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“光あるうちに光の中を歩め”(後編)(#28)

ロシアの組織的なドーピング問題に関するスポーツ仲裁裁判所の判決を受けて、ロシアは選手団は東京オリンピック・パラリンピック2020から除外されることになりました。
ただ厳しい条件を満たした選手のみ個人資格で参加できるようです。
ロシアにおけるオリンピックの空白といえば1984年のロサンゼルスオリンピックです。
当時と事情は異なりますが、東京オリンピック2020もロシアにとってはオリンピック史における新たな空白となりそうです。

東京とモスクワ、地下鉄のステンドグラス

そんな両国の首都、モスクワと東京に共通するのは歴史ある地下鉄にステンドグラスの彩りがある点です。
モスクワメトロ(正式名称:モスクワ州統一企業「レーニン記念モスクワレーニン勲章と赤い労働者地下鉄」)は1935年に、対して、東京メトロ自体は2004年からですが、営団地下鉄時代まで遡ると1941年の設立です。
尚、ロサンゼルスにも地下鉄(ロサンゼルスメトロレールの一つ)はありますが、開業したのは1990年とやや歴史が浅く、オリンピックから少し月日を経ってからとなります。

トルヴナヤ駅

ノヴォスロヴォドスカヤ駅

山下良平「躍動の杜」/東京メトロ銀座線 外苑前駅

大津英敏「海からのかおり」/東京メトロ副都心線 渋谷駅

こう比較すると、日本のステンドグラスはどことなく具体的というより“原画の再現性”に重きが置かれた一表現技法として扱われている気もします。

パブリックアートは交通機関と結び付きやすい?

実は日本国内にはステンドグラスに纏わる美術館がいくつかあります。

小樽芸術村 ステンドグラス美術館(旧高橋倉庫)
那須塩原ステンドグラス美術館
伊豆高原ステンドグラス美術館
湯布院ステンドグラス美術館

上記4つ以外にもまだまだあり、それはステンドグラスという技法が芸術表現のひとつとしてかなり市民権を得ていることなのかもしれません。

共通するのはガラス特有の“色鮮やかさ”です。

それが“館”に収まると空間にいる人々は光に包まれ、その世界はどことなく厳かな印象さえあります。
神は光、それはまるで日中の“太陽”のようです。
反面、地下鉄ではその地下空間を照らしたのは“”のような存在かもしれません。

地下鉄の主な目的は移動です。

鑑賞や嗜好性ではありません。

「快適に過ごせるか」「早く目的地にたどり着けるか」等々、それらは付加価値に過ぎないのです。

だとしたら空間へと挿し込まれた彩は、その空間から実用性を中和しているのかもしれません。

パブリックとは“より多くの人々に向ける”ことを指します。
人はどこから来てどこへ流れていくのか、または流れそのものです。
優しい光を受けて、人は何を思うでしょう?

そのとき、共感、あるいは無機質な感情さえ露わにされるのかもしれません。

様々な人が訪れる地下鉄のような場所で、その地域の象徴的でより馴染み深い表現となるのは必然なのではないでしょうか。

その他、陸の便(JR、私鉄駅)には?

その観点でいえば地下鉄に限らず、JR、私鉄などにもありそうですが、実際全国津々浦々な駅にあります。
尚、地下鉄だけでも諸外国ではモスクワ以外でミュンヘン、ストックホルム、ドバイ、上海、高雄(台湾)など有名どころは多いです。
ただ、こうも国内に点でバラバラに存在しているのは稀な気がします。
それも日本っぽいといえば日本っぽい風情と捉えられるかもしれません。

近岡善次郎「杜の賛歌」/JR仙台駅

高橋陽一「キャプテン翼~世界に翔け~」/埼玉高速鉄道 浦和美園駅

吉岡堅二「クジャク窓」/JR新橋駅

杉山明博「時の詩」/JR新富士駅

(株)パルサ 原画・制作「故郷(ふるさと)」/JR岐阜駅

こうの史代「夕凪の街 桜の国」/広島高速鉄道アムストラムライン 本通駅

田崎廣助「桜島」/JR鹿児島中央駅

紹介した駅や各都道府県の主要駅に限らず、ステンドグラスを用いた駅はいくつも見つけることができます。
きっとしばしの時間の余白を照らすには薄明りくらいが心地よいのかもしれませんね。

空の便、そして宮崎ブーケンビリア空港「神話のステンドグラス」

更に同様のことは空の玄関口でも見受けられました。

米林宏昌「蝶たちと戯れる大獅子」/小松空港(小松飛行場)

水木しげる「妖怪たちの森」/米子鬼太郎空港

森山知己「昔話桃太郎」/岡山桃太郎空港

宮崎ブーゲンビリア空港にはガラス面縦3メートル、横21メートルの巨大なステンドグラスがあります。

藤城清治「神話のステンドグラス」/宮崎ブーゲンビリア空港

テーマは日向神話。

日向神話とは、伊弉諾尊(イザナギノミコト)が禊をしたときに誕生した天照大神(アマテラスオオミカミ)の命を受けて、高千穂峰に天降(あまくだ)った天照大神の孫、邇邇藝命(ニニギノミコト)とその息子、孫の3代に纏わる話です。

また諸説ありますが、伊弉諾尊の禊は九州で行われたといわれています。

そのとき天照大神のほか、須佐之男命(スサノオノミコト)、月読命(ツクヨミノミコト)が誕生しました。

このステンドグラスには月読命がいました。


皇祖神で女性の太陽神である天照大神とは、月読命は対照的に男性の月神といわれています。

そう、日本のひなた(日向)には“”がいたのです。

陰と陽、光と影、世界的“影絵”作家が導き出すステンドグラスの中には反駁と融合が、まさに”八百万”のように再現されてありました。

もしかしたら絵柄や場所にばかり注目していましたが、ステンドグラスの字義通り(Stained=色が沁み込んだ、の意味)、彩こそが“人”なのかもしれません。

それがきっと“光あるうちに光の中を歩む”ということなのでしょう。



<写真参照>
・ロシア・ビヨンド
「モスクワの地下鉄で最も美しいモザイク画(写真特集)」より https://jp.rbth.com/travel/82838-moscow-chikatetsu-mottomo-utsukushii-mozaikku
・日本交通文化協会 https://jptca.org/publicart/
・(株)パルサ https://www.parusa.co.jp/jr
・宮崎ブーケンビリア空港
https://www.miyazaki-airport.co.jp/shisetsu/ステンドグラス

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