待つのも食事
むかし勤めていた会社の飲み会で、こんなことがありました。
当時の自分は新入社員2ヶ月めくらいで、学生の頃は実はそんなにお酒を飲まなかったので、夜の居酒屋そのものが珍しく、どこのお店に連れて行かれても基本的に楽しかったのですが、その時は会社の経費で少し豪華なお店に行くということで楽しみにしていました。
その会社そのものは大嫌いだったし、成績が悪かった自分にとって飲み会は毎度お説教タイムだったのですが、それでも学生の頃に食べたことがなかったようなステーキや海鮮料理には胸をときめかせていました。
普段は外回りをしている副社長が、ちょっと時間が空いたから、と、その飲み会に飛び入りで参加することになりました。
店員さんが注文を取りに来て、全員が矢継ぎ早に色々とメニューを言うのですが、その店員さんはどう見ても慣れていない新人のバイトくんで、メモを取る手もオドオドしていました。でもなんとかメモを書き終え、よろよろと厨房の方へと向かっていき、まずビールが運ばれてきました。
とりあえず乾杯ということで、ビールを飲みました。それからしばらく経って、お通しが運ばれてきました。
それから5分くらい談笑……というか副社長に気を遣う時間が過ぎました。そのくらいのタイミングで副社長が大声で言いました。
「遅いな」
この副社長は地声がそもそもかなりでかいのですが、店内じゅうに響きそうな大声で「遅いな」と言いました。半分わざとだったと思います。
その直後に、例のバイトくんの手によって最初のメニューが運ばれてきて、ああやっと晩ごはんにありつけると自分は安心したのですが、副社長はバイトくんに「この店舗の代表を呼んできて」と言いました。いわゆる、責任者を呼んでこい、というやつ。
しばらくして責任者……といっても、20代前半くらいで金髪で私服……このお店の経営者とかじゃなくてバイトリーダーだろ、というような男性が出てきて、副社長はメニューが来るのが遅いというだけのことに対してお怒りになられ、10%割引してもらうことを交渉。
そのお怒りになられていた時間は10分を越えていて、注文が来るまでの時間より遥かに長いのですよ。単純に部下の前で怒りたかっただけ?
SEX MACHINEGUNSの『ファミレス・ボンバー』の歌詞みたいに、30分も待たされたあげく和風ハンバーグを頼んだのに石焼ビビンバが運ばれてきたならブチギレるのもわかりますが、たかが5分メニュー来なかっただけで責任者(たぶんただのバイトリーダー)を土下座させるの、誰にとっても無駄でしかない。
さらに、食べる前に怒っている人がいると、周りの空気もしらけたものになってしまう。その後はなんだか気まずい雰囲気になり、バイトくんがメニューを運んでくるのを見るたびに重い気分になって、ビールを何杯いこうが、ぜんぜん酔いませんでした。
副社長は「こういうことができない社会人になってほしくない」と豪語していましたが、自分はむしろ、こういうことをする社会人になりたくねえと思いました。
そのことがあって以来、自分が誰かと食事に行くときに「メニューが来るのが遅い」という文句は言わないようにしています。
少しくらい遅くても、それだけその人と話せる時間が増えたと思えばいいし、空腹になっていればなっているほどごはんは美味しくなる。
まあ15分くらい来なかったら「忘れられていませんか?」とは言うけど。和風ハンバーグを頼んだのに石焼ビビンバが来たら……ん?石焼ビビンバの方が高級メニューじゃね?
あ、歌詞を確かめたら、間違えて来たのはネギラーメンだったわ。
サウナはたのしい。