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絵画の新たな可能性を模索し続けたデイヴィッド・ホックニー展を全紹介!!

こんにちは。

東京都現代美術館で今月11月5日まで開催されていた「デイヴィッド・ホックニー展」を先日、見に行きました。
いつも来館が会期ぎりぎりになってしまい、このように、会期後のご紹介になってしまいました。
それでも、このデイヴィッド・ホックニー展の紹介を通してデイヴィッド・ホックニーという画家の生涯と作品全般については伝えられると思います。

ちなみに、私が来館前にデイヴィッド・ホックニーに関して持っていた情報は、「世界で最も作品が高値で売買される現存画家である」というものでした。

例えば、「芸術家の肖像画ープールと2人の人物」は2018年のクリスティーズでのオークションで、なんと当時の現存画家の最高額である約102億円で落札されました。すごいですね!

そんなカネオ君のイメージしかない私がデイヴィッド・ホックニーの作品に触れて、まず感じたのは、色彩が半端なく綺麗だということでした。
そんなデイヴィッド・ホックニー展、それでは紹介していきたいと思います。展覧会のコーナーごとに紹介していきます。

<春が来ることを忘れないで>
展示室の入り口からすぐに見ることできたのは、2020年3月にオンライン上で公開されたデヴィッド・ホックニーの新作でした。コロナ禍で彼が制作したのが、ヨーロッパでは春の到来を告げる花である黄色いラッパスイセンでした。まさにパンデミックの中でも希望を忘れないで、というメッセージの作品です。

2020 春が来ることを忘れないで

展覧会カタログより



<自由を求めて>
続くコーナーでは、初期のデイヴィッドの作品がありました。デイヴィッドは1937年にイギリスのブラッドフォードで生まれ、その後、1959年に王立美術学校で勉強します。
その時期は、イギリスのポップアートに影響を受けたとのことです。さらには、1960年にピカソの個展に行き、強い衝撃をうけたそうです。そうした影響が感じられる初期の作品を発表し、在学中に脚光を早くも浴びたとのことです。
1960 3番目のラブ・ペインティング
1961 イリュージョニズム風のティーペインティング
1962 一度目の結婚

そして、1964年にロンドンからカリフォルニアに移住しました。ロンドンとカリフォルニアでは気候が大きく違いますよね。そんな影響もあってか、デイヴィッドの作品の色使いが鮮やかになっていきます。
1964 ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男
1967 スプリンクラー

展覧会カタログより


1973 ウェザー・シリーズ
1978-80 リトグラフの水シリーズ
1979 午後のスイミング

このうち、デイヴィッドが水を扱ったスプリンクラーやプールを描いた絵画は今でも人気が高いものですね。

<肖像画>
1968年にデイヴィッドは拠点をロンドンに移したそうです。その頃から取り組み始めたテーマが「ダブルポートレート」です。この作品群は、文字通り、2人の人物で画面を構成するものです。

1970-71 クラーク夫妻とパーシー

展覧会カタログより


1972-75 ジョージ・ローソンとウェイン・スリープ
1977 両親
1976 クリストファー・イシャーウッドとドン・バカーディ

この中で、私が今回一番好きだったものの一つが「クラーク夫妻とパーシー」です。カリフォルニアっぽい主人公たちの表情、そして色使いが見るものを引きつけます。

そして、ダブルポートレートの新作は、なんと自分を2人、絵に描き込み、さらに20もの額物に飾られた花の絵を見ている巨大な作品を描き上げています。この作品は壁いっぱいに展示されており、圧倒されましたね。

2022 (額に入った)花を見る

展覧会の入り口タイトルより


デイヴィッドは、それ以外にも、通常の肖像画をたくさん描いています。それらは対象となる本人の内面までとらえようとする作品群となっています。
1974 グレゴリー・エヴァンスを描いた3作品
1973-74 母とおうむなど5作品
1974 イヴ・マリー
1976 ニコラス・ワイルダー
1976 ジョー・マクドナルド
1976 ビリー・ワイルダー
1976 ブルック・ホッパー
1976 モー・マクダーモッド
1976 ヘンリー2作品
1979 緑色の窓のそばのジョー
1980 ディレクターチェアにすわるシーリア

肖像画は最近でも描いているようです。
2018 ジョナサン・ブラウン
2018 ジャン=ピエール・ゴンサルヴェス
2018 ブルーノ・マーズ

展覧会カタログより


2018 ドン・バカーディ
2021 自画像
2021 ジョナサン・ウィルキンソン

来年、東京ドームで公演するブルーノ・マーズの肖像画が興味深かったです。

<視野の広がり>
さて、このコーナーからは、デイヴィッドの絵(アート)の探求をみていきます。デイヴィッドは現実をありのままに描く限界として「自然主義の罠」を唱え始めます。つまり、「目に見える現実をありのまま再現しようとすると追及すればするほど、どういうわけか、かえって画面から迫真性が損なわれていく」ということです。
特にデイヴィッドは絵画における遠近法は見る人の身体をしばってしまう、と考え、遠近法にとらわれない作品を制作します。

その一つの作品がフォトコラージュです。何枚かの写真を組み合わせて一枚の写真ではとらえきれない時間の厚みを持たせました。
1983 龍安寺の石庭を歩く

展覧会カタログより


1983 ボブ・ホルマンに話しかけるクリストファー・イシャーウッド
1986 木

また、絵画においても遠近法にとらわれない描き方をしてみたようです。
1984 ペンブローク・スタジオの内部などペンブロークスタジオの作品群
1984-86 2つの椅子を行き過ぎて など、椅子を描いた作品群
1984-86 シーリアのイメージ など、シーリアを題材にした作品群
1984-85 メキシコのホテル・アカトランの作品群

展覧会カタログより


特にメキシコで滞在したホテル・アカトランの中庭を描いた作品では、遠近法を超えて、鑑賞者はあたかも作品の内部に足を踏み入れたような感覚になる経験ができます。

そして、その中でも横幅7メートルにもなるフォトドローイング作品「スタジオにて」は圧巻です。ドローイングした絵画を少しずつ角度を変えながら撮影し、コンピュータで写真を解析、統合して3DCGを生成するフォトグラメトリという技術が使われています。

デイヴィッドは、iPodもそうですが、このような新しい技術をうまく使って、アートに対してチャレンジしていくところがすごいと思います。
2017 スタジオにて

<戸外制作>
2004年にデイヴィッドは母親と姉が住んでいたヨークシャー、ブリンドリンの旧居に拠点を移し、戸外制作を始めます。家の近くの手付かずの自然が残る、なだらかな丘陵地の風景を描いてみました。まずはカンヴァスを戸外に持ち出し、自然光のしたでモティーフとなる木々を作品にしました。

2007 ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作

展覧会カタログより


こちらは戸外制作とデジタル技術を組み合わせた作品ということで、とてもサイズの巨大な木の絵で圧倒される作品となっています。また、同時期に制作した春夏秋冬の季節ごとの木々のトンネルが続く道を9台のカメラで動画として撮影した作品も見ることができます。
2010 四季、ウォルドゲートの木々

<春の到来、イーストヨークシャー>
2006年、デイヴィッドはイーストヨークシャーの春の風景画に取り組みます。そして、2011年に大型の油彩画1点とiPod作品51点のシリーズを制作しました。

2011 春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート

展覧会カタログより


特に大型油彩画の方は、32枚のカンヴァスを組み合わせた壮大なスケールで鮮やかな色彩を感じられる素敵な作品です。

<ノルマンディーの12ヶ月>
デイヴィッドは、2019年3月にノルマンディに居を構えます。そして、自然豊かなこの土地で移り変わる自然と「春の到来」という主題をさらに掘り下げようと制作したのが2つの作品です。
両方共にとても横に長く、巻物のようなストーリーを持っているかのような作品です。
2019 家の辺り(夏)
2019 家の辺り(冬)

翌年、パンデミックでの世界的なロックダウンが続く中、身辺の自然を描いた大作を発表します。

2020-21 ノルマンディの12ヶ月


この作品は、なんと全長90メートルの大作で、鑑賞者は絵画空間を自由に歩き回ることもできます。展示会でもこの作品が最後に出てくるのですが、全長90メートルを歩きながら横目で見ていく鑑賞の仕方がとてもユニークでした。
確かに普通の絵ではなく、絵の中に入っていく不思議な感覚になりました。

このようにデイヴィッド・ホックニーは単に一枚の絵を描く作家ではなく、色々な手法や方法で絵(アート)の新たな可能性を生涯に渡り模索し続けている、アグレッシブな作家であることがわかりました。

それでは。

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