に取り組む必要がある。
見える化を経営マターで推進すべきなのは、KPIを活用したマネジメントによって、経営者が思い描く「あるべき姿」へと組織・個人を方向付けながら、メンバーの能力や生産性を客観的かつ公平に評価するためである。人材管理までをスコープに含んだ制度設計は経営陣しかできない仕事である。また、全体最適の目線から設計されたKPIツリーは、組織の生産性を最大化する人員配置の検討の際にも活用可能である。


第1章 ナレッジワーカー・マネジメントとは何か


中長期の戦略を実現する、数字で語るマネジメント

ナレッジワーカーマネジメントとは、「高度な専門知識を備えた人材が競争優位の源泉となる知的サービス業において、組織全体が中長期にわたって成果を出し続け、経営理念・ミッションを実現することを目的に、KPIを通じて個人・組織を方向付けながら、見える化された経営数字を用いて経営すること」と定義する。
ナレッジワーカーの対義語に当たるのはマニュアルワーカーである。定型化・標準化された作業を正確かつスピーディーに処理する効率性を追求し、かつその効率性に見合うだけの仕事を受注できていれば経営は成り立つ。
ナレッジワーカーは、クライアントの個別具体的な特殊要件に対応するなど、まだ定型化・標準化されていない業務を自らの専門知識を使って処理することが求められる。そのため、個人によって能力や生産性のばらつきが大きくなり、プロジェクトによっても、生産性がばらつきやすい傾向にある。
ビジネスモデルの観点から見ると、発生する費用の大半が人件費であることも特徴である。


知的サービス業はなぜ数字で語りにくいのか?

製造業の生産力の源泉は、工場にある機械が中心である。業務が十分に機械化・自動化されて大量生産が可能になると、発生する原価も、直接労務費より材料費の割合が高くなる。減価償却費も無視できないとはいえ、焦点は、具体的なモノにあたる。管理会計が製造業から始まって進化を遂げた理由の1つは、モノの管理が会計と相性が良く、生産に係る原価や損益分岐点など、経営判断の根拠を数字的に明らかにしやすいからである。
知的サービス業の場合は、管理会計の対象がモノからヒトに変わることで、要件・仕様が明確でも品質に客観的基準を動きにくく、加えて個別精算であるために成果物・サービスの品質がぶれやすく、ヒトの稼働を加味した原価計算が難しい。さらに「誰が・いつ・どの仕事に・何時間ほど稼働する予定か」といったリソース管理の体制がなければ、合理的な納期設定が難しく、受注が立て込むと現場に残業を敷いてしまいがちである。
つまり、知的サービス業務における管理会計の難しさは、測定の対象がヒトであり、かつ個別精算のために成果物がほぼ毎回異なることによる「見えにくさ」にある。


知的サービス業の成長余力を蝕む「価格・原価の曖昧さ」

広告業であれ、システム開発業であれ、多様な専門家がチームを組んでプロジェクトに当たる。こうした特徴は、仕事を請けるときの適正な値付けが非常に難しいことを意味する。誰がいつどの作業に何時間ぐらい稼働する予定なのかを正確に見積もることが大変で、実際にスタートしてみると、メンバーの力量と求められているレベルに差があり、何度も手戻りやメンバーの入れ替え、増員が発生し、原価が膨らむ。
つまり見積もりには「プロジェクトの難易度・要件の見極め」と「個人の能力を踏まえたアサイン・リソース管理」といった2つの難しさがある。
しかも、その見積もりが適正だったかを判断するためには、発生した原価と見積もりの再分析を行う必要がある。売上と仕入の把握ができても、個別のプロジェクトに労務費や販管費等の費用を紐付ける原価計算の難易度が高い。それ故、粗利ベースでの経営管理にとどまっている企業が多い。


経営に弊害をもたらす「ざっくり経営」

広告制作業などクリエイターを多く抱える企業では、よいものを作りたいという気持ちが強く、クオリティーを追求するあまり残業が多くなるなど、利益の度外視につながってしまいがちである。
経済学における限界生産力低減の法則と同じく、「限界クオリティー逓減の法則」が働く。一定のクオリティーに到達するまでは工数をかける価値は十分にあるが、それ以上求める場合は、クリエイターが膨大な工数を増加しなければ、一定以上のクオリティーにたどり着かない。
ただし、クオリティーへのこだわりと、利益は必ずしも相反するものではない。
対して、売上至上主義も度が過ぎれば経営を圧迫するリスクになる。営業コストや制作コストを無視して営業が値引きをすると、忙しく仕事をしているはずなのに、売上に利益がついてこないといった苦境に立たされる。忙しいのに利益が出ない状態が続くと、頑張っている社員の給与を引き上げる余地が生まれないことから、社員のエンゲージメントを損なう可能性がある。
こうした事態を防ぐには、会社として見積もり提示に統制をかけることが重要である。そして値引きに関するルールを整備するためには、やはり精度の高い原価計算に基づいて「結局、その仕事でいくら利益が残るのか」を明確にする必要がある。
生産性が高まらない限り、事業拡大は成長ではなく膨張である。100人で100億円の仕事を手がけている会社が、200人で200億円の仕事をこなせるようになったとしても、それは成長ではなく膨張である。生産性を高めるからこそ、150人で200億円の仕事に取り組めるようになり、社員の給与を高めながら、企業としての競争力を維持・向上させられる。知的サービス業に限らずだが、生産性を高めていく事は、企業の健全な成長には不可欠である。
部門別・プロジェクト別等の細かな粒度で、生産性をタイムリーに管理する体制が整っていなければ、ビジネスプロセスにおいて、生産性向上を図るべきポイントを把握できない。


第2章 知的サービス業の「見える化」を阻む4つの壁


業務管理の壁

専門的な知識・スキルを持つ人材(ナレッジワーカー)が生産力の源泉であるが故に、業務プロセスやデータ管理方法が標準化・統一化されにくいため、取得すべきデータの定義や分析に耐えうるデータの収集・蓄積が困難である。
業務が属人化している領域が広ければ広いほど、作業工数の見積もりも担当者の感覚に依存してしまう。改善を試みるには、まずは標準的な業務フローや標準的なプロジェクト進行を整理・モデル化することから着手する。
組織の生産性を向上させるためには、定型化できる業務を自動化し、より専門的な知識を求められる業務に注力できる体制作りが欠かせない。
この壁を乗り越えるために向き合うべきは次のポイントである。

  1. 現場の感情に配慮しながら、業務標準化を進めるためのインセンティブ設計

  2. 業務の標準化を進めた上で、工数見積もりの精度を高めるためのデータ収集・蓄積

  3. 全体最適の視点で、効率よく必要なデータを収集・蓄積する方法の設計


売上管理の壁

プロジェクトの受注後にも要件・仕様の変更が発生するため、売上が変動しやすく、また引合案件の進捗管理においても、3ヶ月先の売上見込みと実績が大きく乖離するなど、先々の売上をタイムリーかつ正確に予測することが難しい。
営業部門の「ヨミ(案件の受注見込み)」に大きなブレが発生していることが多い。ヨミ精度を高めるためには、フォーキャスト管理(売上の着地予測)が有効である。
フォーキャスト管理の精度を高めるためには以下の2つが有効である。

  1. コミュニケーションのルール整備

  2. 受注に至るプロセスを分解してKPI管理を行うパイプライン管理

パイプライン管理では、自社の営業プロセスをフェーズごとに細かく分類し、フェーズから次のフェーズへの遷移率・転換率を設定し、目標とする受注金額・受注者数の達成から逆算して、各フェーズでどれだけの見込み案件やアポイントが必要であるかを算出して予実管理を行う。そして、パイプライン管理のデータを見ながら起こすべきアクションを部署内で議論して実行に移す。
このように売上・利益に関わるプロセスをKPIで管理しておけば、翌年の予算を立てるときに、裏付けのある目標設定が可能になる。
個別のKPIの推移を数年分確認することで、先々の成長阻害要因を早期に特定して対策できる。上場審査においても、売上と利益の予算達成が必ず問われる。


損益管理の壁

費用の大半が人件費であるにもかかわらず、プロジェクト別に「誰が」「どれだけ」稼働したかを精度高く管理できていないため、労務費や販管費を加味したプロジェクト別の損益が曖昧なままである。
そこで、作業時間を記録する工数管理に真正面から取り組む必要がある。
知的サービス業の場合は人件費を変動費と捉え、プロジェクト損益のデータを蓄積・公開していくことで、現場メンバーの意識や行動に変化が現れる。例えば、目標利益率を基準にして、どこまでクオリティーを追求するかを決められたり、利益率の良いプロジェクトにおける成功の秘訣を「ベストプラクティス」として現場間で共有したりなどの波及効果が生まれる。
売上だけでなく、利益についても見える化して、フォーキャスト管理を行い、経営者や事業部長、マネジメント層も利益を重視したマネジメントを行うことで、営業担当は自然と利益率の高い案件を受注してきたり、製造部門と協力して費用圧縮を図ったりする傾向にある。
このように見える化を進めると、何らかのインセンティブが現場に働く。この作用を念頭に置いた上で、どのような仕組みを構築するかが、ナレッジワーカーマネジメントの巧拙を決める。


生産性管理の壁

プロジェクト別の損益が曖昧であり、さらに営業部門・製造部門を生産性で統一的に評価する仕組みがないため、部門・個人の生産性や利益貢献を定量的に評価できない。
国策として働き方改革の号令がかかっているとはいえ、多くのミドルマネジメント層が粗利ベースで目標管理しており、メンバーの稼働を含めた営業利益ベースで損益を考える方はほぼいない。
生産性を高めて利益を拡大するには、無駄なコストが見つかれば、営業利益ベースでも現状把握を行い、随時削減するように手を打ち、販管費まで意識した損益管理を心がけ、生産性に関する指標を共通言語として活用することが求められる。
現場が経営を自分事として考えるきっかけを作るには、まずは経営数字を見える化して公開することが効果的である。
部門・職能が異なる社員の公平な評価にも、生産性は活用できる。当社では部門別採算制度を導入し、製造部門などのコストセンターを可能な限りプロフィットセンターとして扱うことで、営業部門も、製造部門も、生産性に関わる指標で評価が可能になってくる。


第3章 4つの壁を乗り越える実践「7つの鉄則」


鉄則① KGI・KPIは経営理念・ミッションから逆算

これは見える化の目的を明確にするために行う。経営数値の管理は、経営者の思いが反映された数値目標を達成するために行うものである。
ナレッジワーカーマネジメントを導入して、明確な成果が出るにはそれなりに時間がかかる。当社のクライアントからは1年かけてデータを収集し、ひとまず「昨対」が見える化してからが本番と伺う。なぜなら、KPI自体の設定や目標設定の精度を上げていくためには、設定したKPIの数値と結果を分析しつつ、複数年かけてデータを積み重ねる必要があるから。加えて、成果につながるKPIを見出すにも試行錯誤が不可欠である。
つまり、導入初年度で劇的な成果を上げることが難しいだけに、取り組みが途中で頓挫しないよう、目的や目指すべき方向性をはっきりさせることが重要である。
KPIは「変えていくことが前提」である。なぜなら、事業を取り巻く環境が変われば、または自社の成長戦略や重視する目的が変われば、それに合わせてKPIも変わってしかるべきであるから。


鉄則② 部門の責任を明確化し、権限を全て部門長に委譲せよ

数字で語れて、自責思考の優秀な人材をマネジメント層に引き上げるのがトップの仕事である。その上で、現場の正しいプロセス改善を阻害しないように、権限を部門長に委譲する。
こと経営においては、正しいプロセスが継続されれば、中長期にわたって結果が出続けるものである。誤ったプロセスでも、まぐれでも結果が出る事はあるが、それは持続的ではない。だからこそ、優秀なマネージャーとは、正しいプロセスを追求できる人だと考える。優秀なマネージャーのプロセス改善を阻害しないためにも、原則すべての権限を部門長に移譲する事は重要である。


鉄則③ ノルマとKPIは別物、全体最適・中長期の目線を持つべし

KPI管理とは、結果が出なかった人を攻撃するための材料ではない。あくまでもプロセスを改善し続けるために活用するものであり、その結果として中長期的な事業成長を実現することが目的である。
短期的なKPI達成のプレッシャーが強くなりすぎると、来期の会計を先食いするなど、現場が正しい方法で成果を出すことから逃げてしまう可能性がある。そのためKPI管理を実践する上では、個々のKPIを全て達成させることにとらわれすぎず、あくまで全体最適や中長期的な成果の最大化を常に念頭に置くようにする。
そのため当社の人事評価では、KPIの達成状況は考慮するものの、短期的に結果が出なかったからといってすぐさま評価を下げる事は行っていない。まぐれは続かず、結果を出すプロセスに再現性がなければ1〜2年しか好調な結果は持続しない。一方で、結果に至るプロセスを分解してKPI管理をし、ボトルネックのプロセスを改善し続けていれば、たとえ短期的に結果が出なくても、最終的には長期にわたって持続的に成果が出る。


鉄則④ 経営管理は、まず売上の「フォーキャスト管理」から

未来の売上・利益を予測する精度を高めていくためには、まず売上見込みと実績値を比較し、大きなギャップが発生した場合、その原因を分析した上で、次年度以降の予測に反映していくことを繰り返す必要がある。どのKPIの目標設定が甘かったのか、あるいは辛かったのかを確認していく。
上ブレした理由が各部門の目標設定が保守的すぎたのか、あるいはその成果が各部門の努力によってもたらされているものなのかによって、意味合いが大きく変わってくる。努力の賜物であれば、その成果を適正に評価して、社員に還元することで、エンゲージメントを高められる。この努力を見過ごしてしまうと「努力が報われない会社」と悪印象を社員に与えかねない。


鉄則⑤ 工数管理抜きに、知的サービス業の利益確保はできない

プロジェクト別の営業利益を見える化するために、間接費の配賦が必要になる。工数基準の場合は、社員が「どのような業務」に「どれくらいの時間」を使ったのかと言うデータが欠かせない。これらのデータはプロジェクト単位だけでなく、クライアント単位・部門単位等のセグメント分析も考慮した集計方法の設計が必要である。
将来的に事業拡大していく場合は、「プロジェクトの売上に、プロジェクトの仕入を紐付ける」ことから始める。


鉄則⑥ 第6感に頼る前に、自ら率先して生産性を数字で語れ

生産性を測るKPIとしては、「1時間あたり営業利益」が非常に有効である。効率性を表すこの数字が良いほど、より少ない時間でより多くの利益を生み出していることを意味する。
粗利だと失注案件の営業コストや間接作業分の労務費等が計算に含まれないため、粗利ベースで黒字だったとしても、営業利益ベースでは赤字になるケースがあり得る。
働き方改革が叫ばれている時代において、主観的判断によって、真に生産性が高い社員を冷遇することなく、時間あたり営業利益によって能力評価できれば、当該社員の業務の進め方をベストプラクティスとして参考にするなど、組織全体の生産性向上・業務標準化を図れる。
ただし、KPIとして、実際に見えているのは「3,000円」といった数字のみのため、単年で見てもマネジメントには活かしにくい。だからこそ、数年にわたって定点観測を続ける必要がある。
部門長からは往々にして「人員が足りていない」「新たに採用しないと仕事が回らない」といった相談が寄せられるが、本当に人員を補充することが会社として正しい意思決定になるのか。こうした場面の判断基準になる生産性のKPIが「人月あたり粗利」である。計算方法は、部門別の粗利を実質的な人員数で割るだけである。
実質的な人員数は、単に部門に属している人員数ではなく、「当該部門に投入された人件費を、標準人件費(人件費レート)で割った値」として算出する。

例としてシステム開発業では、製造部門のコンサルタントやSEがプリセールス(受注前段階の営業提案への同行)を行うことがある。個別のプロジェクトにかかる人件費を変動費として捉えるならば、プリセールスにおける稼働は、製造部門の費用ではなく、営業部門に紐付く費用となるので、こうした部門間協力が起きる際は、部門に紐付いている人件費ベースに人員数を算出し直すことが適切である。

「人月あたり粗利」で適正人員数を見極められる理由は、会社全体としては、人件費を固定費としてみなせるからである(人件費を変動費扱いするのは、プロジェクト損益管理において)。
もし自部門の人月あたり粗利が人件費レートよりも小さければ、赤字部門ということになり、人員を補填する余裕はないと判明する。忙しい理由は、業務量に見合わない価格で受注しているか、よほど業務効率が悪いからである。こうした部門では人員増を考える前に、赤字の原因を改善して黒字化を目指すべきである。既存の人員で生産性向上を図った上で、人員を増やす。
人月あたり粗利が人件費レートよりも十分に大きい時は、人員補充が可能である。人件費レートをどの程度上回っているかによって、補充できる人数やスキルが変わるため、先々の受注見込みなども考慮して人員補充を検討する。
当社では、このKPIを継続的に高め、続けているマネージャーを優秀な人材として評価している。

間接作業時間をうまく減らせば、生産性はもっと高まる。会議や事務処理時間など、成果に直接結びつかない間接作業時間が多くなると、生産性は低くなる。そこで間接作業にどれだけ時間を割いているのかを把握するためにも、部門別・担当者別の間接作業時間比率を確認すると良い。間接作業時間を総作業時間で割れば求められる。
定例会議などで意外に時間を取る状況報告などは、社内のメンバーがいつでも閲覧できるようにドキュメント化して伝えるようにし、会議の場では、対面でなければ伝えにくい情報の伝達に絞るだけでも、かなり時間を削減できる。


鉄則⑦ 実践の絶対条件は「正しいデータ」の入力にあり

数字によって経営状況を正確に把握し、適切な意思決定を行うためには、正確なデータを使うことが大前提となる。
当社が実践している例で言うと、新卒採用においては、採用媒体の比較検討に費やした時間と採用媒体にかかる費用、その他採用面接のセッティング作業、内定後の懇親会の費用、スカウト対応、面接官として協力してもらう社員や役員の稼働時間等を分類してデータを収集する。ここまで細かくデータを採ることで、「面接官の人数を1人少なくする」などのデータに基づいた改善が行える。
細かくデータを取るほどわかることが増えるが、その反面、入力の負担も重くなる。しかし、集計したデータに基づくマネジメントが実践されれば、現場は正確なデータ入力の意義を理解してくれる。データに基づく会話が交わされていれば、自然と正確なデータ入力の重要性が社内に浸透していく。


第4章 連続成長を実現する、ナレッジワーカー・マネジメント実践例


経営理念・ミッションからの逆算で、KPIツリーを設計

理念を浸透させるために広く実践されている手法の1つは、ザ・リッツ・カールトンのように理念をクレドに落とし込み、毎日の朝礼などで読み上げる取り組みがある。しかし、絶対的な正解はなく、自社に最も適したやり方を模索し続ける必要がある。
経営理念やミッションからの逆算でKGI・KPIを定義すると、経営理念やミッションが現場の日々の行動目標に落とし込まれ、同時に、マネジメントや見える化の目的が不動のものとして定まっていく。
逆に、経営理念やミッションが起点とならない見える化の問題点は、個別的に陥りやすいところである。
当社が実践しているナレッジワーカーマネジメントでは、設定した目的を実現するため、つまり目指すべき未来にたどり着くために、自社の経営状況を常にチェックできるKGI・KPIを設定して運用する。
具体的には「労働生産性=1人当たり営業利益+平均年収」と定義し、社員にも、株主にも還元できるよう企業価値向上に取り組んでいる。
KPIツリーを整理することは、部門のミッション・責任を明確化することにつながる。部門が達成すべきKPIは、部門長に大きな裁量と責任を持たせる。仮に目標に達成せずとも、その原因の追求と改善に向けた施策を部門長から必ず報告してもらい、正しくプロセスを改善できている場合は、引き続き部門長を任せる。


数字で語りながら、短期的な成果主義に陥らない仕組み・文化を形成

成果主義のように達成状況と評価を100%直結させると、目先のKPIを利己的に達成することに対して、強力なインセンティブが働く。短期達成に目を奪われると、中長期での成長に向けた取り組みや、全体最適に基づく部門間の協力が阻害されやすい。
例えば当社では、成果(KPI達成状況)は人事評価全体の4分の1に留め、残りの4分の3は人間性で評価している。リーダークラスになると、自分のチームで利益を上げることができなかったとしても、他チームの成果に貢献していた場合、そこを一定は考慮して評価する仕組みがある。これにより全体最適の視点、人間性を培うことを促す。
デメリットは営業のスーパーマンが定着しにくいこと。しかし、著者はそれで良いと考える。継続して成果を出し続けるためには、1人のスーパーマンに頼るのではなく、成果が出る仕組みを整えること、つまりプロセスを標準化して、組織全体の能力を底上げした方が最終的な成果は大きくなる。


「時間あたり営業利益」「人月あたり粗利」を共通言語に
平均年収は事業部ではなく、会社がコントロールする領域のため、事業部としては一人当たり営業利益の最大化を目指す。ただし、実務上最大化を図るためには「時間あたり営業利益」まで数字を落とし込む方が有効である。なぜなら、一人当たり営業利益は1年間に社員1人がどれだけの営業利益を上げたのかを表す資本のために計測サイクルが長く、より短期間で改善を積み重ねるには不向きだからである。当社では、1時間単位の生産性の推進を四半期ごとに注視している。

時間あたり営業利益=営業利益 ÷ 総労働時間

KPIは、粒度を細かくしようと思えば、工夫次第でいくらでも細かくできるが、著者は、部門別・クライアント別・プロジェクト別・担当者別の4セグメントを重視している。ここさえ押さえておけば、生産性が上がらない理由が大体わかる。
時間あたり営業利益とともによく確認しているKPIが「人月あたり粗利」である。理由は部門単体で損益が成り立っているかが判断できるからである。当社の場合、販管費を含めた本社人員の人月あたりのコストが800,000円ほどになるので、利益を出すためには800,000円以上の人月粗利を確保しなければならない。

人月あたり粗利=粗利 ÷(総人件費 ÷ 人件費レート)

決算資料等から業績が好調な上場企業の労働生産性をベンチマークするのもいいが、労働生産性は様々な改善施策や取り組みを継続的に行った総合結果として向上していくため、数字ありきで模倣するのではなく、自社の状況を踏まえて、頑張ればギリギリ到達できるラインを見極めた目標設定が重要である。  


時間あたり営業利益に匹敵する重要KPI、業務自動化量

労働生産性を向上させる上では、業務を自動化することが非常に有効である。人間の代わりにRPAなどが業務を行ってくれれば、インプットが大幅に削減されるため、人間が工夫して業務効率を高めたり、作業時間を短縮したりするのとは比べ物にならないほど大きな改善効果をもたらす。
知的サービス業の場合、クリエイティビティーが求められる業務の多くは自動化が難しい。そのため、業務標準化の余地や恩恵が大きい。カスタマーサポート部門の自動化から進めるのが良い。
自動化した業務量をKPIとして定点観測しつつ、定期的に業務を見直し、不要な業務を削減することを推奨することで生産性を高める。
最適なKPIは一朝一夕には見つからない。これが事業の成長に効きそうだと思った指標は、積極的にKPIに組み込んで試してみる。
事業の成長に対して有力なKPIが成長ドライバーであり、機能別組織を採用することで、成長ドライバーごとに部門を分けて各部門のミッション、役割を明確にできる。ちなみに、サブスクリプション型ビジネスの場合、ARR(年間経常収益)やチャーンレート(解約率)を押さえると良い。


「売上管理」マネジメント① KPIから営業活動の制約条件を解読

営業コストを可視化するために、当社ではタクシー利用率を始めとする経費使用状況を集計している。例えばタクシー利用回数や年間の利用経費、1訪問あたりの利用経費などを事業部全体に公開している。ブラックボックスになりがちな営業コストは、一般的に高い売り上げを上げている成績優秀者ほど黙認されることが多い。こうした数字を公開することで、営業担当者には悪目立ちを避けるために、不必要な経費利用を抑制するインセンティブが働く。


「売上管理」マネジメント② 既存顧客営業は新規開拓と別KPIで

当社では新規顧客開拓とは別の組織として、既存顧客へのアップセルやクロスセル活動を行うカスタマーソリューショングループを設置している。新規営業は基本的に当社のクラウドERPを中心に提案するが、既存顧客営業は他社製品も含めた提案を行う。
既存顧客営業では現在進んでいる課題や、今後顕在化する可能性がある課題を洗い出すため、面談時間をKPIとして重視する。


「利益管理」マネジメント① アサイン管理の精度を継続的に高める

案件の難易度と社員のスキルを定量化できると、アサインの精度をいっそう高められる。
受注した案件の内容と同程度の案件を、過去の実績からピックアップして、どの程度の力量を持った社員が何名アサインされ、案件を完遂するまでに、それぞれ何時間稼働したのかを抽出することで、今回の案件の予定稼働時間を推測する。案件終了後は、アサインした社員の稼働予定時間と実際に稼働した時間を比較して差異分析し、次回アサインする際に見積もりを改善することを繰り返して、アサイン管理の精度を高める。
こうしたデータを蓄積していくと、ナレッジワーカーのスキルレベルと、案件の難易度に応じた稼働時間の平均値がわかってくる。
社員の力量を定量的に判断できると「成長を促すために、1つ上のレベルの案件に挑戦させよう」といった判断もしやすくなる。


生産性マネジメントには部門別採算制度が有効

部門別採算制度のメリットは、部門ごとに時間あたり営業利益や人月あたり粗利などの生産性指標を見える化できるほか、職能の異なる部門を粗利で統一的・横断的に評価できることが挙げられる。
営業のように売上が立つわけではないマーケティング部門や開発部門、サポート部門など、コストセンターの利益は「社内売買」の仕組みを整える。例えば、営業が10,000,000円の案件を受注した時、その中から設計部門に3,000,000円、開発部門に4,000,000円、テスト部門に2,000,000円といったように営業から他部門に業務を発注する形を取る。営業部門から受注した各部門は、受注額に応じて案件ごとにメンバーのアサインを行い、事前に見積もられた工数の範囲に収まるよう意識しながら担当業務に取り組む。
社内売買の仕組みを取ることで、たとえ赤字になった場合に、どの工程にトラブルがあったのかを客観的に振り返り、責任の所在を明確にできる。また、部門長には経営者に近しいスキルが求められるため、経営人材育成というメリットがある。さらには、製造部門が技術力を高めることへの動機付けになる。あくまで原理的な話だが、もし社内の製造部門の競争力、生産性が低い場合、営業には製造工程を社外に発注するインセンティブが働く。つまり製造部門は、市場よりも競争力や生産性を高め続けなければ、営業部門から発注をもらえなくなる。「部門別採算制度は市場に直結している」のである。
部門別採算制度以外にコストセンターの管理手法として、コストセンターの費用を共通費として、プロフィットセンターに配賦する方法もある。


部門別採算制度のコツ① 積算担当が各部門の適正利益を保証

積算部門とは、製造工程に係る値付けを行う専任部門で、営業からクライアントへ見積もりを提出する際、案件の原価を割り出し、そこに会社として設定している利益率を加味して、設計、開発、テストといった各部門に営業からいくらで発注すれば良いかを決定する。
各部門への発注額を積算部門が決定する理由は、公平性を担保するためである。力の強い部門の言いなりで価格が決まると、部門間の摩擦が生じてしまう。
ちなみに当社では積算部門のコストは、営業部門が負担している。理由は、営業が見積もりを提出する段階で、積算部門の稼働が発生するからである。また、依頼件数が多く、営業部門の利益率が下がることを避けるために、受注確率の精度を高めるインセンティブを営業部門に働かせるためでもある。
また、部門間の摩擦を避けるためには、全体最適を目指して、協力体制を取れる人間性を備えた人材を部門長に任命することが重要である。


部門別採算制度のコツ② マーケティング部門も独立採算部門に

当社ではマーケティング部門もコストセンターではなく、独立採算部門として扱っている。なぜなら、マーケティング部門が創出した見込顧客のアポイントを営業部門に販売しているからである。
営業部門の受注率が低い理由が、営業部門の能力不足であるか、あるいはアポイントの質が低いのかを明確にするため、アポイントの質を満たしているかどうかを判断する一定の基準を設定し、それをクリアしないと営業部門には渡せない仕組みを取っている。
例えば、「お客様から引き出した課題が、自社ソリューションによって解決できる内容であること」「1年以内に意思決定を行う」「稟議を上げる期日が決まっている」など。
アポイントの売買を始めた当初は、詳細な条件を設けていなかったが、ある時、受注率が大きく低下したことがあり、その原因がアポイントの質の悪化にあると判明した。営業部門は受注確率をKPIに設定して結果責任を負っているため、アポイントの質の悪化は看過できない。そこで質を担保する条件設定をマーケティング部門と設定したという経緯がある。このように改善点が見つかった時は、柔軟に精度を変更することがナレッジワーカー・マネジメントの精度を高めていくコツである。
また、アポイントを営業部門に販売する仕組みを採ったことで、マーケティング部門は「アポイント創出に責任を負う採算部門である」と、所属メンバーに意識付けができた。アポイントを創出するために広告宣伝費を使いすぎると費用が上がり赤字となる。
営業部門でも既存顧客深耕と新規顧客開拓とで業務内容も重要なKPIも異なることに気づいたように、有用なKPIを模索しながら、定点観測し、改善を繰り返していくことで、組織構造から変えた方が高い効果を得られると気づく。そうした際は、組織のあり方から柔軟に考えて、より生産性の高い組織構造に改善していく。


短期的な生産性低下は許容してでも、新人や異動者への教育を重視

目先の利益や生産性を多少犠牲にしてでも、教育にはしっかりと時間とお金をかけて、人材の成長スピードを速めるべきである。なぜならば、知的サービス業の競争力は、ナレッジワーカーによってこそもたらされるからである。
例えば、教育目的でやや難易度の高いプロジェクトに若手をアサインすると、利益率が悪化してしまう。このように、人材のスキルアップにも重きを置くため、計画された多少の生産性単価は許容する。

以上、計13,000字の要約でござんした!

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