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『走れ!!機関車』

 お家に絵本はありますか?
                 
 「ない」という方が、多いのではないでしょうか。通勤に通学、ポイ活にSNSのチェックだって毎日欠かかせないのが、現代人ですからね。忙しくて絵本なんて興味がないという方が、きっと多いのではないでしょうか。
 「普段、読める本なんて漫画か、子どもを寝かしつける時の絵本か、美容室に置いてあるファッション雑誌くらい」、「本を読める人は、きっと時間に余裕のある人で、色々と恵まれてる人」、「そもそも本を読むのが嫌い」。色んな方が、いらっしゃると思います。
 この文章では、特に難しい本が苦手な方のために、子どもたちの読む「絵本」を使って、たのしくまなべる方法を模索してみたいと思います。
                 
 今回、読んでいくのは『走れ!!機関車』という絵本です。近所の図書館の児童書コーナーで見つけました。原著は、2013年に『LOCOMOTIVE』という題で、アメリカにて発売されたようです。ロコモーティブと読みます。翻訳版の『走れ機関車』は、2017年に偕成社さんより出版されました。印刷は小宮山印刷さん、製本は難波製本さんとなっています。
 この『走れ!!機関車』の作者は、ブライアン・フロッカ(Brian Floca)さんという方です。経歴がすごい方で、アメリカの名門私立大学のブラウン大学をダブルメジャー(歴史・美術)で卒業するだけでなく、在学中からデザイン学校にも通って、小説の挿絵などにも投稿していたというすごい経歴の持ち主です。ちなみにダブルメジャーというのは、海外なんかでよくみられる2つの学部を専攻というやり方です。在学中は、相当忙しくなるようです。
 このフロッカさんの『LOCOMOTIVE』という作品を日本推理作家協会会員で、シャーロック・ホームズなどの翻訳を手掛けている日暮雅道さん(ひぐらし まさみちさん)が、読みやすい日本語に翻訳してくださいました。
                
 さて、この『走れ!!機関車』は、アメリカの初期の蒸気機関車を描いた絵本です。あの広い北アメリカの大地を、まだ馬車以外に横断する手段がなかった十九世紀中ごろのお話になります。 
 その当時は、アメリカ合衆国の東側から西側へと旅することが非常に難しい時代でした。当時の輸送手段は、おもに馬車と汽船でした。もし、その当時、船でアメリカの東側から西側へと行こうとしたら、南アメリカの最南端にあるホーン岬を回っていくか、中央アメリカまで渡航し、そこからパナマの地峡を歩いて!!渡る方法しかありませんでした。それらの方法で行った場合、最低でも六ヶ月かかったといいます。そのような状況を打開するために考えられたのが、大陸横断鉄道でした。
 大陸横断鉄道のロッキー山脈越えのルートは、距離にして2400km。ネブラスカ州のオマハからカリフォルニア州サクラメントまでの険しい道のりでした。当時、その建設にあたったセントラル=パシフィック会社とユニオン=パシフィック会社は、なんとこの工期を5年!も短くして、建設してしまったというのですから驚きです。 
                  
 この『走れ機関車』という絵本のすごいところは、大人でも楽しめる超微細な描写力です。『走れ!!機関車』は、その大陸横断鉄道のうちでも、最も険しいとされたロッキー山脈越えのルートが、どのように建設されていったのかを、絵本とは思えないほどの詳細に描いてくれています。鉄道や蒸気機関車に関する情報量は圧巻で、絵本というより、辞書に近いといった趣です。だから、子どもが読むには少し難しいのです。
 背表紙には、1869年に完成した大陸横断鉄道の線路図だけでなく、ロッキー山脈の断面図や、当時の乗換案内まで詳しく描かれています。さらに裏表紙の背には、蒸気機関車の最前部の内部構造が、詳しく描写してあります。これがすごいんです!!
 実際、蒸気機関というものについて、私たちは中学校や高校の歴史の授業で度々、勉強することになります。また、普段の生活の中でも、鉄道博物館に行った時に、その展示であったりを観る機会があります。観光列車のニュースなんかも時折、見聞きしますよね。ただ、実際その仕組みだったりは、よくわからないまま教科書をとじなければなりません。この『走れ!!機関車』は、そんな歯がゆい所に手を届かせてくれるような気がします。
 蒸気機関車が、大峡谷(キャニオン)を進んでいく描写などは、心躍ります。月夜の美しい景色の情景があったり、山脈の暗い炭鉱の中を突き進んでいくシーンも、すごく印象的でした。皆さんは東京ディズニーランドの「ビッグサンダーマウンテン」ってご存じですか。あの背景にあったのが、こういう大陸横断鉄道の話なのですが、そうと考えると、より一層創造力豊かにパークが楽しめる気もしました。ぜひ、多くのみなさんに手に取っていただけたらと思います。
 今回は以上になります。また次回の「絵本のある日常」でお会いできれば幸いです。



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