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呪いのやり方 超短編

 俺はこの女の事を絶対に許さない。

 七代祟ってやると言い残し、俺の人生は幕を閉じた。

 そして第二幕。華麗なる復讐の幕が開ける。

 そうなるはずだった。

 幽霊として姿を変えた俺はこの憎き女の住む部屋に舞い戻ってきた。

 この女は俺の元恋人で涼子という名だ。恋人と言っても実際の所は騙されていただけなのだが、涼子は俺の全ての財産を奪った上、自殺に見せかけ俺を毒殺した。

 死の直前涼子は笑顔で得意気に犯行の手口を俺に告白してきた。なんて嫌な女だ。

 俺はその瞬間まで騙されていた事にすら気付いていなかった。このままでは死んでも死にきれない。

 そして俺が死に際に放った台詞が「七代祟ってやる」だ。我ながら情けない。

 だが、予定通り幽霊になれた。第二幕は全て俺のターンだ。

 と、意気込んだものの、呪いのやり方がさっぱり分からない。

 とりあえず涼子に向かって適当に手の平をかざしてみたが当然効果は見られない。

 死んだのも、急な事だったので呪いに関して何の予備知識も無い。

 映画やドラマなどで見た程度の薄い情報しか無いし、作品内ではもちろん呪いのやり方は説明されず効果だけが描かれていたと記憶している。

 だから俺は何となく幽霊になれば自然と呪いの力が付くものだと思っていた。

 冷静に考えればそんな事がある筈も無い。

 外国に住むだけで英語が話せるようになると思っている学生と同じでは無いか。

 やはり何事にも努力は必要なのだ。

 俺は呪いを学ぼうと一度外に出た。餅は餅屋。呪いの事なら幽霊に聞くのが一番だと思ったからだ。

 俺以外の幽霊に出会えるか少し不安だったが、街を彷徨うと思ったより早く出会う事が出来た。何人かと出会う事は出来たが、幽霊だけに皆少し澱んだ顔をしており、まともに話に応じて貰えなかった。

 考えてみれば当たり前だ。一度も出会った事が無いのに、死んだら直ぐ仲間になれると思うなんて虫が良すぎる。

 まして新参者に貴重な情報をおいそれと教えてくれる筈も無い。バイト初日に秘伝のタレの作り方を教えてもらえる訳が無いのだ、それどころか新歓コンパで開始早々先輩を口説いているようなものだ。

 やはり何事にも礼儀は必要なのだ。

 とは言え、とりあえずパソコンや書物からでも何か情報を得なければ。俺のパソコンは当然もう無いので誰かの物を使用させてもらうしかない。

 ちょうど良い場所が無いかと辺りを探していると重要な事に気付いた。他人のパソコンを使用するにはパスワードが必要とされるのだ。スマホも無理だ。スマホは体温も必要とされるからもっと無理だ。

 こうなれば、書物から呪いの知識を得るしかない。書物なら図書館だ。俺は街で一番大きい図書館に行った。夜間なので当然カギは閉まっている。

 そこは流石に幽霊よろしくで壁をすり抜け中に入った。この時に気付くべきだった。

 本のページがめくれない事を。

 めくれないどころか手に取る事すら出来ないし、何なら暗いのでろくに探す事も出来ない。電気のスイッチももちろん押す事は出来ない。

 でも、映画やドラマで電気が付いたり消えたり物が浮いたりするのは見た事がある。

 そうか、これも似た理由か。幽体で物に触れるのも特別な条件が必要とされるのだ。

 元々出来ていた事が当たり前の様にいつまでも出来ると思っている。元カノがいつまでも自分の事を好いてくれていると思い込んでいるようなものだ。

 やはり何事にも進歩が必要なのだ。

 そして俺は現時点で涼子に復讐する術が無い事を悟った。

 呪いも無理。物理的な攻撃も無理。ただ街を彷徨う事ぐらいしか出来ない。

 冷静に考えてみれば、そもそも呪いの存在自体が曖昧だ。そんなj実態も曖昧な情報にすがるなんてどうかしていた。

 死んでから呪いで復讐しようなんて馬鹿げた話だ。

 全ては生きている間に解決しなければ。

 なるほど。出会った幽霊たちが皆、澱んだ顔をしていた原因が分かった気がした。

 馬鹿は死ななきゃ治らない。

 俺に出来るのは他でも無い自身の不甲斐無さを呪う事だけだった。

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