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高尾歳時記 2024年4月11日

西山峠のニリンソウの大群落が咲きそろってきました。

西山峠のニリンソウの大群落

昨年はニリンソウに限らず花の開花のすすみが例年より早く、去年の今頃には見頃を迎えていましたが、現在の開花状況は七割ほど。ここまで来ると、気温と天候次第にはなりますが、見頃は間近です。

一輪目が七分程度開花しています。

ニリンソウはその名のとおり、一株に二輪の花をつけます。多くの株は、まず最初の花をつけたあと、遅れてもうひとつの花を咲かせます。二輪が同時に開花しているタイミングに運良くあたると、夢のような絶景になります。

開花しても、雨がふったり気温が下がるといちど開いた花を閉じてしまうので、その日の天候も鑑賞においては大事なポイントです。

ドンピシャのタイミングを予想するのは困難ですが、向こう一週間ほどがめやすとなるでしょう。二輪同時開花の時期でなくても、その美しさは十分に堪能できます。今から二週間ほどは見頃が続くでしょう。

ニリンソウはこのようなクラスターをしばしば作ります。

ニリンソウは、高尾ではこの時期一般的にあちこちで観察できる花です。日が直接当たらない薄暗いところで、さらに川や沢の近くなど湿った環境を好みます。ですので、日当たりのいい稜線上や尾根道でみかけることはまずなく、里山やふもとでみかけることがほとんどです。適地では、しばしば大きなクラスターを形成します。

白い花びらのようにみえる部分は萼片。

白く花びらのようにみえるのは、花びらではなく、花を包んでいた萼がひろがったものです。ニリンソウは、この萼片の枚数にバリエーションが多く、通常は五枚ですが、六枚、七枚、八枚と色々な個体があり、私が観察したものでは九枚が最高記録です。

このニリンソウの萼片は七枚。
こちらのニリンソウの萼片は八枚。最大で九枚つけたものを観察したことがあります。

萼片が8枚9枚になると、ぱっと見ではもはやニリンソウにはみえず、南北アルプスでその可憐な花を咲かせるハクサンイチゲの花のようにも見えてきます。また、この萼片はごく稀に白くならず、もともとの色である緑色のまま開花することがあり、「ミドリニリンソウ」と呼ばれます。特に、みどりと白のグラデーションになる個体はとても美しく、森では大人気です。四葉のクローバーのように、それを見つけたひとは幸せになれるといわれる、幸運の花です。

また、高尾ではひきつづきスミレの花の開花がラッシュです。本日見つけたのは:

スミレ(ホンスミレ)
タチツボスミレ
タカオスミレ(ヒカゲスミレ)
ヒゴスミレ
オカスミレ
ニオイタチツボスミレ
ナガバノスミレサイシン
エイザンスミレ

とあともうひとつ、園芸種であるアメリカスミレサイシン。

こちらはスミレ。「スミレ」という名のスミレです。「スミレ科スミレ属」のように、植物の分類上の呼称と区別するために、「ホンスミレ」と呼び分けることもあります。
このスミレが、日本人に古来より愛でられ、万葉集の時代から歌などにも詠まれたスミレです。
ホンスミレを山中で見かけることはまずありません。人の暮らしに近い里でみかけることがほとんどで、中にはこのように、厳しい環境をもろともせずアスファルトの隙間から元気に育つ姿をみかけることもあります。
特徴はなんといっても、気品のある上品な紫色であるそのすみれ色の花。そして、細長い葉です。よく似たノジスミレは惻弁毛がなく、また葉の裏側を含めて全身に微細な毛が生えていますが、ホンスミレは惻弁毛がはっきりと観察される一方、花軸や葉をふくめたほかの部位はほぼ無毛で、葉の裏もつやつやしています。
タカオスミレは、1928年植物学者中井猛之進博士が高尾山で発見し、ヒカゲスミレの変種として発表。そののち、変種ではなくヒカゲスミレの一品種、すなわち同種の色違いであると再分類されたものです。 ヒカゲスミレは、その葉に鮮やかな緑色から茶褐色ないしは黒紫色までかかる色違いがあり、また、葉の両面とも濃い色のものや、表側だけ濃いものなど様々な個体が存在します。このうち、葉の両面ともに色の濃いものをタカオスミレと呼びます。高尾山で発見されたり、高尾山の名を冠した植物は様々ありますが、そのうちのひとつです。
こちらはタカオスミレ(ヒカゲスミレ)の葉。ヒカゲスミレは、開放花(要はお花)による種子の生産による繁殖だけではなく、閉鎖花(つぼみのようにみえる)による自家受粉や地下茎から地下匍枝を伸ばして新芽をつけるなどして繁殖することから、必ずしも花を咲かせません。
ヒゴスミレ。いちばんの特徴は、針のような深い切れ込みが入ったその葉。
ヒゴスミレは、全国的には希少種というようなことはありませんが、高尾で見かけるのは極めて稀です。
タチツボスミレ。高尾では里山から山中まで、最も一般的に観察できるスミレです。
オカスミレ。すみれ色の花は、花弁の基部がぎゅっと詰まって奥が見えずらい形をしています。
オカスミレはよく似ているアカネスミレの変種に分類されています。両者は極めて似ているのですが、アカネスミレは全身に微毛がついている一方、オカスミレは惻弁毛以外はほぼ無毛でつるつるしているという違いがあります。
ニオイタチツボスミレ。オカスミレと似ているのですが、惻弁毛がほぼないことで識別できます。
ニオイタチツボスミレは、花弁の基部がぎゅっと引き締まっている個体が多いので、慣れていないと、オカスミレと混同する方が多いようです。ニオイタチツボスミレはこのようにビビッドな紫色の花と花の中央の白のコントラストが強いことが特徴ですが、オカスミレと区別するいちばんのポイントは惻弁毛がないことです。
ナガバノスミレサイシン。高尾ではよくみかけるスミレのひとつです。前掲したホンスミレは葉が細長く、それがスミレの代名詞のようになっている一方、ほかのスミレの種には、フタバアオイのようなハート型の葉をつけるものが数多くあります。これらのスミレには、葉の形が似ているウスバサイシンから「スミレサイシン」と名付けられたものがあり、ナガバノスミレサイシンはそのうちのひとつ。日本海側に多く生育するスミレサイシンと比して、太平洋側では葉が長くなる種が多く、それがナガバノスミレサイシンです。最新型のスミレとかではありません。
ナガバノスミレサイシンには花の形や色に様々なバリエーションがあります。最初は同定が難しいのですが、なれるとすぐに識別できるようになります。
エイザンスミレ。深い切れ込みの入った葉と、スミレのなかでも最大級の花をつける立派なスミレ。高尾では比較的個体数の多いスミレです。
淡い桃色の花は可憐で美しい。
高尾に咲くスミレのなかでも、いちばん好きなスミレです。
これはアメリカスミレサイシンの、プリケアナという品種。もともとは園芸品として日本に持ち込まれたものが、高尾山のふもとでは逸出して野生化しています。野草でも在来種でもなんでもないので、駆除対象になってもおかしくないのですが、実はそれほど強いわけではなく日本の在来種を脅かすほどにはなっていません。
高尾山ケーブルカーの麓駅(清滝駅)周辺でいっぱい咲いています。

今日もお花の多いところを巡ってきました。

今日は峰の薬師の参道から取りつきます。
キランソウ。はるになるとロゼッタ状に葉を広げて紫色の花をつけます。その様子から、「地獄の釜の蓋」の異名を持ちます。
ヤマルリソウは真っ盛り。あちこちで見かけます。
ヤマブキの花の開花が進んでいます。
カキドオシ。シソ科の植物で、春になるとあちこちでその花を見かけます。
ムラサキケマン。里山から山中まで、あちこちで見かけます。
これはジロボウエンゴサク。エンゴサク系の花も、春の高尾の使者です。
あっ!これはトウゴクサバノオです。見つけるのは非常に難しい。ラッキーです。
ヤマネコノメ。沢沿いの湿った環境で多く見かけます。
ミミガタテンナンショウ。立派なリーゼント。マムシグサ系の植物のなかでも、立派な耳たぶがついているのがその名の由来です。
クサボケ。日本の固有種です。
あっ!ホタルカズラが咲いています。昔はあちこちでみられたと聞いたことがあるのですが、現在はほとんど見つかりません。
これは…コバノタツナミですね。本来は梅雨前ぐらいにみられる花です。お早いお目覚め。
ジュウニヒトエも開花しています。
ジュウニヒトエは、日当たりの良い斜面に固まって咲いている姿を見かけます。
南高尾山稜の数少ない眺望スポット、見晴から富士山方面。空は霞が強く遠くは見ずらいのですが、富士山はかろうじて見えていますね。
(小仏)城山に到着。都心方面の遠景。空の霞で眺めは限定的。
ミツバツチグリ。日当たりのいい稜線上でよく見かけます。かわいいお花です。
一丁平の桜の開花は進んでいますが、まだ三分咲き程度。満開はもうちょっと先ですが、うっすらと桃色に染まってきています。
城山から高尾山の間の稜線上の桜、通称「千本桜」は見頃を迎えています。立派です。
千本桜の主体はヤマザクラ。開花と同時に飴色の葉を出します。こちらが、日本人が万葉集の時代から歌に詠んできた桜です。
満開を過ぎ散り始めです。
ヒトリシズカの開花が始まっていますね。
シュンラン。高尾では良く見かけるランです。
高尾山山頂に到着。富士山方面の眺望。空は霞が強く、富士山はうっすら。
同じく高尾山山頂から、丹沢主脈方面。丹沢主脈の稜線はかろうじて見えました。
高尾山では4月13日からわかば祭りが開催されます。前沢川沿いのモミジ(カエデ)が若葉で色付いてきました。少し赤っぽくみえるのは、モミジの花が開花していることによるものです。


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