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行きたいのはどこかのあの日

行きたい場所なら無限にあります。

東北地方には一度も行ったことがないので行きたいし、九州南部や四国西部も同じ理由で行きたいし、ロンドンやニューヨークも行ってみたい。

藤子不二雄先生の出身地である富山県、温泉大国の大分県、富士山が見える山梨県、ビートルズの皆様が歩いていたというアビイ・ロードとかいう歩道、なんかすごいらしいラスベガス、辛ラーメンの辛さが日本とは段違いだという韓国。いくらでも出てきます。

でも、本当に行ってみたいのは、過去の場所だったりします。別に人生をやり直そうというわけではなく(やり直せるのならやり直したいが……)、その時代に帰りたいということでもありません。

自分は当時すでに確かに生きていたけど、もう忘れ去ってしまった。そういう、とある日の景色を、ふらっと見てみたいのです。

その時どこに住んでいたかとか、近所に何があったか、くらいならなんとなく把握しているし、その頃に人気があったアイドルや、ヒットしていた曲くらいのことは、すぐに調べられる。でも、もっと詳細なところまで、実際に見てみたい。

その日にどんな車とすれ違ったか、どんな通行人がいたか、スーパーのお菓子売り場には何が売られていたか、電柱にどんな広告が貼られていたか、雑誌の表紙はどんな感じだったか、テレビでどんなCMが流れていたか、そういったものを、すべて確かめてみたい。

特に、自分が物心つく前の時代のことに関しては、記憶というヒントがないので、ほとんど未知の世界。その時すでに生きていたにもかかわらず。

自分の最古の記憶は、アイスクリームを片手に遊園地のどこかで泣きじゃくっていたというものですが、その遊園地がどこなのか、今となってはよくわかりません。

近畿の京阪神エリアの遊園地の多くは、海外からやってきたユニバーサルな仲間たちに駆逐されてしまったので、もう存在しないところが多い。

あそこが宝塚ファミリーランドだったのか、奈良ドリームランドだったのか、阪神百貨店の屋上遊園地だったのか、さっぱりわからない。ヒントの記憶はあまりにもあやふやで頼りない。コナンも金田一少年も、この謎はさすがに解けないだろう。

いちばん見てみたいのはその風景ですが、別にその日でなくても、自分が小学5年生のある日でも、高校2年生のある日でも、24歳のある日でも良いです。いや、14歳なんですけども。

その時はなんの変哲もなかった街並みは、今にして見るとどう映るのか。当時に公開された映画なんかを見れば、なんとなくの追体験はできるわけですが、実際に行ってみたらどう思うのだろう。

案外、なんの感動もなく、「こんなもんか」程度のことなのかもしれませんが、試しに一度やってみたい。

思い出によって補正されたもののモザイクが剥がれて、タバコの吸い殻だらけの道路とか、昔の家の前に設置されていたバキュームタンクの臭いとかも体験するのかもしれないけど、それでも見たいんだよなあ。


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