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【#2】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#2

視点:ノボー・タカバタケ 30歳
『西暦3230年(新星1年) 惑星「エリンセ」』にて

 まずはこの新しい星、エリンセ。
 この星の1日は48時間ある。サイズは地球の2.5倍だ。
 恒星は1つ、衛星は4つ。奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。

 環境は地球に酷似していた。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布していた。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していなかった。
 人類が移民するのに最適な条件がこの星にはそろっていた。

 惑星移民の際、政府により地球上の動物の持ち込みは禁止された。
 保存遺伝子のみ持ち込まれたが、エリンセ上における生態系やウイルスに対しての影響は未知数であり、今のところ新星上での地球生態系再現の予定はなかった。
 しかし、食料の確保として、酪農・食用の動物・魚介類と昆虫に関しては、先発隊がすでに実験を行い、限定して工場管理していた。
 また植物も工場にて、穀物・野菜・果物・木の実・海藻も、同様に管理された。
 その中で、キノコ類はその繁殖力から再現を未定とされていた。キノコファンは多く、彼らはキノコの再現を強く希望していた。

 僕が非常に興味深いと思うことは、3230年にもなり、人類は惑星を超えるほどの進歩をしても、未だ『食』というものにこだわりを持っていることだ。
 いや、食だけではない。服装や伝統、生活様式。あらゆることを、人類は2000年の頃からほとんど変えずに続けていた。むしろ逆行している部分もある。
 
 ……人類は進化や進歩を否定していた。
 その原因は2100年ごろからだ。
 AIやロボットが発展することによって、人にはほとんどやることが無くなった。
 『非生命に人の歴史が奪われた』という作品は古典でも知られる名作だ。 
 人々の寿命は長くなったが、目の前には、ただただ大量の空白の時間が与えられた。
 仕事や作業は人を縛り付けていたのではなく、人に動く原動力を、前に進む力を与えていた。それを失った人々は、進歩と進化を手放した。

 寿命が150歳を超えたころから、各国は尊厳死を全面的に解除するようになった。
 それが人々の望んだことだった。
 1000年以上経過して、今でも過去の行動を変えないのは、僕たち人類全体が『明日を求め、未来に進むこと』を止めたからだ。

 1800年から2100年にかけて、前へ前へ、上へ上へと成長し続けた『人類開花のフロンティア』と呼ばれたあの時代を、人々が今でも懐古しているからかもしれない。
 それともヒトという種族はすでにゆっくりと絶滅に向け歩いているのだろうか。

 それでも、人は手に入れた便利さを手放すことはできなかった。人々がどれだけ望もうと、時間は後ろには進んでくれなかった。
 
 ヒトは繁殖活動を鈍化させ、いつしか、恋という概念すら無くなった。
 それが、僕たちが2200年以降、1000年間続けてきた時代だ。

 人はリスクを負うことなく、人口子宮で人を増やす。でも、増やす意味さえ、もうすでに失われているのかもしれない。

 何もすることがなくなった人々がすがったのは、食事という快楽だった。 
 人々は長い長い時間の中で、食事というものに特別な情熱を注ぐようになった。過去からの料理の歴史は、その姿を変えることなく、大切に受け継がれていた。

 かくいう僕も食にはこだわりがある。
 小麦粉から作られるパスタと呼ばれるもの、特にオリーブオイルと生トマトを使ったものがたまらなく好きだった。
 パーティーや祝賀会がある際は、必ずと言っていいほど、リクエストをしていた。

 仲間と一緒に、酒と食を楽しむ。
 それが人々に残された、心の慰めだった。

 『エリンセ』と言う名の新しい星が人間に与えた恩恵は、24時間という生活サイクルを保つことができたことだ。

 この星の1日は48時間。地球の2倍の時間がある。
 それでも、4つある衛星の1つ『大月』は恒星とまではいかないが、かなりの明るさを持っており、これが恒星ときれいに24時間で入れ替わるように、この惑星の周りを公転していた。つまり、人間の24時間の生活スタイルはそのまま維持することができた。

 こういう奇跡的な偶然の重なりを見つけると、科学者である僕でさえ『神』という存在を考えてしまう。

 皮肉なことに、僕達が星を渡った時に、人は神と別れを告げていた。
 どれだけ時代が過ぎても途切れることのなかった宗教。
 それは超越的な存在に畏怖し、救いを求めるという、大きな拠り所だ。
 そしてそれは、後ろ向きに歩む人々を支える、大きな一端を担っていたはずだ。

 それでも、太陽を振り切ったと同時に、僕たちはその太古から続く、その人間らしい価値観を捨てざるを得なくなった。

 新星統一政府になるとき、人々が宗教との別離を決めたのは、『宗教的大規模テロ』により100万にも及ぶ同胞を失うという、悲劇を経験したからだった。

 そして、その実行はボディを持つAIによって行われた。

 新星統一政府発足の後、宗教色のある言動は一律制限を受けた。
 そしてボディに関与するAIは一切合切まとめて永久追放(地球上に停止破棄)となった。

 AI新法は、人間に罪人が出た時点で『ヒトという種族全員に有罪を言い渡す』のと同じぐらい荒唐無稽なものだった……が、今ここで文句を言ってもしょうがない。

 ちなみに恒星の24時間を白日(はくじつ)。
 大月の24時間を青日(せいじつ)と呼ぶ。
 地軸にズレがないので、日中は季節に関係なく、日の位置で大体の時間がわかる。

 言語に関しては、世界言語『エスパス』が公用語とされているが、ほとんどの人間はそれを使っていなかった。いや、使う必要がなかった。何故なら完璧な翻訳システムが存在するからだ。

 僕とAC.TOKYO(アカデミア.トーキョー)時代の仲間は、今でもジャパニーズを使うが、結局のところ脳内チップ(※)が言語変換をしてくれるので、会話や読み書きには何の問題もない。
 

 この惑星の自然も、ここから見える恒星も衛星も、奇跡的な確率で、この場所に存在していた。

 でも僕の心は、それらを美しいと感じることができなかった。
 いや違う。地球ほどの美しさを感じないと言った方が正しい。

 きっと今という時間にピントが合っていないんだろう。
 それは、僕がこの星での未来を見ていないからだ。

 それさえ置いておけば、日差しが水たまりを乾かすように、僕も人々も、新しい生活に次第に体を馴染ませていった。


#3 👇

5月25日17:00投稿

【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者

【語句解説】

(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)

『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。

『惑星エリンセ (Elimssehs
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
 環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
 新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。

『時空短縮法』
ノボー・タカバタケが発見したワープ理論

『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置

『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO

『従順の証』
元来罪人に課せられる脳内施術であり、もともとはAI・ロボットが人間に反逆をしないために作られた観念である。

『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。

『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家観を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。

『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類が生存していくのが難しいと予想されている。

『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置かなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。

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