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党大会壇上から強制排除される胡 前主席(動画あり)

衝撃の映像です。党大会の終幕近いこの時、取材のカメラマンがようやく会場に入ることを許可され、我先に殺到して機材を設営し、撮影に入ったばかりだったといいます。日本のマスコミは出遅れた模様で、冒頭の肝心の数十秒が切れた動画ばかりですので、下記のBBCのサイト(リンク先の記事中の上から3番めの画像)をご覧ください。

胡氏退席に関して、公式発表では「体調不良」とされていましたが、明らかに自身の議題資料を見ようとしてそれを取り上げられ、左右の分を見ようとしてそれも阻止されて、強制的に連行されてゆく様です。動画右下の設定で0.5倍速にして、よくよくご覧になってください。
日本のメディアはこの時に出遅れていて、BBCは肝心の箇所の撮影に間に合った模様ですが、音声は無音でもあり、あいにく西洋人には壇上の要人の表情や仕草から何が起きているのかがよく理解できなかったのでしょう。報道では踏み込んだ解釈は示されていません(下記の英文サイト参照)。しかしながら、我々日本人が見れば一目瞭然です。

押し問答が手許のファイルの閲覧をめぐるものであったことから、ことの真相が これ以降に公表される重要事項に関するものであったことは疑いありません。最大の議題は中国共産党規約(改正案)の審議・採択でしたが、同改正案は当日に発効することが併せて決まっていながら、即日には公表されず、公表されたのは4日後の26日のことでした(大会直前の第3四半期のGDP統計の公表の延期と同様、ここにも不都合な内容を極力隠蔽しようとする指導部の恣意が感じられます)。
しかも事前にさんざん取り沙汰されていた、習主席の地位と思想の優越性を謳った「二つの確立」は明文化されることなく、また政権が復活を目指していた「党主席」制度の復活も、習氏に対する「領袖」の肩書も盛り込まれませんでした。したがって事態は巷間言われていることとは異なり、習氏側の完勝ではありません(付帯決議などは極言すれば今回の党大会その場かぎりのもので、次の党大会まで拘束することはできません)。おそらくは政権内で、個人崇拝に逆戻りする決定に対する相当の異論が出て、政治局常務委員と政治局員を習派で固める人事案を呑むことと引き換えに、反対勢力によって党規約への盛り込みが葬り去られたものと考えられます。
この習派の意向が後退させられた新党規約は、胡前主席にとって不都合なことはなかったはずで、そうなると壇上での押し問答は党規約そのものに関してではなく、付帯決議であった「党規約改正案に関する決議」に関するものか、翌日に公表された次期最高指導部の人事案に関するものと思われます。話が入り組みますので、以下では2つに分けて述べます。
① 付帯決議では、上記の習氏の地位と思想に関する「二つの確立」について、「決定的な意義をしっかりと把握しなければならない」と強調しており、習派の意向に沿うものではありますが、いかんせん本規約に盛り込むという当初の目標よりも後退しており、この扱いで折れ合ったということが見て取れます。胡氏にとっては本規約ではないにしても、この付帯決議の内容自体が受け容れられないものであったというのが、私の第一の解釈です
② 一方で人事案に関しては、党大会の決定事項ではないものの、翌日の公表を控えて、壇上の最高指導部のメンバーのみに開示されていたことは充分に考えられることです。胡氏の不満に関する私の第二の解釈は、慣例でこの場で最高指導部に開示されていた新指導部の人事案に壇上で眼を通すことを阻まれたというものです。2つの解釈の内では、こちらの方が真相に迫っているように感じます
この人事案に関しては胡氏は今回の人事案について事前には何も知らされていなかったか、偽の決定事項(李克強の首相留任または胡春華の常務委員入りと首相昇格)を伝えられていて、会議の終幕まで騙されていたかのいずれかでしょう。 いずれにしても、胡氏は陰謀をようやく察知して資料で確認しようとしたところを狡猾そうな右隣の習主席の腹心(栗戦書、この時点で党内No.3)に阻まれ、会場のスタッフを呼ばれて連行されようとして、しばらくは押し問答になっています。すべては周到に用意された事前のシナリオのとおりで、習氏は努めて平静を装う一方で、相当に衰えている(まもなく80歳)胡氏も殿中での抗議は途中で断念したとみえ、最後は静かに退席してゆきます。胡氏子飼いの李克強首相(No.2)は席が離れていて気づかなかったのか、退任後の自身と国の行く末に放心してしまっているのか、あるいはシナリオを飲み込んでいて見て見ぬふりだとすれば、これは相当の演技達者でしょう。 奥の院どころか(報道管制が敷かれていてこの種の画像が見られない中国の大衆を除けば衆人環視の下で)、党への功労者である前主席に対してこのような欺瞞が罷り通っている事実は、中華人民共和国の末期的状況を示すもの以外の何ものでもありません。

習派は今回人事で実を取るために見送った党規約の全面改正を、5年後の党大会であらためて通過させて、自派による支配を完成させるつもりでしょうが、果たして中華人民共和国に5年後があるのか?、という問いこそが本書での私の見立てに外なりません

BBCのオリジナルの英文サイトは、下記です。

冒頭の朝日新聞の画像は、下記。

日経の前中国総局長による、本件に関する以下の長い論評は、当人は掘り下げたつもりなのでしょうが、公式発表による「体調不良」という先入観に囚われ過ぎていて、ズレていると私は思います。この筆者は当該記事に限らず平素から、内部の事情通から聴いたと称して、内容の乏しい観測記事ばかり書いている人です。胡氏がパーキンソン病を長患いしているのは周知の事実で、年齢相応に衰えているにせよ、この時にとくだん体調が悪かった訳ではありません。真偽のほどについては、映像から読者がご自身で判断なさってください。
事前に案を知らされていて、晴れの雛壇上であれだけの押し問答になるはずがありません。またそうであれば、そもそも周辺が揃いも揃って、くだんの赤いファイルを取り上げる必要もなかったはずです。

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