わたしの旅行記②・・・オーストラリアの川に、酔う(前編)
私はこれまで様々な国を旅し、酔ってきた。
ある時は街、ある時は川、またある時は山のテラスで一人きり・・・。
今回はその中から、オーストラリア・ケアンズでの「酔い」をお届けしたい。
忘れえぬタリー川の冷たい水。そこで過ごしたあの、激流の記憶を・・・
25歳の時、私と友人Kはオーストラリアのケアンズへ遊びに行った。
ケアンズはオーストラリアの中で日本との距離が一番近く、時差もたったの1時間。
世界最大のサンゴ礁群「グレート・バリア・リーフ」、豊かな熱帯雨林、先住民族アボリジニの文化を知れる、魅力ある街だ。
また人気観光地なのにのんびりしており、当時は裸足で街を歩くオージーがたくさんいた。私たちも真似をして、裸足であちこち散策したのが懐かしい。
そんなケアンズで私が一番楽しみにしていたのは『ラフティング』。
ゴムボートで急流を下る、当時の人気アクティビティだ。
最初はアボリジニの楽器「ディジュリドゥ」を吹くことが目的だったけど、ガイドブックでラフティングを知ってからは、すっかり興味が移ってしまった。
ただ、Kが「激流が怖すぎ。それより買い物したい」と言うので、私は一人での参加を決めた。せっかくの旅、好きな事をするのが一番だもの。
「夜はお互いの1日を報告し合おうね~!」と約束して。
ところで、ケアンズのラフティング・ツアーは2種類ある。
一つはバロン川ツアー。傾斜が比較的ゆるやかな川で、2時間のラフティングを体験できる。初心者も安心して楽しめる半日コースだ。
そしてもう一つはタリー川ツアー。プロをもうならせる激流がウリで、ランチ休憩をはさんだ、がっつり4時間のラフティング。初心者が参加できる中では、最難関を誇るという。
私は「もちろん最難関っしょ!」と、迷わずタリー川ツアーを選択した。
昔からこういう時、難しい方を選ぶ癖があるのだ。
毎回その選択が、己の首を絞めるというのに・・・。
さて当日。私はワクワクしながら迎えのバスに乗り込んだ。
参加者のうち日本人は1/4と圧倒的に西洋人の多いツアーだったが、日本語を話せるオージー・ガイドが一人いたので、不安はなかった。
このオージー・ガイド氏は日本語が上手く、ジョークを交えながらツアーの注意点を通訳してくれる。
オーストラリアのまっすぐな道路を走る、快適なバス。
車窓から見える、青空と太陽。
頼り甲斐ありげな、オージー・ガイド。
たぶん私はハイになっていたと思う。
「なぜ外国人が日本語しゃべると、声が1オクターブ高くなるの?なぜ反比例してイケメン度が下がる気がするの?」
彼の説明を聞きながら、そんなくだらぬ事を考えていた。
だがこの浮かれ気分は、ほどなく打ち砕かれることとなる。
バスが山道に入ったのだ!
冷静に考えればラフティングとは川下り。その傾斜が激しいほど高い位置にいかねばならない。
そして高い場所へ行く道は、必ずくねっているものである。
どれも当然のことで、小学生でもわかる話だ。
なのに私はラフティングのイメージに浮かれ、この現実を失念していた。
当然に酔い止めは飲んでいない。
そんなわけで、ラフティングが始まる前から私は
ひとりバスに酔っていた。
道は更にくねりだし、私の酔いもどんどん増す。
せっかく昨夜はおしゃべりを我慢し、睡眠をたっぷり取ったのに。
酔いを止めようと遠くを見たり、無を意識するも、すべてが無駄骨。
完全な車酔い状態で、私はスタートポイントに到着した。
かなり不安な幕開けである。
それでも私は、この時まだ事態を軽くみていた。
参加者は結構な人数だったので、ボートの台数も多い。
ラスト出発のボートを選べば、体調を戻す時間はあるだろうと考えていたのだ。
だが、天はそんな私を見放した。
なんと、最初にスタートするボートに配置されてしまった。
一人参加だから、人数調整に使われたのだろう。
だがこうなったら仕方ない。私はライフジャケットを身につけながら腹を括った。己で選んだことならば、女たるもの泣きはしない。
この酔いも激流も、乗りこなしてやろうじゃあないか!
インストラクターの指示に従い、気合を入れてボートに乗り込む。
座ると真横に川がきて、期待に胸が高鳴った。
うん、頑張りたい!
私はグッとパドルを握り占め、みんなと共にこぎ出した。
そして開始3分で
川に落ちた。
タリー川はアップダウンが多く、そこが人気の理由である。
だけど酔いに心乱れていた私は、最初のバウンドをこらえきれなかったのだ。
あっと気づいた時は、ひとり宙を舞っていた。
まさか自分が放物線そのものになるなんてネ!
人生って何が起こるかわかんないネ!
時間にしたら数秒だろうに、ボートのメンバーが横目に映る。
みんなボウリングの球みたいな顔をしていた。
ここでおぼれ死ぬかと思ったが、意外にもすぐ水面に浮かぶことができた。
ライフジャケットがその威力を発揮したのだ!
けれど、喜びは束の間。
残念ながら私は、激流を泳ぐ技量を持っていなかった。
せっかく浮かんでも、どうしていいかわからず。
この時の私は多分、桃太郎の桃より速く流れていたと思う。
だが、そんな私を天は見捨てなかった。
一本のロープが、飛んできたのだ!
誰かが私を救おうと・・・心に希望の火が灯る。
私は必死の思いでロープを掴み、顔を上げた。
その先には川岸に立つオージー・おじさん二人組。
手にしっかりとロープを握っている。
ありがとう、我が救世主。ありがとう、異国のおじさん。
だが心で感謝した直後、私は彼らに
「NOーーーー!」
と、野太い声で怒鳴りつけられたのだった。
なんなの?意味がわからない!!
どうしてロープ、投げたんですか??
いつしか私は川のみならず、混乱の激流にも飲み込まれていった。
しかしこれは、さらなる酔いの前哨戦に過ぎなかった・・・
ここから始まる、酔いの加速をお楽しみいただけたら幸いです。
*写真はすべて無料画像サイト「O -DAN」様からお借りしました。
当時の写真は実家のどこかで眠っているから・・・南無・・・
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