怪談百物語#16 わんこ
うちの子はすごくやさしい。
その上、世界一かわいい。
自慢のわんこ。
保健所から引き取った雑種の男の子。
いつもそばに来て、撫でてって甘えてくる。
でも家族の誰かが落ち子出る時は、ペロペロして慰めてくれる。
私が子どもの時。
日課の散歩へ連れていったら派手に転んだ時だってそう。
私がびえびえ泣いていると、傷をペロペロしては「大丈夫?」と言いたげな表情でこちらを見て気遣ってくれた。
ある日父の帰りが遅くなった。
「ただいま。帰りがすごく混んでて遅くなった。どこかで事故でもあったのかな。」
普段通りの父の姿。
「遅かったね、大丈夫だった?」と心配していたようで、わんこは走って来て父をペロペロしだす。
「はは、ありがとうな。大丈夫。大丈夫だから。」
父も嬉しそうに撫でまわす。
そろそろ夜の散歩の時間だ。
夜も遅いのでライトを持って、犬用ハーネスに反射板を付ける。
事故にあったら大変だから。
「いってきまーす。」
玄関のドアを開けると、わんこが走り出す。
リードが張らないように急いでついていく。
向かった先は車。
父が通勤に使ったり、わんこを病院に連れて行くときに使う。
私が生まれた時に買った。
我が家の大切な家族の一台だ。
わんこは車のバンパーをペロペロしてる。
「もう、車も慰めてあげてるの?」
機械は落ち込まないよ、なんて説明してもわからないよね。
ペロペロ、ペロペロ。
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