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反省しない半生

平成10年の冬のことでした。

その頃は、毎週土曜日の夕方にひととおりのルーティンがあり、それに則して行動していました。

当時かよっていたスイミングスクールでの授業を終えてから、即座に自転車を飛ばし、必ず17時50分ごろまでには帰宅。

ブラウン管のチャンネルを、NHK教育に替える。当時のテレビはアナログ放送で、テレビのことはまだブラウン管と呼ばれていたのです。また、Eテレという柔らかい愛称もなく、NHK教育というお堅い名前が使われていました。

そして、これから始まるアニメ『YAT安心!宇宙旅行』を視る準備をするべく、呼吸を整え、ブラウン管の前で精神統一をしながら座るのですが、『YAT』が始まる前の数分間は、歌が流れるプログラムになっていました。

今でもお馴染みの、『みんなのうた』です。

1961年から放送され続けている歴史の長い番組で、基本的に子供向けの歌が中心ではありますが、意外にも、大人向けのJ-POPのアーティストの曲もわりと流れていたりします。

最近だとMAN WITH A MISSIONの曲を流していたり、AKB48の曲が流れていた時期もあったらしい。

自分が『YAT』の桂さんの麗しきツナギ姿に萌えていた当時もまた、ピチカート・ファイヴの曲が流れていました。

しかし、小学生に渋谷系ポップは早すぎてよくわかりませんでした。というか、ニャンちゅうとお姉さんの幼くてかわいらしいトークの直後にピチカート・ファイヴを置いていた当時のNHK教育はハイセンスすぎる。

そんなハイセンスなNHK教育さんが、子供には早すぎるピチカート・ファイヴの後に選曲していたのが、Something ELseの『反省のうた』という歌です。

この後、解散の危機に追い込まれ、『ラストチャンス』という曲で翌年に大ブレイクし、サムエルという略称が定着するわけですが、当時は、一般的にはぜんぜん知られていない、はっきりいって鳴かず飛ばすの存在。

そんな時代のサムエルの『反省のうた』はというと、とにかく内省的で暗い歌でした。

以下、歌詞を引用します。

……。

人間は驕ったり
すぐに調子に乗ったりするし
そして
ふてくされてたり 
すぐに泣いたりもします 

人間は自分のこと
ちょっとでもよく思われようとするし
いつのまにか
いらない嘘をつきます
僕なんか知らないことを
知ってると言ってしまうこともあるし
好きな人になかなか素直になれずにいます

……。

アコースティックギターに乗って歌われる、人間の愚かさ、および自己否定の数々。

なぜにアニメを視る前にこんな鬱ソングを聞かされねばならんのだ。さっさと桂さんのツナギ姿を見せろ。

などと最初は思っていたものの、毎週のように聴いているうちに、なんとなく覚えてしまいました。

『みんなのうた』にしては暗すぎるし、自己肯定ソング全盛期の平成のJ-POPシーンでこれはまあ売れないでしょうなあという内容で、実際に全く売れず。

その翌年に『ラストチャンス』でブレイクを果たし、無事に解散を逃れたわけですが、大ヒットして街中でガンガン流れていたこの曲よりも、地味だし、暗いし、説教くさい、あまりノレるとはいえない『反省のうた』のほうが、後に頭を駆け巡る回数が遥かに多かったです。

正直なところ『ラストチャンス』はあれだけ街中で聴いたのに、ほとんどサビしか覚えていませんが、『反省のうた』はフルで歌える。

カラオケで盛り上がる曲とはいえないので、人前で歌ったことは一度もないけど、ヒトカラでは歌います。そのたびにどんよりとした気持ちになりますが、それがいい。

ずっと反省しつづける主人公ですが、最後はおちおう前向きに締められます。

……。

人間は同じことを何度も繰り返してしまう
だけどゆっくりといろいろ覚えてゆきます

……。

よく考えたら、この歌を知ってから20年以上が経つのですが、同じ失敗を何度も繰り返してきました。

気がつけばそれなりに良い年齢になっており、桂さんの年齢はとっくに追い越してしまったのに、未だに中身は子供のまま。50歳になっても80歳になってもこのままのような気がする。

いったいいつになったら私はまともな大人になるのだ。たまには反省……、いや、めんどくさいからやめよ。それに、マインドは14歳ですので。

というわけで、先日に誕生日を迎え、今年も14歳になりました。さて、桂さんのツナギ姿を画像検索するか……。

サウナはたのしい。