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CASE:2 なくした物

CASE1:なくした写真 から一週間後

『なんでよりによって今日雨なんだよ』
隣を通っていく
イラつくサラリーマンをよそに内心嬉しい私
生憎の雨模様だけど、嫌なことを洗い流してくれる雨は私は好き。
他人が”イヤ”って言うものを
私が”スキ”ってちょっと優越感を感じる

『待ち合わせは池袋の梟書店でお願いします』
「こちらが指定した場所じゃだめですか?」
『だめです。』

今回の依頼は
”母が大切にしていた指輪を探してほしい”
というもの

依頼主がこっちの”勝手”がわかってなくってやり取りに
ウンザリしたけど

「費用はいくらでも払う」
っていう言葉に釣られてしまった

こっちも生活があるから仕方がない
『では、3万円でお願いします』
そうふっかけても
「お願いします」
という即決返事に

内心”ウザ”って思いつつも承諾した

どうやら探しているのは
依頼主の母で、同伴で来るとのこと

「”さなさん”ですよね?」
『…』
待ち合わせ場所についたら連絡をしてください。
こちらから声をかけますので。

って伝えたのに
こっちの話を聞いてくれない依頼主だと
ペースが乱されてイライラする

男性の声で振り返ると初老の女性と一緒にいたのは
40代ぐらいだろうか、サラリーマン”風”の男性

サラリーマン”風”って感じたのは
スーツにシワとかネクタイの締め方が緩い感じ
”着なれてない”のを感じ取った

『さなです。”×××”さんですよね?では向かいましょう』

この喫茶店は図書館風でお気に入り
うるさい池袋駅の雰囲気からちょっと逃げられる
”騒音の避難所”のような場所で私は好き。

『私は決まっているのでそちらがあとは選んでください』
メニューを手渡すと
「ありがとうございます」
って初老の女性が受け取ってメニューを眺めはじめた

普通家族とか知り合い同士なら
”メニューを広げて一緒に見る”
のに、一人ずつ確認する様子を見て
二人の”微妙な距離感”を察した

「どうぞ」も言わずに
女性がメニューを男性に手渡すと
サッと見て即決した

店員さんを呼ぶと
『私はダージリンティーのアイスで』
「私はフルーツティーのアイス」
「この梟ブレンドをホットで」
注文を済ませたところで改めて”依頼主”に挨拶をした

『”さな”です。よろしくお願いします』
高橋 洋子(たかはし ようこ)と申します」
そう相手が私の目を見ながら伝えた瞬間、映像が頭の中を駆け巡る…

けど何かおかしい
映像が細切れで、どこか断片的
朝目覚めたと思ったら瞬間移動したかのように食卓の風景、男性に怒られている映像が映ったと思ったらいきなり布団の中にいる映像
全部が”点”の映像でつながってない

はじめて経験することに
『…これは…』
思わず片肘をついてあごに手を添える私の様子を見て

「認知症なんだよ」
って声をかけてくる男性
ハッとして顔を上げると
「だからァ言っただろ?無理なんだって。どっかになくしたんだよ」
そう女性に毒づく男性

”認知症”だと
新しいできごとほど覚えてなくって
遠い昔のできごとのほうが鮮明に覚えている話を耳にしたことがある

私が”見える”のは
現時点から2か月前までの期間のみ
最近の記憶がこう不鮮明だとさすがに何もわからない

「でも、絶対にあの指輪だけはなくさないようにしまっておいたのに…」
「いつもこうだ。この間も”しまっておいた”って言いながら捨てたりしてただろ?」

目の前ではじまる喧嘩にウンザリしつつも
もう少しだけ”頭の中のシークバー”を動かしていくと
”何かの明細”みたいな映像を発見した

【×××買取本舗】
って書いてある

これってもしかして…
想像したくない結末になんだか心がザワザワする

「亡くなった主人からもらった指輪なんです」
そう必死に訴えかけてくる女性の声を耳にしてまたハッとする
まだ目の前の喧嘩は続いているようだ

「もう帰るぞ」
”ジュン”ちゃん!もうちょっとだけ待ってよ」
「何度も言わせるなよ!ほら!相手も迷惑そうにしているだろ」
私を指さしながら男性がこちらに顔を向けた瞬間、”その男性の映像”が頭の中を流れた

この男性は
高橋 純(たかはし じゅん)

というらしい

依頼主以外の人の記憶を見るのは
私のポリシーに反しているので見ないようにしているけど
どうしても一つ気になった事があって
頭の中のシークバーを動かしていくと

女性が言っていた
”いつもの場所”が一瞬映った

そこから何かを物色すると
指輪と他にもいくつかの貴金属を手にして
どこかに向かう映像
駅を降りて…向かった先の看板を見ると
【×××買取本舗】
女性の記憶で見た明細の名前だ

そのままお店に入って何かやり取りして
持ち込んだものをテーブルの上に並べて
最後には何かサインをして数十万の現金を
もらっている様子からそのまま競馬をして
居酒屋に行って…好き放題する1日が再生された

つまり、依頼主と一緒に来ていた男性本人が
自分の家族の私物を換金していたという事実

”仕事をしている”映像が一つもなく
私が直感したサラリーマン”風”は当たっていたみたい

”最ッ低。”
押し殺すように小さい声を漏らす

彼女が”なくした”って思っていたものは
身内によって”盗られていた”もので
最初っから”なくして”なんかいなかった

でも、あの女性の記憶の中に”明細の映像”があったってことは
彼女自身も男性が売り払ったことを知った上で
その事実を信じたくなくて、
誰かにすがりたくって、
私に依頼したような気がした

でもこの場で直接伝えたらきっとこの女性は
あの映像のようにまた怒られてしまうし
下手したらもっとひどいことをされるかもしれない
私が依頼されたのは女性の記憶の中を探すこと
男性側のほうまで”見た”ことになれば何をされるかわからない
そう思って私は

『〇月〇日にゴミをまとめましたよね?』
「…!はい…その日は確かにゴミの日でした」
『残念ながらその時に一緒に捨ててしまっているようです』
「そんな!!」
顔を手で覆い、肩を落とす女性に
男性は
「ほらみろ」
って”安心”した男性の様子に私はただ膝の上で拳を握りしめた

お店から出る時に
「ここは僕が払いますよ」
心底安心したのかさっきの強面の表情から一転した笑顔で伝える男性
『それは”自分の”お金ですか?』
「えっ」

我慢したけど、絞り出すように男性を睨むと
「お金渡してなかったですね」
って慌てて3万2千円渡してきた

明らかに”依頼料”プラス”口止め料”

『…安っす』
もうなんかどうでもいいや。

『じゃあ、最後に”アレ”お願いします』
「わかりました」

今回の事実を知っている私をブロックすることは
相手にとっては逆に好都合なんだろう

「終わりました」
スマホの画面をお互いに確認すると
『さようなら』
と、その場をあとにした

「帰るぞ」
肩を震わせながら涙を流す女性を見送る

これでよかったんだ。
正直に伝えたほうがよかったのに。

”テンシとアクマ”が頭の中で言い合うのが
ノイズのように感じる

フクザツな私の感情とは裏腹に雨がすっかり上がっていて
夕焼けの眩しさがイヤな私の感情と相反するように照らしてた


”離れ離れの街を繋ぐ列車は行ってしまったね
失くした言葉を知らないなら ポケットで握りしめて
あがいた息を捨てて延びる今日は眠って誤魔化せ
失くした言葉を知らないなら 各駅停車で旅をして”

ヘッドホンから流れる
”ラグトレイン”
いつもは惰性で聞いているボカロの歌詞が
なんだか今日は無性に耳に残って心に刺さった

ポポッという通知音
新しい依頼か…と思ってみると
「久しぶり。久々に話せるか」
というメッセージに
思わず深いため息をついた

『何?』
文字を打つのもだるい

「正式な”依頼”をしたいんだけど」
『いくら?』
「前回と同じ金額で」
『わかった』
「〇月〇日、○○警察署に来てほしい」
『名前とか住む場所は保証してくれるんですよね?』
「そこはいつも通りさせてもらう」

この手の依頼が一番嫌い。
だけど”生活”のためだから。

CASE3:亡くした人 へ続く。



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