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マルチエンディング・チョコレート

終わらぬ仕事を前に、妄想がとまらない。

たとえば、いま手に持っている一口サイズのチョコレート。
奴が私のもとにこなかったら、どんな人生(チョコだけど)を歩んだのか。

私がチョコ氏を買い求めたのは、最寄り駅から徒歩3分のスーパーマーケットだ。
鉄道名を冠したその店は、庶民の味方とは言い難い。
たしか20%引きセールの日に、籠に放り込んだのだ。

チョコ氏は本来なら、高台の上にお住まいのマダムの手に取られていたのではなかろうか。
きっと家事代行サービスをご活用のマダムは、白魚のような手をしている。
そのやわらかな手におさまったチョコ氏は、高台の上の白亜の城(家だけど)に連れて帰られる。

そしてバカラのグラスに丁寧に盛られ、ベルベットのスカートを履いた6歳の女の子のおやつとして供されるのだ。

――こんな未来もあったろうに、あわれチョコ氏。
残業中の私の口の中で、ゆるゆると溶けていった。

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