マガジンのカバー画像

怪談・百物語

100
私の書いた百物語 Youtubeで創作配信しています。 よければ遊びに来てください。 一緒に百物語を作りましょう。
運営しているクリエイター

#怪談

怪談百物語#1 面影

入院していた祖父の退院が近付いた頃の話だ。 私が小学生だったころ、よく祖父のお見舞いに行っていた。 祖父が入院した理由は覚えていない。 重い病を患ったのだろう。 というのも当時、両親が相当バタバタしていたから。 幼い私は早く祖父に帰ってきてほしい。 病名や病状も、何も知らずにそう思っていた。 退院の準備で忙しくなったある日、父が遊んでくれなくなった。 休日でもバタバタと退院の準備する両親を見ていると、寂しさと共に不安を感じた。 私のことを誰も見てくれなくなるんじゃないか。

怪談百物語#2 捨てないで

実家を目の前にして、ふと昔のことを思い出す。 僕が小学三年生のとき友人から腕時計をもらった。 大人が着けているそれは、子どもにとって手の届かないもの。 その日帰ってすぐ両親に自慢したのを覚えている。 母さんは喜んでくれたけど、父さんはちょっと悔しがってたな。 初めての腕時計は俺がプレゼントするつもりだったのに、って。 もらった腕時計は少し年季が入っていた。 ところどころ傷付いていたが、大事に使われたであろうことがわかる。 早速使おうと竜頭を回して時間を合わせる。 しかしいく

怪談百物語#3 大岡裁き

「こら、おもちゃの取り合いは止めなさい。」 「だってお兄ちゃんが僕のおもちゃ取った。」 「ちがうもん、僕のだもん。」 千切れそうなぬいぐるみを二人でさらに引き延ばす。 ミチミチと言う音が聞こえてきそうなほど、ぬいぐるみは限界を迎えつつある。 「可哀そうでしょ。はなしてあげなさい。」 「いやだ、取られちゃうもん。」 二人とも話そうとしない中、母が 「あのね、こういうお話があるの。」 そう言って僕たちにお話を聞かせてくれた。 「大岡裁きっていうお話があるの。一人の子どもに

怪談百物語#4 何か寒い

夏に参加した合コンで出会った男性から聞いた話。 「すごい奴がいるからあってみない?」 と友人に誘われた合コン。 ​何だか面白そう。 最近落ち込みがちの友人を誘って、一緒に行くことにした。 すごい奴とやらに会って少しでも元気になるといいな。 なんて思いながら。 「すごいってどんな感じ?」 「なんかさ、変な人らしいんだけど。  私も誘われただけだからわかんないんだよね。」 「変な人だったら私、帰るからね。」 会場の居酒屋までの道すがら。 気になる私と、ちょっとのり気じゃな

怪談百物語#5 見たい

夜景を見に三人で車に乗った。 目的地までは結構遠い道のり。 崖の上から見る町並みはどれほど綺麗だろうか。 そんな話をしながら、車通りの少ない道を進んでいく。 「お、ラッキー。今日は空いてるじゃん。」 「俺たちで夜景独占できるね。」 「でも夜でしょ。怖くない?」 駐車場についてみんな車から降りる。 ここから見える夜景が最高なんだ。 俺たちが子どものころから、いや、親世代から人気のスポット。 此処から見下ろす光。 人生の光、なんて。 「夜景を見ると詩的になるね。」 「それが

怪談百物語#6 よく見つけたね

ノリで肝試しに行くことになった。 売り言葉に買い言葉、サークルのなめてかかってくる後輩達の口車に乗せられて。 幽霊が出るという山に向かうことになった。 心霊現象とかあったことない。そもそもあいたくない。 ほんといやなのに何でこうなった。 俺の雄姿見に来い! なんて言って後輩達にもついてきてもらうことになった。 良かった。一人とか怖すぎる。 何か、何人かニヤニヤしてるけど なにあれ?ドッキリでもしかけてる? 怖いんだけど。 車を出しに一旦家に帰る。 家に着いた。一応準備

怪談百物語#7 どこからでも

このマンションは家賃が安い。 まわりと比べても暖違いだ。 理由は簡単、でるんだ。幽霊が。 毎晩0時になると、どこかの部屋に霊が現れる。 ――ピンポーン ほら、こんな風にドアホンが鳴って え? 来たの?うちに? 気いてはいたが信じていなかった。 本当に来るんだ。 ええと、どうするんだっけ。 契約の時に聞いた話を思い出す。 「あそこ霊がでるんですけど、いやほんとなんですって。  だから安いんですよ。  リフォームしてるんで家主さんは賃料高くしたいみたいですけどね。  

怪談百物語#8 お前も見える

家族でアフリカに行った。 両親がお土産を選んでいる間、僕は近くにいた子に話しかけられた。 あそこみてみろ。 そう言って指された先を見ると、透明なカメレオンがいた。 あいつしんでるのにきづかないんだ。ほらみてろ。 カメレオンは目の前を飛ぶ蠅に、透明な舌を伸ばす。 何度も何度も、取れないのに。 ばかみたいだろ。 ははッ、と陽気に笑う少年。 おまえも霊がみえるんだな。こいよ。 こっちにはもっといっぱいいるんだぜ。 少年は黒い目を、輝きようのない二つの穴をこっちに向けて 僕の手

怪談百物語#9 木漏れ日

私は小学生の時、短いだが間入院していた。 車にはねられて両足を折る重傷。 術後二か月、小児病棟で過ごした。 その時たくさん友達ができたのだが、これはその中の一人に聞いた話。 僕の入院していた病院は都会にあった。 周りは田舎だから、ちょっと重い病気になると皆ここへ見てもらいに来る、 地域で一番大きな病院。 小児病棟のみんなも、知らない学校や町から来た子が多い。 その子達の中に僕の親友がいた。 その子も僕と同じで両足を骨折していたんだけど、 僕とは違って山で遊んでるうちに転がり

怪談百物語#14 ラジオアプリ

「みんなラジオって知ってる?アプリで聞けるんだけど。 ずっと人が話してて、たまに曲流れたりして結構楽しいんだ。 たまに聞いてる人からメールが届く時があって、それを読んだり、相談にのったりしてて。 みんな色んな事悩んでるんだなー、とか。 こんな考え方があるんだなー、って勉強になるからさ。 一度、聞いてみなよ。ラジオ。」 ツイッターのタイムラインに、こんなツイートが流れてきた。 ラジオか。祖父のいる実家でよく流れてたな。 祖父は毎朝7時前に、分厚いスマホみたいな機械を手にして庭

怪談百物語#15 コスプレ

私はコスプレが趣味で、年に何度か撮影イベントに参加する。 貸し切った敷地内に用意された様々なセットを使って写真を撮る。 今回参加するのもそんなイベント。 一緒に参加するのはいつもの友人達。 これまでにも同じメンバーで何度か参加したことがる。 撮った写真をまとめて作品として販売して、そこそこ売れてびっくりしたのも良い思い出だ。 今回合わせるコスプレはすぐに決まった。 私達が仲良くなったきっかけの、一番推している作品。 衣装づくりの進捗が続々とグループチャットにアップされる。

怪談百物語#16 わんこ

うちの子はすごくやさしい。 その上、世界一かわいい。 自慢のわんこ。 保健所から引き取った雑種の男の子。 いつもそばに来て、撫でてって甘えてくる。 でも家族の誰かが落ち子出る時は、ペロペロして慰めてくれる。 私が子どもの時。 日課の散歩へ連れていったら派手に転んだ時だってそう。 私がびえびえ泣いていると、傷をペロペロしては「大丈夫?」と言いたげな表情でこちらを見て気遣ってくれた。 ある日父の帰りが遅くなった。 「ただいま。帰りがすごく混んでて遅くなった。どこかで事故でもあっ

怪談百物語#17 回転寿司

回転寿司に行くと珍しいメニューに出会える。 ミーオボール寿司、ハンバーグ寿司。 シイラの漬けやアン肝軍艦。 予算で握ってもらう寿司屋と違って面白い。 あっちはあっちで日によって仕入れが違うという。 しかし、「今日は良いコーンが入りました。マヨコーン軍艦です。」なんてことはないだろう。 色とりどりのネタが回るレーン。 最初は決まって赤エビ。 1貫110円の、少しお高い皿。 だからネタも大きく、そして美味い。 最高のスタートが切れる。 次は海鮮サラダ軍艦。 イカとカニカマとコリ

怪談百物語#18 習字教室

娘の通う小学校で体験した奇妙な話をここに記します。 PTAの総会の帰り道、友人から相談を受けた。 「学校の放課後、習字教室が開いてるんだけどさ。友達一人もいなくて寂しいんだよね。よかったら一緒に来てくれない?」 お願い!と頭を下げられた。 字が綺麗になるし、まあいいかな。と来週一緒に体験しに行くことにした。 午後7時。 教室に入ると懐かしい大きさの机、イス、窓からの風景が目に入る。 ノスタルジーを感じていると、先生が入ってきた。 初老で優しい雰囲気の男性。 挨拶も終わり、