見出し画像

わたしの財布

サンタクロースにはじめて手紙を書いた理由は、どうしても欲しいものがあるから、だった。どうしても欲しかったのは、自分用の財布。
手紙に思いをしたためるために、真っ白い紙をパタパタと折って、本のかたちにした。
あて名はもちろん、【サンタクロースさんへ】。
住所は、サンタほどの有名人あての手紙には不要らしい。母からの教えだ。

「おこづかいをいれる、わたしのさいふがほしいです。かわいいくて、おみせにうっているようなのがほしいです。」

小学校に向かって家を出る時、手紙は母親に託した。母が家事に追われて手紙を出し忘れるのではないかと不安に駆られた私は、念入りに今日中に手紙を出すように、と伝えた。
12月も半ばを過ぎ、そろそろ届く品が選定されているだろう頃、変わらず私は不安だった。サンタクロースは、かわいい財布、と言われてほしいものがわかっただろうか?ひげをたくわえている様子から見るに、年配の男性であるのに、小学生の私の「かわいい」がわかるのだろうか?不安でならなかった。

大真面目に、父と母に「プレゼントが財布でなかったらどうしようか」「去年はゲームだったから、今年もゲームかもしれない」と伝えたところ、「そういうこともあるかもね」との返答。何をにやついているんだ。
それでは困る。私は財布をもって、友人たちと駄菓子屋へいくという予定があるのに。

そんな私の心配をよそに、12月25日の朝、クリスマスの当日、目を覚ますと枕元にはプレゼントが。開くとお菓子の詰め合わせと、かわいらしい猫がプリントされた財布があった。
その時は本当にうれしくて、何度も何度もお金を出し入れしてみたり、鞄に入れては取り出して眺めたりしていた。友人たちにお気に入りの財布を、自慢して回ったものだ。

大学生になって上京した私は、連休には実家に帰るのがお決まりになっている。あるとき、居間で探しものをしていると、タンスの上に、あの日、サンタからもらった財布が置いてあった。
懐かしさに吸い寄せられるように手に取る。
あぁ、もう十年以上も経っているというのに、捨てられずに残っていたんだな。なんだか嬉しい。
こんなに重たかったっけ、と財布を開けると、千円札数枚と小銭が。
現金が入っているわけがないので疑問に思っていると、
「あ、そんなとこにあったけ、財布」
驚くべきことに、以前のサンタクロースが私の財布を使っていたのだ。
「なんでこんな小学生向けの財布使っとるの!」
「前のが壊れたんやがいね」
「買ったるから、やめまっし!」

父親が猫の柄はないだろう。さすがに。
仕方がない、今度は私がサンタクロースになる番のようだ。

あの頃の私は、十年後自分がお返しに財布をプレゼントしているなんて、思いもよらなかっただろうな。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。 気が向いたらサポートしてやってください。 うれしいです。