見出し画像

映画『ロード・オブ・カオス』について

あまりにもスキャンダラスな<ブラック・メタル>
黎明期 ー 陰惨で猟奇的な漆黒の歴史。

ロード・オブ・カオス

ブラックメタルのMayhemを知ったのは、あ、正確には私が最初に記憶してるのは法廷での映像です。三つ編みをしている男性が犯人という事でした。

映像はMTV Headbangersからだったと思います。Headbangersは1987年からスタートしたMTVのメタル専門のプログラムです。80年代後半から90年代のMTVブーム真っ只中、法廷の三つ編みの男性が誰だったのか、事件が何だったのかはわからないままでしたが、それから数年後、もう1つの事件の記憶があります。

危険なジャケットの話

その話は具体的ではなく、本物なのか、画像加工なのかなどの憶測がありました。それは嘘である、絵だ、それを気にする必要はないと、たったそれだけの事ですが、それが悪名高く語られる邪悪なジャケットの事だと気づくのには、この映画が日本での公開が決まってからでした。そして法廷の映像と邪悪なエピソードが1つのバンドの事件だとわかります。


映画『ロード・オブ・カオス』

映画は2018年のサンダンス映画祭で初めて公開されましたが、日本は同年にQUEENの映画『ボヘミアンラプソディー』が大ヒットしていました。本編の『ロード・オブ・カオス』は、それに次ぐほどの映画とまでいわしめ、著名なアーティストの呼び文句もあり、R18+指定作品でスキャンダルでダークな内容ですが大ヒット作品となります。

残念なことに上映中に映画館が緊急事態宣言によって休館という状況にもなりましたが、日本中の映画館で拡大上映されました。

主演はマコーレ・カルキンの実弟のロリー・カルキン、Mayhemのギタリストで、本編の主人公のユーロニモス役です。スウェーデンからやってきた、Mayhemのシンガーとなる、ペルことデッド役はオジー・オズボーンのPVにも出演していたジャク・キルマー。ヴァーグ役はエモリー・コーエン。監督はジョナス・アカーランド、スウェーデン出身、ブラックメタル「バソリー」のドラマーの時期もありました。

本編について

ブラックメタルを突き詰めていくバンドの葛藤と衝突、メンバーのデッドの死、そして主人公のユーロの死など、現実にあったとは思えないほどドラスティックに描かれています。北欧ロックで青春コメディ映画の『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』の様な笑いのある映画にできたかもしれませんが、幾つかの衝撃的な場面が時代と事件を美化しない、R18+指定作品で、よりリアルな出来事として、ストーリーに深く堕ちていきます。

QUEENの映画にもあった、過去のライブ映像・写真・関係者の話を元に衣装やエピソードなど細部までも忠実に物語で再現する手法がこの『ロード・オブ・カオス』でも至極当然にあります。鑑賞後に当時のMayhemのことをネットで調べたり、YOUTUBEで確認すると何故だか感動します。


イントロダクションと音楽

北欧ではメタルロックが非常に流行っていて、ノルウェーに住む、主人公のオイスタイン=ユーロニモスはMayhemというバンドを友人らと結成します。練習したり、酒を飲んで騒ぐなど、よくいるメタルな若者です。

音楽的なことを言うと、Mayhemは1985年頃から活動をしますが、スラッシュ・デスメタル、ハードコアなどを基調にエモーショナルでノイジー、ギターはトレモノリフに高速ピックング、ブラスビートにゴリゴリベース、メジャーでわかり易い王道のブラックバンドです。PVのデッドのヴォーカルはドロドロとした唸り声で、ダークな歌詞もデッドがいくつか作成しました。

当時のライブ映像もいくつか残っていますが、時に真っ暗な中からデッドの金髪がグルグルしていたり、観客がステージに上がって邪魔になるなど、過激でカオスです。


デッドとユーロ(ライブパフォーマンス)

スウェーデンから来た美しい青年のペル=デッドは、他のメンバーでも理解しにくい風変わりな行動を取ります。ユーロとデッドの出会が2人のセンスや感覚を非常に高いところに引き上げ、デッドはフロントマンとしてパフォーマンス、ライブで昇華されていきます。デッドの手段はFAKEでも装いでもなく、死者になるべく衣装を墓に埋める、死んだ鳥の匂いを嗅ぐ、ステージで腕を斬る。

デッドはいつしかユーロがいない間に、自らの腕と首を斬り、ライフルで自身を撃ち抜きます。

帰ってきたユーロは亡くなったデッドを発見しますが、何故かその場を離れ、戻ってくると買ってきたカメラで亡くなったデッドを撮影し、他のメンバーにその写真のことを話すなどします。メンバーでベーシストのネクロブッチャーは、ユーロの行動に失意しバンドを去ります。

しかし、バンドメンバーが2人も去ったにも関わらず、ユーロのブラックメタル道は続きます。


ユーロとヴァーグ(レコーディング)

ヴァーグはMayhemのことを聞きつけてきた裕福な家庭のメタル青年という印象です。2人の出会いに登場する「PORSER(ポーザー)=ド素人」という言葉から2人のブラックメタルのリーダー・バトルに発展していきます。ユーロがオーナーのレコードショップ「ヘヴェルテ」と地下室での邪悪なインナーサークル活動が活発化しますが、ユーロとヴァーグとの確執も強くなってしまいます。

2人のマウント大会は何故だか、ちょっとコミカルで間抜けなやり取りにも見えますが、いつしか邪悪な犯罪合戦はエスカレート。悪い事をしていくほど彼らの知名度が上がっていくのです。ある種、昨今の炎上商法にも近いかなと思いますが、彼らは商法ではなく「本気でガチ」です。

ヴァーグはいくつかの教会に火を放ちます。ユーロは宣伝、ハッタリだったと後に言いますが、ヴァーグは忠実に行動してしまいます。そしてユーロもしぶしぶ放火に参加しますが、当局からもマークされてしまいます。「ヘヴェルテ」を閉店し、レーベル活動でいく先にヴァーグがユーロの計画の前にヴァーグ自身でと実行しに、ユーロの元に契約と称し会いに行きます。そこで話し合いは決裂し、ユーロと揉み合いになります。


Burzum

他にもインナーサークル内のエンペラーのファウストの事件とか、ヴァーグのBurzumとユーロとヴァーグ、アッテラがヴォーカルでのレコーディングもありましたが、映画はユーロ二モスのモノローグで完結します。楽しいエンディングはそこにはありません。

後に、ヴァーグ本人はユーロ殺害に関しての言い分の中に割れたガラスで怪我をした、ユーロが蹴ったから等、正当防衛を主張します。

これが実際に私が見た当時の法廷シーンのニュース映像につながります。

ヴァーグは懲役21年でしたが、2009年3月に仮釈放となります。Burzumとして現在まで11枚のアルバムを発表しています。また、自身のサイト、ブログ、SNS、YOUTUBEなどネットを駆使した活動も活発です。


Mayhem

メンバーでベーシストのネクロブッチャーはバンドのスポークスマン的な役割的に当時のことを振り返る映像も多いです。ドラムのヘルハマーがユーロがいなくなった後、Mayhemを継承するなどしながら、バンドはブラックメタルの重鎮的な位置づけとなり、現在も活動は続いています。

因みに7月7日七夕には日本先行発売のカバー集のミニアルバムもリリースされています。


最後に

実在の人物がいる状態での事件を映画化するので、当事者にとっては自分の描かれ方に色々な思いがあったかもしれません。ネットで知るデッドやユーロ、ヴァーグの当時はごくごく普通のメタル青年で、彼らはチャーミングで屈託なく笑いどちらかというと可愛い青年達です。

映画『ロード・オブ・カオス』はとてもいい映画でした。




この記事が参加している募集

#映画感想文

67,494件

よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポート費は今後のクリエイター活動に役立てていきますので、宜しくお願いします!!