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渦の海へと、逃げ出した少年 ①

2023/10/09 追記 こちらの記事をもう少し物語として書いてみようかなと、考えているところです。

昔々のお話です。
それまでいた静岡県の家を飛び出した少年は、おそらくは10代前半。家といっても実の家族の居る家ではありません。幼少期より預けられていた遠い親戚の家です。少年には父という存在は居ましたが、仕事が理由だったのでしょう。少年には母という存在は最初から居ませんでした。

一目散に向った一番近くの駅で出会ったおじさんにいい仕事があると言われて騙され、電車を乗り継いでとある南の方にあった石炭を掘る仕事場へと連れて行かれました。海の底に向かってレールが引かれているその先の海底深くで朝から晩まで石炭を掘るのです。ここに入った者は二度と出て行くことは無いとされているような場所でした。

何人もの大勢の人が次から次へと亡くなっていきました。しょっちゅう起きる落盤事故や汚染された空気の中に居続けることによって、異常な精神状態や病に常に脅かされ、誰もが身体が動く間はただただ海の底を掘り続ける毎日。出入り口は徹底的に管理されており、そこから出て行ける者など一人もいなかったのです。大勢の男たちは暗い瞳をしていました。もう二度と見上げることの出来ないだろう青い空も無いままの海の底で、ススや泥だらけの全身で掘っては運ぶだけの、それはまるでおそらくは牢獄でした。


これは私が縁したことのある、遠い昔に、とある少年だった人の実際のお話です。聴いたという点から申し上げると、多少事実とは違っているところもあるのかもしれません。また、現代の社会の中に残っている話ではないと思われますので、検証もきっと簡単ではありません。何かによってかき消されたかのような、あるいはまるで妄想であるかのような体験なのですが、それはもう私は問題にしないこととしました。確かに彼の記憶の中にあった体験としての、語られ続けていたお話のひとつとして、私の中に残っているそれらをここに物語として書き記そうと思いました。
私が30歳前半になるまでの間に、このお話をそれはそれは何度となく聴き続けてきました。記憶では、私が小学校に入る前の頃からです。

そして、この話を聞いたということは、その少年は海の底で終わること無く、その後の人生が続いた、ということになります。
しかし、それは自然と訪れたものでは無く、見上げる空も無いままの永遠とも思えるような朝から晩までの労働の日々の中で、厳しい監視の中で危険を顧みず命をかけて様々を少年に教え「今を諦めずにもっと生きる」ことを準備させてくれた、とあるおじさんとの運命的とも言える、たったひとつの出会いのおかげでした。

気が付いたのは、今日がお盆の最終日だったということです。
何らかのひとつの節目ということで、いくつかに分けてアップすることにして、ひとつ目を早々に公開したいと思います。
続きは、やがて書きます。
【渦の海へと、逃げ出した少年】②へ続く 

水野早苗 sana
cafe prizm

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