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怪談百物語#14 ラジオアプリ

「みんなラジオって知ってる?アプリで聞けるんだけど。
ずっと人が話してて、たまに曲流れたりして結構楽しいんだ。
たまに聞いてる人からメールが届く時があって、それを読んだり、相談にのったりしてて。
みんな色んな事悩んでるんだなー、とか。
こんな考え方があるんだなー、って勉強になるからさ。
一度、聞いてみなよ。ラジオ。」

ツイッターのタイムラインに、こんなツイートが流れてきた。
ラジオか。祖父のいる実家でよく流れてたな。
祖父は毎朝7時前に、分厚いスマホみたいな機械を手にして庭に出る。
その機械から流れる音楽に合わせてラジオ体操してた。
あれがラジオか、だからラジオ体操って言うのか!なんて気づいた。
子どもにとっては大発見だったな。

アプリでラジオが聞けるのか。
何でもスマホでできる時代。
早速インストールしてみた。
住んでる場所や名前、色々設定してようやく聞けた。
ラジオはずっと一人で話し続ける。
孤独が紛れるようでほっとする。

そういえばあの頃祖父が、絶対に聞いちゃいけない周波数があるって言ってたな。
止めてって言ってるのに「今から聞かせてやる。」なんて言ってさ。
調節するのにすごく時間がかかった上に結局聞けなかったな。
このアプリでも聞けるんだろうか。
周波数はどこで会わせるんだろう。
ラジオアプリ、周波数、検索。
なるほど。便利だな。
祖父のラジオより細かく調節することができた。

――ガガッ、ガッ

繋がったみたいだ。
祖父は何を聞かせようとしてたんだろうか。
ジッとスマホを眺めるが、ずっと同じ雑音が流れ続ける。

――ガガッ、ガッ
――ピー、ザザッ、ガッ

あきれたもんだ、何も聞こえない。
祖父は冗談が好きだったからな。
この周波数もそうだったんじゃないか。
そう思い始めた時、異質な音が流れ出した。

――い
――おーい
――ザザッ、ザッ

呼びかけられている。

――聞こえるか
――ザッ、ザッ
――おーい

何の番組だろうか、うるさい位に聞こえてるよ。

――いまから
――そっち
――ピー、ザッ

不穏な気配を感じてラジオを消した。
こういうことか、と祖父のいたずら心に感服した。
聞かせたがるわけだ。
成人した今でもこういうのに弱い。
額の汗を拭いてアプリを削除する。
祖父は元気にしてるだろうか。
こんどの休み、一度実家に帰ろうかなどと考えながら布団にもぐる。

外からはザッザッザッと、靴が擦れる音がいくつもいくつも
気付かないふりをして必死に目を閉じる。

「――もうすぐそっちつくぞお。」

祖父さんやりやがったな。
実家に電話をかけると祖母が出たので、祖父に代わるよう頼んだ。
祖父の声が聞こえた端から、あの周波数は何なのか叫ぶようにして尋ねた。

「あちゃー。聞くなゆーとったやろうが。そしたらあれや、塩まいてほっとけ。
どうせなんもできんわ。ラジオの電源切っとったらなんもされへん。
ん?
もう外におるんか!
いや、外の音は偽物や、入ってこんよ。
落ち着いてはよラジオ切っておいで。
そしたら大丈夫。
アプリ?なんやアプリ。しらんけど、はよ切「おーい

ついたぞー。」

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