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神宮外苑の跡地に眠った遺産

8月8日、東京オリンピックが閉幕した。

私は、開催前にこんな記事を書いた。

この記事に対する答えを、あえて言うのならば、
「マスコミの力は思っていたよりも、強い」と言うべきだろうか。多くの人が周知する通り、開催以前はコロナ過での開催を非難し続けた各社マスコミであるが、始まってからの手のひらを返した。連日ネットニュースで日本人のメダルの獲得を祝う記事が見られた。

アスリートや関係者が批判されないような大会になることを私は願ったが、そういう意味ではアスリートへは祝福の声が集まったのではないだろうか。開会式、閉会式の報道を見ると、関係者は批判されてしまうことになってしまったのだが...

一時は、東京オリンピックはわずかに成功に傾いたかと思うこともあったが、選手の活躍は別にして、やはり東京オリンピックは目的を果たすことができなかったと思う。

その理由の鍵を握るのが「 遺産 」だ。

ここでいう遺産とは、オリンピック・レガシーのことだ。オリンピック・レガシーとは「オリンピックを一過性のイベントとして終わらせるのではなく、大会の招致・開催をきっかけに開催都市・国の未来への遺産を計画的に遺すこと」である。

分かりやすい例で挙げられるのが、国立競技場だ。新しく建てられて国立競技場であるが、その前身である旧のそれは1964年に東京オリンピックを開催するために代々木体育館や日本武道館と共に建設された。これらの施設は各競技者によって聖地化され、ここでの試合に出場できることは光栄までとされ、大変親しまれる施設と化した。これが正のレガシーである。

一方で、2020東京オリンピック閉会とともに話題になっている問題がある。新国立競技場の維持の問題だ。年間で24億円かかるこの競技場は長年国民に親しまれ、64年オリンピックのシンボルとされた旧国立競技場と対照的に、お荷物状態だ。
以前から、大会終了後に収容人数6万8千人が再び埋まることがあるのだろうかと危惧してきたが、とうとう一度も埋まることなく、役目を終えた。オリンピックの開催とともに生まれたお荷物、それが負のレガシーである。

レガシーには、このような有形のものではなく無形的なものもある。それが今回の主要テーマである「 Sport For Tomorrow 」である。

Sport For Tomorrowの発端は、2020東京オリンピックの開催が決定した2013年の国際オリンピック委員会で、当時の安倍首相の発言である。少し長いが、全文書き出してみる。

「敬愛するIOC委員の皆様に申し上げます。2020年に東京を選ぶとは、オリンピック運動の、ひとつの新しい、力強い推進力を選ぶことを意味します。なぜならば、我々が実現しようとしている「スポーツ・フォー・トゥモロー」という新しいプランのもと、日本の若者は、もっとたくさん、世界へ出て行くからです。学校をつくる手助けをするでしょう。スポーツの道具を、提供するでしょう。やがて、オリンピックの聖火が2020年に東京へやってくることまでには、彼らはスポーツの悦びを、100を超す国々で、1000万人になんなんとする人々へ、直接届けているはずなのです。きょう、東京を選ぶということ。それはオリンピック運動の信奉者を、情熱と、誇りに満ち、強固な信報者を、選ぶことにほかなりません。スポーツの力によって、世界をより良い場所にせんとするためIOCとともに働くことを、強くこいねがう、そういう国を選ぶことを意味するのです。」

簡単に言えば、スポーツを通して国際協力をする。それの体制をオリンピックを機に整え、若者を中心にオリンピックが終わった後も、その活動を積極的に行っていくということである。実に素晴らしい活動で、これこそが無形で正のレガシーなのである。そうであるはずだった。

しかし、2021年オリンピックが終了したこれからが Sport For Tomorrow が真価を発揮するときなのかといえば、そうではない。Sport For Tomorrowが最も成果を出したのは、2013年9月である。この日は国際オリンピック委員会が開催された日だ。そう、安倍首相がSport For Tomorrowを発表した日である。

なぜか。オリンピックの招致に成功したからだ。 Sport For Tomorow はそもそもが招致ありきの政策だったと私は思う。

目標値である100ヵ国、1000万人は、2021年3月現在「204ヵ国、1246万人」という数値が発表され、優に超えていることが分かる。この数値のために行った活動は7408件だ。

しかし、この数の全てを事業の主体者が行ったわけではない。活動を行う団体数は総数458団体であるが、そのうち運営委員会の団体は13団体である。458の団体は事業に賛同してコンソーシアム会員として承諾された数であるが、それぞれの団体は新たに活動を始めたわけではない。もともとスポーツを通した国際貢献活動を行っていたところがほとんどだ。

つまりは、既存の活動を寄せ集めたに過ぎないのである。参加団体としては、政府のお墨付きをもらえるのだからメリットしかなく、非常にいい点をついた政策で、策略だといえよう。

Sport For Tomorrowはオリンピックの延期とともに1年延長されたが、まもなく事業の終わりを迎える。しかし、寄せ集めの活動であることから、これからもそれぞれの団体で活動は続いていくだろう。これをオリンピックのレガシーだと言えるのだろうか。

ほとんどが無観客で行われた東京オリンピック2020。テレビでの観戦は他国でやっていてもほとんど変わらない。このまま正のレガシーが発掘されなければ、東京て開催した意味は皆無だといえる。

スポーツ界にとって、危惧されたことが現実となる。

「オリンピックを自国でやる必要はないよね」
この国民の負の感情が、これから先何十年も遺り続けるのだろうか。

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