見出し画像

【特集11月号】大切な人に願う事

 高校生の頃、漠然と「強くなりたい」と考えていた。それと同時に「弱さは優しさの証だ」とも思っていた。
 誰かのために優しくあれば、弱くたっていい。それは弱かった自分に対する言い訳だったのだろうか。今でも分からない。

「光のとこにいてね」(一穂ミチ)読書感想

 タイトルから惹かれた。口語体のようなそれは、ある登場人物のセリフだった。
 これは、境遇の似通わない二人の女の子の物語だ。
 全く別の人生を歩むはずだった二人の道が交差するのは、単なる偶然ではない。成長するにつれて関わる人間が増え、それでも二人は二人を忘れない。

 子供は不自由だ。庇護者である親の都合に振り回され、時には親の感情や親の価値観によって生活を脅かされる。
 表面上では何の問題がない家庭にだって、多かれ少なかれ歪みはあるのだろう。親になったからと言って、善良な人間に生まれ変われる訳がないのだ。

 では、大人になったら自由になれるのだろうか?
 大人へと成長した二人の女の子は、各々の過去と何にも変え難い宝物を抱えながら道を探っていく。大人になれば迷子にならないわけではない。背負うものが多くなればなるほど、身動きができなくなる。

 私が高校生の頃に夢見た強さとは何だったのだろうか。
 泣かないこと、立ち向かうこと、乗り越えられるということ。
 この作品を読み終えた今の私は、「芯を持つこと」だと答えたい。
 逃げるという行為も、大切な物を捨てる覚悟も、弱さから生まれるものではない。優しさで包まれたその心を、抱きしめたいと思う。
 光は希望だ。光は未来だ。光は、愛の形だ。

「光のとこにいてね」
 呪いにも思えた彼女の言葉の意味を、物語の結末を見届けた時、はっきりと心の奥底で受け止められるだろう。

#読書の秋2022



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?