怪談百物語#15 コスプレ
私はコスプレが趣味で、年に何度か撮影イベントに参加する。
貸し切った敷地内に用意された様々なセットを使って写真を撮る。
今回参加するのもそんなイベント。
一緒に参加するのはいつもの友人達。
これまでにも同じメンバーで何度か参加したことがる。
撮った写真をまとめて作品として販売して、そこそこ売れてびっくりしたのも良い思い出だ。
今回合わせるコスプレはすぐに決まった。
私達が仲良くなったきっかけの、一番推している作品。
衣装づくりの進捗が続々とグループチャットにアップされる。
皆気合入ってるなあ、私も頑張らないと!
そう思っているとグループチャットに連絡が入る。
――こんなに気合が入っているならさ、また作品として残したいよね。
みんなでそう話し合って、今度のイベントにはカメラマンさんを呼ぶことになった。
前回は依頼料と作品の売り上げでプラマイゼロ程度。
今回も何とかなるといいなと思いながら、前回依頼した人に連絡を取った。
僕で良ければ、とカメラマンさんには快諾していただけた。
二日間行われるイベントだが、都合があったのは初日。
さて、色々と必要な連絡は終わった。
あとは衣装とウィッグを完成させるだけ!
イベント当日。
今回の会場はハロウィン風に飾られていて、ところどころホラー演出のセットが用意されていた。
私達の衣装もそれに合わせてハロウィン風衣装に仕立てた。
撮影をしながら次々に移動し、予定していたスケジュールは全て終えることができた。
残りの時間は私達の個人的な撮影タイム。
あっちで撮影、こっちで撮影。
やってることはさっきとかわらない。
でも表情は柔らかくて自然体の私達がカメラに映る。
「あ、この照明すごくかわいい!」
そろそろ帰る時間かなと考えていると、そんな声がした。
振り向くと、友人がカボチャのライトを見つめていた。
ふわふわと揺れるそのライトは透明感があって、温かなオレンジの光を発している。
「今回の運営さん、趣味いいよね。」
「次の撮影会もここの運営さんがいいなあ。」
他の飾りもリアルで、本当に人が住んでいるんじゃないかと思えるセットばかりだった。
埃を被った重厚な本。
本物の蜘蛛の巣みたいなネット。
骨董品と見まがうような燭台。
椅子や机、他の家具も歴史を感じさせるようなものばかり。
カメラマンさんも「勉強になります!」とテンション高く、その辺のセットを撮って回っている。
「すみません!最後にこっちの撮影お願いしまーす!」
「はーい!今行きます!」
カメラマンさんがセットの撮影を中断してこっちに来てくれる。
「可愛い照明ですね。じゃあそれを中心にして、はい。それじゃ撮りまーす!」
その日の夜、撮った写真を少しだけ加工してSNSにアップした。
最後に取ったカボチャのランプの写真が人気で、普段よりもたくさんの「いいね!」がもらえた。
あのランプどこで買ったんだろ。ちょっと欲しいかも。
グループチャットでもそんな話で盛り上がる。
SNSのコメント欄には「似合ってる。」「かわいい!」「本物みたい。」と嬉しいことがたくさん書かれている。
気合入れて用意したコスプレだけあって、褒められるととても嬉しい。
そんな中、一件のDMが届いた。
「写真を消せ。」
なんだろう、アンチかな。止めて欲しい。
送ってきたのが誰なのか気になり、名前を検索してみた。
するとインスタグラムのアカウントが見つかった。
沢山のフォロワーがいる有名な人らしい。
だがアップされている写真はどれも心霊写真ばかり。
お払い済み、とは書かれているが気味が悪い。
――そっちこそ写真を消すべきじゃないの?
そう思うも返信することなく、見なかったことにしてコメントに返信していく。
今度アルバム販売するからよろしくね、と宣伝も欠かさずに。
翌朝、目を覚ますと体が重い。
起き上がるのも苦しいほど。
昨日の衣ちょっと薄着だったかな、と後悔しつつ昨日のメンバーに連絡を取る。
みんな体調を崩しているそうで、食あたりじゃないか、空気が悪かったんじゃないかとグループチャットが埋まり出す。
その日は大学を休んで病院に行くことにした。
でも体のどこにも異常が見つからない。
抗生剤と解熱剤だけ処方されて帰ってきた。
連絡を取ると皆同じようなものらしい。
横になりながらSNSを見ると、またDMが届いていた。
「何してる。早く消せ。」
昨日の人から届いていた。
体調が悪いのもあり、イラっとしたので返信した。
「どういうことですか、皆で撮ったお気に入りの写真です。絶対に消しません。」
すぐに返信が届く。
「今頃体調ヤバいんじゃないか?その写真のせいだ。もう消しても遅いかもしれん。」
ゾワっとした。
確かにあの写真だけおかしな部分がある。
どうしたらいいのかDMの送信者に尋ねると、時間を作ってくれるらしい。
今すぐ昨日の撮影した場所に案内しろと言われた。
動くのも辛いが、藁にも縋る思いでイベント会場へ向かった。
そこには男性が待っていた。
身長は私が見上げるほどだからたぶん180cmくらい。
ひょろっとした外見に似合わない、力強い雰囲気の人だった。
「この写真はどこで撮った?」
挨拶無しでいきなり聞かれ、さっそくその場所へ案内する。
「ここなんですけど、あれ?ランプがない。」
昨日のセットに着くもどこを探してもカボチャのランプが見当たらない。
そう、昨日同じイベントに参加していた人の写真をSNSで見た。
同じセットで撮ったどの写真にも、あのランプは見当たらなかった。
「あれ、本物の霊。ハロウィンの雰囲気に寄ってきたんだろうな。」
元はハロウィン好きの人だったんだろうよ、と男性はつまらなさげに吐き捨てる。
「自分の浮かれた姿を拡散されたのが嫌だったんだろうな。姿を見せないってことはあんたらに執着はしてなさそうだ。」
良かったな、さっさと消しとけ。
言われた通りに写真をSNSから削除した。
これで大丈夫、と胸をなでおろした。
男性は用は済んだとばかりに、すぐに帰っていった。
肩の荷が下りたように軽くなった体で私も帰宅する。
翌日には体調は戻り、元気になった。
グループチャットに報告すると、みんなも元気になったらしい。
良かった。
あの人に言われなければどうなっていたことだろう。
ちゃんとお礼を言わないと。
そう思ってDMを送ろうとしたが、なぜかブロックされていた。
あれ?あっちなら送れるかな。
今度はインスタグラムのアカウントに移動する。
するとそこには削除したはずの昨日の写真があり、『お払い済み』とスタンプと共にたくさんの「いいね!」が押されていた。
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