旅行記#6 マドリード

ヨーロッパの滞在が残りわずかになり、今しか会えない人に会い、行けない場所に行きたいとより一層感じている最近です。

私は、自分の旅行を視察と取材を詰め込んだフィールドワークだと題しています(?)。今回のマドリードの旅行でも深い話を聞いてきました。

お会いしたのは経済の博士課程をやっている方です。
(経済を文系とくくるのは違うと思いますが、日本でいう)文系の専攻の博士課程をスペインでやるのは非常に面白い選択だと思っていたので、話を聞くのが楽しみでした。



今取り組まれていらっしゃるのは、家族経済学です。性差による賃金の格差や、出生率の低さなどを経済的なアプローチで解明しようとされています。
近いうちに出版する論文について二時間近く話してくださったのですが、非常に興味深い。

結果から言うと、企業は男女において正規雇用の条件を平等にしている(性別にかかわらず週に40時間働く)にもかかわらず、それが賃金の格差を生み出す原因になっているようです。

日本には、「男女のうち必ず一方が正規労働をする場合、どちらかといえば男性が正規労働をする」という社会規範があります。
「正規労働の時間の長さ」という意味では男女平等です。実際には上記の規範であったり、女性が妊娠、出産などで40時間働くことがどうしても難しい時期があったりするため、男性が正規労働をすることになり、賃金格差が生まれているのです。

さらに、育児代行サービスを最低賃金で導入することで、男女間の賃金の格差は和らぐ可能性がある、ということです。
育児代行サービスは欧州でよくみられる、安価な労働力である移民を「利用」していることが多いため、日本ですぐに導入されるかどうかは不明ですが、シミュレーションとしては大変面白かったです。

先ほどの規範と、
「育児中では男性の方が女性よりも娯楽を楽しむことを許されている」
という2つを前提とします。
ここに「最低賃金で代行してくれる育児サービス」が選択できるとします。
すると、女性は「賃金の高い正規労働をして子育てのためにお金を払う」方が、「子育てに専念する」よりも、最終的にお金が貯まる(効用が高くなる)ということのようです。

さらにご自身の研究だけではなく、マッチングの応用についてもお話してくださいました。

ある自治体の待機児童と保育所のマッチングをアルゴリズムを使って効率化しようという研究も行っているようです。
役所が手作業でやっていたものを、主に親の希望と保育所の場所を元に自動的に振り分けられるかもしれません。
しかし、ネックになるのは兄弟がいる場合で、たとえ少し離れていても同じ保育所に通わせることを優先するだろう、そしてどの家庭が何人の兄弟を持つのかは予想ができないので、非常に難しいとおっしゃっていました。

また、「タップル」というマッチングサービスにもアルゴリズムが使われているのですが、複数条件を完全に一致させることがどうしても難しいようです。さらにプロダクトとして使いやすさも意識する必要があり、スライドがスムーズに行くか(プログラムを動かしたときの所要時間の長さ)も重要な指標になります。

経済学を専攻とされている方のお話を伺うのは今回が初めてでした。
社会のあらゆる事象をモデリング化し、様々な変数を用いて科学的に未来を予測できることにわくわくしました。

さらに、私は4月から地盤災害の研究をする予定なのですが、土粒子をモデリング化し、それがどのような力が加わって災害へとつながったか、と考察する過程は、まさしく経済学でも同様に使われているのだと共通点を見出すことができました。

そういえば、今の仕事でも、ある実験結果と指標書と突き合わせて、何が原因で実験が失敗したのか、どのような評価をするべきか、というレポートを作成していたことがあり、楽しかった記憶があります。
一見全く異なる分野でも、本質的には同じような思考方法で理論化していくことへの純粋な興味が湧きました。



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