見出し画像

オーストラリアと私―第3話「オーストラリアの教育の研究をする!」


大学3年生の春に

 大学3年生の春にゼミ選びも終わり、教育行政のゼミに入った。研究テーマをどうするかを考えていた。元来、日本の教育の在り方に疑問を持っていた。ただし、日本の教育だけを見ていては解決のヒントは見つからないのではと考えていた。そこで、外国の教育と日本の教育を比較する、比較教育の研究ができないかと思っていた。
 ところが、ゼミの先生の話を聞いていると、まず、いきなり比較することは難しいとのこと。ある一国を選べというのだが、最初に思いついたのがフランスである。これはたまたま春休みにフレネ教育の本を読んだからである。*参考:フレネ教育とは? - freinet-japan ページ!
 しかし、最初のゼミで「君はフランス語ができるのか。」と聞かれ、「できません。」と答えるのが精一杯だった。「英語はできるのか。」と聞かれたので、「できます。」と答えた。すると、「よく考えなさい。」と言われた。
 このまま一日を終えるわけにいかないので、帰り際に、「イギリスの教育の研究をしたいです。」と申し出た。イギリスなら英語だから大丈夫と思ったのだ。すると、「オーストラリアの教育の研究をしたらどうだろう。君は英語ができるんだろう。いいねえ。ここにオーストラリアの教育の本がたくさんあります。自由に使っていいです。オーストラリアの教育は日本で全く研究されていません(注:1991年当時のこと)。誰もやっていない研究をやってみませんか。楽しいよ。」と言われた。
 私はあっけにとられ、「オーストラリア?考えてもみなかった。教育の研究といったら、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカじゃあないのか…」と思った。しかし、そんなことも言えないので、先ほど「よく考えなさい。」と言われたのを逆手にとって、「よく考えてみます。」と言った。ゼミの先生は怒るかと思ったが、まったく怒らず、「そーですか。では、よく考えてみなさい。」と言われた。
 帰宅して、オーストラリアの人口や面積を調べてみる。調べても、当時はインターネットもないため、よくわからない。こまって母親に話してみると、「へえ、オーストラリア、私もよくわからないねえ。でも先生が言うのなら面白いのでは?」と言われた。その後、図書館で本を調べたが、いくら調べても、オーストラリアの教育の本は無かった。

オーストラリアの教育の研究をする!

 一週間後、ゼミの先生に再び会った。「先生、質問があります。」と私。「ほう、なんだ?」と先生。「あの、オーストラリアの教育っておもしろいのですか。調べてもさっぱりわからないです。図書館にも行ったのですけど、本もなくて…」。「図書館に行ったのですか。立派ですね。」と先生。そこで聞いてみた。「先生、オーストラリアの教育は子どもを大切にした教育ですか?児童中心主義か、という意味です。教えてください。」直球の質問だった。
 この質問をした理由は次の通りである。「もし、オーストラリアの教育が子どもを大切にしているのなら、知りたいし、原理的にはフランスのフレネ教育と同じことになる。どこの国の教育を研究しても変わらないだろう。それに先生が本を自由に使っていいと言っている。全部英語の本のようだが、英語なら持って来いだ。英語の勉強にもなるのでは。」こんなことを考えて質問してみた。
 すると、ゼミの先生は、顔色が変わった。「もちろんです。オーストラリアの教育は、日本の教育と違う。子どもを大切にしています。個を尊重しています。カリキュラムも教育制度も…」
 ここまで言われて研究しないという選択肢はなかった。「先生、オーストラリアの教育の研究をします。子どもを大切にした教育がどうなっているのか、日本の教育と違うのなら、それを知りたいです。」と言った。すると、「そうですか。ぜひがんばりたまえ。」と先生は言った。

どんな本を読めばよいか

 「何か読む本はないですか。勉強します。」と聞くと、「比較教育の本を読みなさい」と言われた。次のような本であった。 国際化社会の教育課題 : 比較教育学的アプローチ (行路社): 1987|書誌詳細|国立国会図書館サーチ (ndl.go.jp) 比較教育学 (1981年) (現代教育学シリーズ〈8〉) | 沖原 豊 |本 | 通販 | Amazon
 「教育行政の本は読まなくてよいのですか?」と聞くと、「それも読みなさい」とのこと。次の本を紹介された。教育行政学序説増補版 | 有斐閣 (yuhikaku.co.jp)
 「他にはありますか?」と聞くと、「関根さんの本」と先生が言われたた。それは誰?と思った瞬間に、後ろからゼミの4年生が話しかけてきた。「これ、関根先生の本。マルチカルチュラル・オーストラリア。今私が読んでるの。少し待ってね。成文堂 出版部|書籍詳細:マルチカルチュラル・オーストラリア (seibundoh.co.jp) でも、熱心ねえ。そんなに一遍に何冊も読めないでしょ。」と言っていた。ゼミの先生は、そのやり取りを聞いて「まあ、がんばりたまえ。」と言って、涼しい顔をしていた。

勉強を始める、豪日交流基金の行事にも参加する

 こうして、オーストラリアの教育の研究が始まった。英語の文献を読んで、各学校にSchool Council制度があることや、カリキュラムが学校ベースに開発されていることなどが分かった。どうやら学校の先生は日本より自由らしい。そして、豪日交流基金 豪日交流基金 (embassy.gov.au) が開催している行事にも連れて行ってもらった。公開講座のようなものだった。また、ある時は、今では一般の来訪者は入れないオーストラリア大使館地下のラウンジにも連れて行ってもらった。そこで、オーストラリア人と会話をすることができた。会話をすると、"I am from Brisbane."とか、言ってくる。英会話の練習にもなり、楽しかった。

オーストラリアにホームステイする

 こうしているうちに、だんだん知識だけ増えて、実際にオーストラリアに行きたくなってきた。そのことを相談すると、ゼミの先生が次のように言われた。「オーストラリアに行ってきなさい。君が行くところは首都のキャンベラです。そこにホストファミリーがいます。多分君のことを引き受けてくれると思うよ。」

おわりに

 このように私はオーストラリアに出会った。その国の教育について勉強するだけでなく、初めての海外旅行先がオーストラリアになりそうであった。海外旅行どころか、飛行機にも乗ったことがない自分がオーストラリアに行ってホームステイをするかもしれない。

©Dr Hiroshi Sato 2022



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?