猫丸が欲しかった
小さい頃は、おばあちゃんが無限におもちゃを買ってくれていました。
なので、家の押し入れの中には、100台を優に超えるトミカやマジョレットミニカーがあったし、大量のダイヤブロックやレゴブロックが収納ケースに詰め込まれていて、プラレールのレールや情景部品もひとつの市の鉄道と街並みを再現できる程度には揃っていました。
ミニカー、ブロック、プラレール。男の子なら誰もが渡るおもちゃ街道を、基本的にはセオリー通りに歩いて育っていたのですが、男の子ならみんなハマるおもちゃでも、自分が興味を示さなかった類のものがあります。
特撮ヒーローものです。
仮面ライダーや戦隊シリーズの、変身ベルトや戦闘アイテム。なぜか、それらに対して、ほとんど興味が持てなかったのです。
そういったテレビ番組を全く視ていなかったわけではなく、1982年から1999年まで続いていたメタルヒーローシリーズの中の作品、『特救指令ソルブレイン』や『ブルースワット』あたりは好んで視ていました。
しかし、いずれも作中に出てくる車が目当てで、ストーリーとか登場人物とかは、ほとんどそっちのけ。
『ソルブレイン』は、ガルウイングで有名なトヨタ・セラが主役だったり、パトカーが初代のマツダRX-7だったりして、車種のチョイスが渋い。
『ブルースワット』も、スズキ・キャラというマニアックな車が出てくるのですが、これが他に類を見ない独特な面構えで魅力的なマシンなのです。ハアハア。
こんな感じで、ヒーローの活躍などまるで気にも留めずに、車にばかり注目しているという、ある意味ではピュアだけど、観点がズレているちびっこでした。
そのため、上記の作品が一体どんなストーリーだったのか、さっぱり覚えていません。
あと、自分が生まれる前の作品ですが、『宇宙刑事シャイダー』も、レンタルビデオをよく親に借りてもらっていました。
これは主人公とヒロインが車でパトロールする姿が好きだったのですが、バトルシーンになると車があまり出てこなくなり、途中からは流し見しておりました。
むしろ番組としてはそちらがメインだし、多くの男の子は、街のパトロールよりも、宇宙の獣たちとバトルする方に注目したのでしょうが……。歪な楽しみ方をしていた自分は、ヒロインが宇宙人で、名前がアニーだったことくらいしか覚えていない。アニーはよくパンツが見えていたので。
そんな兄の影響をまるで受けずに育った弟は、自分とは裏腹にストレートに戦隊ものに惹かれたらしく、夕方に放送されていた『忍者戦隊カクレンジャー』を毎週のように視ては真似をし、おもちゃも買ってもらっていました。そのおかげで、カクレンジャーに関してだけは、わりとちゃんと設定を覚えています。
ドロンチェンジャーというネックレスの付いた印籠のような変身アイテムや、正式名称は忘れたけどメンバーの誰かが付けていたベルトを、いつのまにか弟が身につけていました。
更には、カクレンジャーの主題歌や挿入歌の入ったカセットテープを車の中で流すのが、うちの家族の恒例になっていました。
カクレンジャーの歌は個性的なものが多く、「あれはなんなんじゃ ニンジャ ニンジャ」というもはやダジャレな歌詞が印象的な『シークレット・カクレンジャー』、ハードロックなイントロが異様にかっこいい『イントゥデンジャーカクレンジャー』、ヒップホップブームよりだいぶ早くラップを取り入れていた『ニンジャ!摩天楼キッズ』などが印象的なのですが、その中でも異彩を放っていたのが『走れ!猫丸』という曲です。
猫丸というのは、カクレンジャーの5人がふだん乗っているバスであり、彼らが経営するクレープ屋さんの店舗でもあります。彼らは忍者なのですが、世を忍ぶ仮の姿としてクレープ屋さんで生計を立てているのです。
この猫丸のおもちゃ、弟がデパートで買ってもらっていたのを横目で見ていたのですが、他のカクレンジャーアイテムには全く興味がなかったのに、これだけはめちゃくちゃ羨ましかったです。
なぜかというと、車のデザインとして、実にかっこいいのです、この猫丸。
アメリカのスクールバスを想起させるような小さなボンネット付きのボディに、猫というよりは虎やライオンを想起させるようなフロントマスク、後ろのゲートは上から下に開くのですが、これもレーシングマシンを乗せるトラックみたいでかっこいいと思っていました。
で、この猫丸というのは、バスでありながら確か意思も持っていたのですが、どんなキャラクターだったのかが全く思い出せない。人語は話せず「ミャーオ!」と鳴くということと、品川ナンバーだったことしか覚えていない。
曲は思い出せるんですけどね。「走れ走れ猫丸 旅は道連れ 世は情け 走れ走れ猫丸 夢は続くよどこまでも」……。残念ながらSpotifyにはないみたいですが。
エンディングの『ニンジャ!摩天楼キッズ』はあるので、それを貼っておきます。敵である妖怪たちからの視点で描かれ、カクレンジャーの華麗な手裏剣や撒菱のタンブリングに思わず見惚れて踊ってしまうというシュールな1曲。忍者の敵が妖怪という設定もシュールだな……。
サウナはたのしい。