Shinya Kunihiro

一児の父 / 京都↔長野二拠点 / 山と辺境音楽とノンフィクション/ デザインと人類学…

Shinya Kunihiro

一児の父 / 京都↔長野二拠点 / 山と辺境音楽とノンフィクション/ デザインと人類学('22春〜博士前期課程@AnthroHandai)/ PMP® / @loftwork

最近の記事

つぐなうデザイン3 / Care in Practice / アネマリー・モルほか

つぐなうデザイン2から続いて、最後は実践である。 精神科医・中井久夫の著書「家族の深淵」には、奇妙な話が登場する。 10年間眠れない女の子がいるというのだ。中井はその子が母親と住む家に往診に訪れ、やがてその澱んだ状況に気づく。優しく語りかけ、時計を隠し、指圧を行い、長い格闘の末に少女は眠る。実は不眠の原因は母親で、その奇怪な行動と中井は駆け引きしながら、なんとか安眠へと誘うのである。 この中井のような行為。これが、この記事で注目する「ティンカリング」である。直訳すれば「

    • つくることをリサーチに取り入れてみよう。Critical Makingのススメ

      こんにちは、国広です。株式会社ロフトワークでディレクターをしながら、大阪大学人類学研究室にも所属しています。 今日、伝えたいのは「つくることをリサーチに取り入れてみよう」です。11月に京都で行った「DIYエネルギー人類学」の展示。その中心となった手法がCritical Making(クリティカルメイキング)です。その体験をもとに書いていきたいと思います。 なぜつくること?僕は、2016年からデザインリサーチに携わりはじめました。最初は高齢社会や家族のお財布事情といったアク

      • エネルギーを草の根で創造的にとらえてみよう!太陽光で稼働するオフグリッドウェブサイトの舞台裏

        京都・五条に、22㎡の小さなプロジェクトスタジオ「なはれ」が誕生しました。ここで行われている「DIY Energy Anthropology(DIYエネルギー人類学)」は見えにくいエネルギーという存在を、手を動かしながら理解し、日常生活にひそむ様々な関係性を探求していくプロジェクト。そのひとつの実践として制作した、オフグリッドのウェブサイトの特長と舞台裏をコラムでお届けします。 オフグリッドシステムとウェブサイトの特長太陽光が動力源 太陽のリズムと共に動くウェブサイトです

        • つぐなうデザイン2 / Repairing Infrastructures / クリストファー・ヘンケほか

          つぐなうデザイン1のつづきになりそうな本だ。社会学者であるヘンケが焦点を当てるのは通信、食料、交通、エネルギー、情報… この地球上を這うインフラストラクチャの修復について。橋に描かれた壁画を保護しながら補修することを巡る対立、大学キャンパスの建物システムの修復、気候変動による地球規模の食のネットワーク問題などが取り上げられる。 本書の冒頭には、「修復」という言葉について、下のように書かれる。つまり、Ecological Reparationで書いたような両義性がそもそも修復

        つぐなうデザイン3 / Care in Practice / アネマリー・モルほか

          つぐなうデザイン1 / Ecological Reparation / マリア・プイグ・デ・ラ・ベラカーサほか

          再出発の話が好きだ。薬物中毒から持ち直した華原朋美など、そんな話に、なぜかどうしても目がいってしまう。本書は(だいぶ違うが)そんな希望のつまった話であり、同時にデザインの姿勢を考えさせられる本だ。 中心となって編纂しているのは、STS研究者であるディミトリス・パパドプロスとマリア・プイグ・デ・ラ・ベラカーサの2人。「傷ついた生態系」と「社会の不均衡」を同時に回復させようとするコミュニティプロジェクトを集めた論考集だ。Youtubeのビデオシリーズもある。 本書でキー概念と

          つぐなうデザイン1 / Ecological Reparation / マリア・プイグ・デ・ラ・ベラカーサほか

          エネルギーと人類学 / Energy Futures / サラ・ピンクほか

          阪大人類学研究室で「Critical Makingとエネルギー人類学」という取り組みをやっている。ひのでやエコライフ研究所の山見さんをゲスト講師に、明日は測定器を作るためにせっせとはんだづけをする予定だ。つくりながら、日 常生活を構成する熱やエネルギーをみる。 エネルギー。個人的には、とにかくうさん臭い笑。それは「姿が見えない」ことと「資本や政治の香りがする」ことが大きい。自分が生まれてから、数十年この印象は変わらない。こんな存在、他にないんじゃないか? そんな自分の興味

          エネルギーと人類学 / Energy Futures / サラ・ピンクほか

          リペアを巡る人類学・STSを読む。10の文章と2022年のおつかれさま

          デザイン事務所で働き出したころ。最初の仕事があるファッションブランドのコンセプトブック作成の手伝いだった。(新人だったので色校正だけ) その本でとりわけ印象に残ったのが、3ページ分の見開きを今にも朽ちそうな植物と鉛を、油性塗料で埋めたアンゼルム・キーファーの「The Secret Life of Plantes」という作品だ。脆弱さ、儚さ、と同時に、希望も感じる。 修理の人類学やSTSを想うとき、脳内に描写されるのは不思議とこのイメージだ。STS研究者のジャクソンが201

          リペアを巡る人類学・STSを読む。10の文章と2022年のおつかれさま

          修理と労働 / Repair matters / V.グラツィアーノほか

          分厚い「修理」の特集だ。 修理にまつわる労働、資本主義経済下での修理の価値、マテリアルと流通の再考、非物質世界との関係、という修理を俯瞰する4つの視点から、12の論考がまとめられている。編集したのは、文化理論家のV.グラツィアーノと都市研究家K.トローガル。 彼女らは、行き過ぎた新自由主義へのカウンターとして修理を探求したい、と語る。この論考集の目的は、修理の概念や姿、身振りを通して、人間が作った事柄、道具、物体との網目のような関係を、政治的な問いとして語る方法を再考する

          修理と労働 / Repair matters / V.グラツィアーノほか

          DIYと(環境)の修復 / Distributed Design

          グローバルにデータは行き来し、材料と知識はローカルで生成される。 PITO (Product In, Trash Out)から、DIDO (Data In, Data Out)へ、を掲げたスペイン・バルセロナのFabCity構想に端を発し、2017年に設立されたのが、Distributed Design Platform。メイカームーブメントとデザイナーの感性が交差するところに出現したDistributed Design(分散デザイン)は、ファブラボ、大学、市民、行政などを

          DIYと(環境)の修復 / Distributed Design

          Sensing Cittàslow / サラ・ピンク

          10年ほど前、いのちの食べかたという映画を見た。 コンベアでリズムよく大量に流される肉塊を見て、ああ、コンビニやファストフードの肉はここから来てるのか、とショックを受けたのを思い出す。 今回取り上げる論文はその真逆。人類学者サラ・ピンクが2000年代前半に調査したのはCittàslow(チッタスロー)だ。日本語に訳せばスローシティ。1999年にイタリア・トスカーナで生まれたスローフード運動に端を発する地域文化顕彰活動で、30か国236都市が加盟し、日本でも日本でも気仙沼市

          Sensing Cittàslow / サラ・ピンク

          This is (X) / ビューロー・デトゥール

          デンマーク北西部、オーフスにあるInstitute for (X)(以降If(X))は、2009年に設立された、文化、ビジネス、教育のプラットフォーム。市民のイニシアチブから生まれた、非営利の独立した文化団体である。 この活動の集大成をまとめ、建築家、市民、都市計画家、政治家、文化団体、組織が「トップダウン」ではなく「ボトムアップ」で考えるよう促すためのDIY都市ハンドブックが、This is (X)だ。(編集はクリエイティブファームのビューローデトゥール。なんと無料配布)

          This is (X) / ビューロー・デトゥール

          Making is Connecting / デヴィッド・ガントレット

          今年のお盆は麻雀牌をDIYしたり、有機ELネオン看板をつくったり。やっぱりみんなで無心で何かを作ってるとき、謎のエクスタシーを感じる。 そんな「創造性」に焦点を当てたのが本書だ。社会学者およびメディア理論家の筆者が訴えるのは「つくることはつながること」という、シンプルなコンセプト。2018年に改訂された2nd Editionもそれは変わらない。 正直なところ、2011年に書かれた中央の章たちは、時代遅れ感が否めない印象。また、創造性と共に頻出するDIYという言葉についても

          Making is Connecting / デヴィッド・ガントレット

          Off the Grid: Re-Assembling Domestic Life / フィリップ・バニーニ

          めんどくさそう。僕がオフグリッド生活に抱いていたイメージだ。そして、この本を読んだ今も、印象は変わっていない。やっぱりめんどくさそうだ。 2011年から2013年にかけて、約200人のカナディアン・オフグリッダーの暮らしを、人類学者とフォトジャーナリストが調査したこの本。ちなみに、オフグリッドとは、電気や天然ガスの供給網から切り離された建物(一般的には住宅だが、町全体がそうである場合もある)の特性のことである。 日本だと、2009年、太陽光余剰電力を皮切りに始まったFIT

          Off the Grid: Re-Assembling Domestic Life / フィリップ・バニーニ

          人類学とSTSのセットリストを組んでみる(10曲)

          寝る前はうすーく音楽をかけて寝る派。じゃないと静かすぎて寝れない。ついでに、この時間にいろんなものを忘れて妄想旅行をする。 ふと論文読んでる最中、人類学とSTSからインスピレーション受けたセットリストってあるんかな?と思ったので、組んでみた。ど直球の辺境音楽じゃなく環境音や電子音も溶け合ってる領域。世界歪むやつ。条件はこれ。 趣味の、アンビエント、辺境音楽、野外録音系に偏っている。いかにゾーンに入って寝れるか。一方で、野外オールナイトで一晩過ごし、夜明け前あたりに目閉じて

          人類学とSTSのセットリストを組んでみる(10曲)

          Imagining Personal Data: Experiences of Self-Tracking / サラ・ピンクほか

          「地球上でもっとも接続された男」を知ってますか? 彼の名前はクリス・ダンシー。センサーを利用して、日常生活のほとんどの行動を追跡・測定している。IoTブームの2010年代前半にメディアで注目されていた彼だが、今も現役だ。Mindful Cyborgと名乗り、OurBalanceというウェルビーイングアプリをつくり、複雑なAirtableでのデータ管理を啓蒙する。 Imagining Personal Data: Experiences of Self-Trackingは、

          Imagining Personal Data: Experiences of Self-Tracking / サラ・ピンクほか

          Eating in Theory / アネマリー・モル

          ポテトチップスを食べ続けるのは、袋を開けてしまったからだ。 誰もが経験のありそうなこの背徳感。ダイエットサポートのカウンセリング教室を観察する中で、ある参加者のエピソードからモルは気づく。舌と鼻と食べ物が出会うだけでは知覚は起きない。日常では他のもの(例えばスマホ)に注意を削がれ、自分自身の身体感覚に気づかず、満足感を得られぬままポテトチップスはなくなっていく。 この状況をモルは「知ることが外側に向けられると同時に、内側に折り畳まれる(folded inward)可能性が

          Eating in Theory / アネマリー・モル