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リサイクル 超短編

「最近また自殺者が増えてるらしいな」
「ああ、そうらしいな。こんな時代だから仕方無いのかもな。それよりなんだ急に呼び出したりして」

「ええっと、そうだな、何から話そうか、ところで、お前最近随分羽振りが良いらしいじゃないか、その腕時計だって結構高そうだな?」高橋が大野のグラスにビールを注ぎながら言う。

「まあボチボチだな。地道に働いてるだけだ。なんだ高橋、要は金の無心か?」
「違う違う。そうじゃ無い。お前に聞いて欲しい話があるんだ。逆にお前ぐらいにしかこんな相談は出来ないんだ。」高橋はよく分からない銘柄のタバコに火をつけながら言う。

「まぁ金の相談以外なら聞いてやるよ」
「さっきもちょっと言ったけど、最近自殺者が増えてるだろ?そいつらをどうにか利用出来ないもんかなと思ってな」

「 自殺者を利用か、どんな風にだ?」大野はグラスに少し口をつけ直ぐにグラスを置いた。

「まず自殺する奴に保険金をかけて死んでもらう。受取人は勿論遺族だ。そうしないと保険金詐欺になってしまうからな。」
「それでお前になんの得がある?」

「自殺すると天国に行けないって言うだろ?それに保険金も降りない。だから代わりに殺してあげるんだ」
「お前が殺すのか?つまり自殺幇助、嘱託殺人みたいな商売か?」

「まさか。俺はそんな事出来無い。そんな事をしなくても自殺したい奴を殺してもらえる方法がある。」
「誰がそんな事をする?」

「要するに話はこうだ。自殺志願者を募る一方で、殺人依頼も募る。自殺志願者に対象を襲わせ返り討ちにあってもらう。世の中には死にたい奴も多いし、死んで欲しい奴がいる人間も多い」
「なるほどな、殺人依頼者からの報酬をもらう寸法か、確かにどうせ死ぬなら無敵モードで誰かを道連れにした方がリサイクルになるな。」

「そういう事だ。痴情のもつれでも良いし、国家的なテロにまで使える。殺し屋や傭兵を雇うより安い値段で提供する事が出来る。一件で死ななければまた次の仕事を回せば良い。どうせ奴らは死にたいんだ。死ぬまで戦えるゾンビ戦士だ。」

「だが、死にたい奴らってのは大体無気力なものだろ?どうやって無敵の戦士にまでモチベーションを上げる気なんだ?」
「そこなんだよ、問題は。自殺しなくても良いとか、遺族に保険金が入るだけじゃ人間そこまでは出来ないよな。」高橋はグラスに残っていたビールを飲み干しバーボンを二人分注文する。

「なるほど。そこで俺の出番って事か。確かにマインドコントロールは俺の専門分野の一つだ。だが、自殺者を利用するなら、そんな回りくどい事をするより普通に立ち直らせて働かす方が余程効率的で経済的だ。人を殺すようにまでコントロールするのはかなり厄介で難しい。まぁ方法が無い訳では無いが」

「流石大野だ。やっぱりお前に相談して正解だったよ」
「待て待て、まだ協力するとは言ってないぞ、なんせリスクが高すぎる。それに」
「それに?何なんだ?」

「高橋、お前が今言ったような事はとっくの昔から行われている。
 為政者達の常套手段だ。死にたがっている奴や社会に役立たないと判断された奴らが為政者達に再利用されるのは常識だ。
 為政者達の資金源はいつだって弱者だ。かなりエグいやり方だけどな。そこは俺たち一般庶民が手を出せる範囲を超えている。」

「まさか、本当に?」
「ああ、高校レベルの教科書にすらその事実が記載されているし、少し賢い奴なら簡単に読み解く事が出来る。」

「そうか、俺はまだまだ勉強不足だな。やはり地道に働くしか無いか」高橋はバーボンを一気に飲み干しつぶやいた。

「まぁそれが一番だ。人生なんてリスクは出来るだけ犯さない方が良い。分相応ってものがある。」そう言い大野も一気にバーボンを飲み干した。

「大野、これは、もしもの話なんだが、例えばお前ならどんなやり方を考える?」

「俺か、うーん。俺ならそうだな。」大野は少し天井の方を見上げゆっくり息を吐き出した。

「俺ならワクチンを作る。」
「えらくまともな意見だな。それはそもそもお前の仕事じゃ無いか」

「ワクチンを作ってからウイルスをばら撒く、ウイルスは宣伝無しで勝手に広まってくれる。つまり消費者は勝手に増える」
「え、」

「この方法なら富と名声を同時に手に入れれるぞ。」

「 ハハハ。なんてな、勿論そんなエゲツない事は現実的じゃない。ああ、もうこんな時間か、そろそろ帰ろうか。」大野は自身の腕時計を見ながらそう言い立ち上がった。
 その腕時計だけが物言いたげに静かに光を放っていた。

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