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MOVIE OF THE YEAR 2022 邦画編

2023年も気がついたら始まってしまっておりますと毎年同じようなことを言っている気がしますが、2022年の映画振り返りを書きたいと思います。

前の記事にも書きましたが、2022年映画館での鑑賞本数は315本と、昨年の322本から若干少なくはなりましたが、それでも300本超えで過去2番目に多い本数となりました。

Twitter、Facebookの方で映画個別の寸評を書いているのですが、実はそちらもまだ去年分をアップし終えてはいないのですが、それはそれとしてMOVIE OF THE YEAR 2022 邦画編をお送りします!
(なお、自分が見たタイミングで2022年だった作品としていますので、製作、公開年が異なる場合があります。ご容赦ください。)

「THE FIRST SLAM DUNK」

押しも押されもせぬ大ヒットコミック「SLAM DUNK」を原作者の井上雄彦自ら監督を務めて、3DCGアニメーションとして描いた作品。
直前に声優が交代になったり、徹底した箝口令でベースとなるストーリーも含めてほとんど事前情報がなかったり、担当スタッフが失言をしたりと公開前から炎上のような状態になってしまいましたが、公開されるやいなや大ヒット。この手法で描いたからこそ原作マンガの躍動感もより強調されており、実際のバスケの試合を観戦しているかのような臨場感と迫力が伝わってきます。湘北メンバー登場シーンはThe Birthdayの「LOVE ROCKETS」も相まって、最高に高まります。原作ファン垂涎のシーンもたくさんありますので、ぜひ原作を読んでからの鑑賞をオススメしたいですね。

「四畳半タイムマシンブルース」

ヨーロッパ企画の人気舞台「タイムマシンブルース」を森見登美彦原作でアニメ化もされた「四畳半神話大系」のキャラクターと世界観で描いたアニメーション作品。
壊れてしまったクーラーのリモコンを過去に行って取り戻すというまさにタイムマシン無駄遣いな設定の緩さながらもタイムトラベルものに起こりがちなパラドックスについてもしっかり配慮しているストーリーに、一癖も二癖もある「四畳半~」のキャラクターたちが出てくるのだから、その面白さは折り紙付き。これ見て面白くないって言う人いたら裸踊りできるレベルです!

「すずめの戸締まり」

新海誠監督の最新作は、災いをもたらす扉に鍵をかけて日本各地を旅している"閉じ師"の青年・草太と彼に同行することになった女子高生・すずめの不思議な冒険と成長を描いた作品。
過去作から一貫して、緻密な風景描写に代表される美しさとその脅威と、その中で生きる人々の儚さや尊さの調和があると思っていて、「天気の子」では暴走気味だったのが、本作では絶妙なバランスに戻っている印象でした。戸締まりをするという行為で、家から出かける、行ってきますということ、そして帰ってきたらただいまということ、それが当たり前にできることの幸せを通関させられる作品でした。アニメ界のみならず日本の映画界の牽引者とも言うべき立ち位置になってしまいましたが、変わらず作品を作ってほしいものです。

「マイスモールランド」

クルド人の女子高生の目線で、日本の難民制度に翻弄されるクルド人一家の姿を描いたドラマ。日本の高校で教師を夢見ながら人一倍熱心に勉強している17歳のサーリャ。自由にアルバイトしたり、他の都道府県に行ったりすることができないばかりか、難民申請が却下されてしまい日本にいることすらできなくなってしまい・・・。実際にも多くの議論がある日本の難民受け入れ制度ですが、本作もまたそれに一石を投じる作品です。本作の優れているところは、それで日本の制度が良くない!とシュプレヒコールを上げているわけではなく、難民の問題を、家族や世代の問題ともうまく絡めている点です。サーリャの親世代は片言の日本語を話せる程度で読み書きなどはすべてサーリャに頼っています。サーリャは小さい頃には生まれ故郷にいたためその記憶もあるのですが、妹と弟は日本で生まれていて、記憶にないだけではなくアイデンティティーとしても日本寄りになっているのです。このあたりの描き分けが絶妙でした。

「ハケンアニメ!」

辻村深月の同名小説の映画化。アニメ番組の新人監督として抜擢されたヒロインが、天才アニメーターと呼ばれている男と同じ時間帯のアニメ番組の覇権を争い切磋琢磨する姿を描いた作品。
アニメ業界を舞台にはしているけれど、物作り、協同作業に携わる人なら絶対心に来るものがある内容になっています。
新人監督に扮する吉岡里帆と彼女を抜擢したプロデューサー柄本佑との関係、天才アニメーター扮する中村倫也との関係など、まさに映画的な要素がたくさん含まれています。
そして中村倫也側の制作サイドも決して一筋縄ではいかないような様々なトラブルを抱えていて、お互いに生みの苦しみを感じつつも世に作品を送り出そうとする様には感動を覚えます。
はたして完成した作品の最終回、登場人物ならずとも固唾を呑んで見守ってしまうぐらいの没入感です。劇中のアニメ作品もちらっと程度しか映りませんが、こちらも普通に見たいクオリティーを感じます。2022年で最も過小評価されてしまっている作品の一つではないでしょうか。

「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」

此元和津也が脚本を手がけたオリジナルTVアニメシリーズの作品を、別視点からの再構築というかたちで作られた映画版。偏屈で仏頂面のタクシー運転手が、"練馬区女子高生失踪事件"を機に、半グレ集団や売出し中のアイドルなど、一癖も二癖もある面々と関わるようになっていき・・・。オリジナル版を全く知らずに映画版だけ見ましたが、キャラクターの描き方やエピソードの作り方が素晴らしく、最後まで物語にぐいぐい引き込まれる。これはぜひオリジナル版も見たいところ。

「ベイビー・ブローカー」

是枝裕和監督が韓国のスタッフ・キャストで完成させたドラマ。"赤ちゃんポスト"に入れられた赤ちゃんを"横流し"していたサンヒョンとドンスだったが、自分の赤ちゃんを入れたソヨンに見つかってしまう。とっさにごまかした二人だったが、ソヨンはサンヒョンとドンスの義父母を探す旅に同行すると言い出し・・・。
「万引き家族」でも描かれていた疑似家族が本作でも健在。それぞれが後ろめたい部分があるにせよ、それを浄化させるかのように"洗う"という行為がメタファーとして登場してくるという構成も監督作品らしさを感じさせます。血の繋がりよりも重要なのは思いやりや絆であることを痛感させてくれます。そしてソン・ガンホ出演作品はやはりハズレがない!

「凪の島」

山口県の瀬戸内にある小さな島を舞台に、両親の離婚で母親とともに島にやってきた少女の島での生活と成長を描く。小さな漁村で個性的なキャラクターが数多く出てきて全体としてはコメディーの様相が強いけれど、その実、内面では様々な問題や葛藤を抱えているという瀬戸内の晴れやかな舞台とは裏腹に重い部分も内包している作品。スールキートス製作の映画はビジュアルイメージや雰囲気は良くとも物語がいまいちピンとこないものが続いていたのですが、本作は会心の出来。

「メタモルフォーゼの縁側」

内気な女子高生が、BL漫画をきっかけに知り合った老婦人との交流を深めていくドラマ。世代や境遇を超えても好きなものを分かち合える、好きなものについて語り合えることの尊さを描いています。周りの目線が気になる女子高生のうららと自分の好きなものを素直に表現する雪との関係性によって、うららが成長していく姿も映し出されます。芦田愛菜と宮本信子のキャストが絶妙にマッチしていて、二人のやり取りを見ているだけでも微笑ましくなってきます。

「ヘルドッグス」

深町秋生の同名小説を、「関ヶ原」「燃えよ剣」の原田眞人監督、岡田准一主演で映画化。復讐のために闇落ちした警察官が、ヤクザ組織への潜入捜査を命じられ・・・。
もはや日本映画のアクションという面では傑出した存在とも言える岡田准一が主演ということでアクションだけで十分目を見張るものがありますが、本作では潜入捜査で身バレするのではないかというスリル感を感じつつ、組織の中でのし上がっていくという立身出世の部分ではワクワク感も高まります。他のキャストも掴みどころのないサイコボーイに扮する坂口健太郎は新境地で、ミステリアスなヒロインに扮する松岡茉優の色気、そしてヤクザのボスMIYAVIの妖しい魅力も光っています。

以上、10本を選んでみました。
一応思い入れの順序をつけたつもりですが、そのときの状況や気分で入れ替わるかもしれません。

上記の作品以外にも良作はたくさんあって、2022年の傾向とともにご紹介します。

まずは何と言ってもアニメ作品の強さですね。上記の4作の他にも原作が大人気コミックの「劇場版 呪術廻戦0」、上橋菜穂子の小説をベースに壮大な世界観で描かれている「鹿の王 ユナと約束の旅」、女王蜂のアブちゃんが声優を務め、ゴールデングローブ賞にノミネートされて話題になった湯浅政明監督の「犬王」、タイトルは知っていたけど作品としてしっかり見たのは初めてだった「劇場版 からかい上手の高木さん」はまさにあざとい!そしてゴールデンウィークの作品としてすっかり定番の「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」、Adoのウタでも話題になっている「ONE PIECE FILM RED」、「ハケンアニメ!」と同じく辻村深月原作の「かがみの孤城」など極めて豊作な一年だったと思います。

 原作が人気小説、人気作家の作品も数多くありました。映像化作品も多い重松清原作の「とんび」は父と子の十数年間を描いた骨太のドラマになっています。同じく映像化の多い池井戸潤の作品では「アキラとあきら」、本屋大賞に輝いた凪良ゆうの「流浪の月」、そして佐藤正午原作で年の瀬に感動をもたらしてくれた「月の満ち欠け」なども印象深いです。

人気シリーズどころでは、TVドラマから始まり映画でもシリーズになっている「コンフィデンスマンJP 英雄編」、人気コミックが原作で壮大なスケールで描いた「キングダム2 遥かなる大地へ」、福山雅治が天才物理学者に扮するガリレオシリーズの最新作「沈黙のパレード」などが良いクオリティーを維持しつつ作品を提供してくれています。

 ジュヴナイルものとして楽しめたのが山崎貴監督、新垣結衣主演の異色ファンタジー「ゴーストブック おばけずかん」、長崎を舞台に少年たちの冒険を描いた「サバカン SABAKAN」は良い作品でした。

 ドラマ性や感動作では、松居大悟監督がクリープハイプの楽曲「ナイトオンザプラネット」にインスパイアされて制作した「ちょっと思い出しただけ」は、タクシー運転手の女性とダンサー志望の男性の6年に渡る恋愛をある1日を切り取って描いています。「余命10年」では「ヤクザと家族 The Family」の藤井道人監督が、不治の病で余命10年と宣告されたヒロインが、葛藤しながらも生きていく様を感動的に綴っています。
「天間荘の三姉妹」はのん、門脇麦、大島優子が三姉妹であの世とこの世の間にある「天間荘」でのやり取りを描いています。

 サスペンス系では、何と言っても「さがす」でしょう。佐藤二朗扮する父親が行方不明になり、父親の名を名乗っている青年が指名手配犯だとわかり・・・という異色のサスペンスになっています。他では、再婚した男性が全くの別人であることが明らかになっていく「ある男」も完成度の高い作品でした。

 青春モノとしては、のんが監督も務めた「Ribbon」はまさに今のコロナ禍にあって自由な創作活動を奪われてしまった美術学生の葛藤を描いています。「線は、僕を描く」は「ちはやふる」の小泉徳宏監督が水墨画の世界に飛び込んだ青年の葛藤と成長を描いています。そして「恋の光」は恋とはなんぞやという永遠の問いに哲学的に向き合おうとする青年と彼の周りにいる女性たちを描いた作品で、西野七瀬、平祐奈の瑞々しさが光る作品となっています。

 コメディーでは、町おこしのため郷土の偉人である伊能忠敬を題材にした大河ドラマを制作してもらおうと奮闘する市役所の人々の姿を描いた「大河への道」、仕事が終わらないブラック企業で実は同じ時間軸が繰り返されていることに気が付き、そこから抜け出そうと奮闘する姿を描いた「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」は、まさにアイデア賞!

 人気監督ということで言えば、今年は「窓辺にて」も好評だった今泉力哉監督の「猫は逃げた」は、城定秀夫脚本で離婚を決めた夫婦が飼い猫をどっちが引き取るかで悩みだしたことで巻き起こる騒動を描いています。
 「かもめ食堂」「めがね」の荻上直子監督の最新作「川っぺりムコリッタ」は、川べりの小さなアパートに集う訳ありの人々を描いたドラマで、ちょっと切なさもあるコメディーに仕上がっています。そして、南極料理人」「横道世之介」の沖田修一監督の最新作はさかなクンのエッセイをもとにさかなクンの半生を描いた「さかなのこ」。そういえばのんの主演作は今年3本もあってどれも出色の出来というのもすごいですね。

 ドキュメンタリーでは「ディア・ピョンヤン」「かぞくのくに」のヤン ヨンヒ監督が自身の母にスポットを当てて、そのルーツを追うとともに済州4・3事件について知っていく「スープとイデオロギー」は非常に考えさせられる作品になっていました。

 そして!2022年はなんといっても"ヘン"な映画が多かったですね。「神は見返りを求める」ではムロツヨシ扮する冴えない男が岸井ゆきの扮する売れないユーチューバーを健気にサポートするも、彼女の人気が出てきて関係性に変化が・・・というまさに今どきな作品でした。一方、「鈴木さん」では45歳以上の未婚者は市民権を剥奪されるといういつか起こりそうな雰囲気もあるディストピアを描き、いとうあさこがまさに枯れた女性を等身大で演じきっています。ダメ男と付き合っている4人の女性を描いた「もっと超越した所へ。」では、単に男をこき下ろすだけでなく、そんなダメ男を好きになってしまう女性もまた、というアンチテーゼが好感を持てます。そして元々が舞台劇だったということで最後の仕掛けもまた素晴らしい。そして「ポプラン」。「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督が選んだ新作は、イケメンのナニがアレする話とは!

とまあ安定のシリーズものからインパクト大の意欲作までバラエティーに富んだ作品群でしたが、かつて栄華を誇ったジャパニーズ・ホラーが完全に失墜した年でもあると思っています。2023年にはぜひ復権してもらいたいところです。

それでは、次回は洋画編で。

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