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下卑田与太郎
2022年2月14日 13:51
(一)「従って、ここは……、えー、今日は15日……、あ、佐々木。ここの答え、わかるか?」「は?!ちょっと、15番は坂口でしょ、先生」「あっ、そうだった。すまんすまん。お前が気持ちよさそうに船を漕いでいたから、ついな。ほら、答えは?」「えー、え……、えっと、多分32、?」周りに教えを乞うように佐々木はきょろきょろと、ぱくぱくと口を動かしながら答えた。オーケーサインを出してる坂口を見て、
2022年2月13日 22:41
(一)夕刻、帰宅をすると、ダイニングテーブルに2つ並んだ切子の透明が、チラチラと輝く。その上に、赤いいちご。満足気な顔をした君は、にいと笑って「ヨシくん、いちご食べない?」と、唐突に問いかけるのだった。僕はしゅるしゅるとネクタイを解き、ジャケットを脱いで椅子に置く。1つだけ、丸いいちごをつまみ上げて、口の中に入れる。しゃく……と、その果実の硬さが、歯を媒介して伝わってくる。口内に、酸味
2022年2月7日 08:29
(一)俺は、多分おかしかったのだ。ある種の魔物、とやらに捕まえられて、飲み込まれていたのかもしれない。灰色がかった部屋で、灰色の服を着て、孤独に正座を強いられている今、そんなことを考えている。考えるしかやることがないのだ。懲罰房にいる俺は、コツコツと規則正しく鳴る革靴の音を聞きながら、昔のことを思い出していた。なぜなら、それしかやることが無いからだ。乱歩の『屋根裏の散歩者』を読んだのは確