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【おすすめマンガ】「変わり者」の人間讃歌

『天才柳沢教授の生活』のすゝめ

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(長期連載なのでベスト盤からおすすめ、と思ったら絶版という悲劇。)

主人公・柳沢良則氏はY大経済学部教授。
朝6時に起床、夜9時に就寝と規則正しい生活を送る几帳面な人物であり、法と理屈と秋刀魚をこよなく愛する人物だ。
しかし決して四角四面のツマラナイ人物ではない。
一見頑固に見えるかもしれないが、ただ理を重んじるだけなのだ。
そして理を重んじるからこそ、誰が相手であっても敬意を持って接する。
そんな柳沢教授と、彼が出会った人物をめぐる話から、今回はこの2話をご紹介しよう。

「よく生きる」ために必要なこと

第181話「校庭を見ていた少年」。
時は柳沢教授の少年時代に遡る。
昼休みに窓の外をぼうっと眺めている同級生・矢田少年。
彼はあろうことか、柳沢少年のことを「そんな頭いいとは思えない」と評する。
その真意を問うと、矢田少年は「柳沢君は曖昧なものがわからない」と的確に指摘した。
矢田少年はクラスメイトをつぶさに観察し、その人格に合った生き様を完璧に予想することを楽しみとしていたのだ。
柳沢教授の人生についても、「一生、本当の意味での勉強をし続ける」と予言する。
しかし、観測者は、自分自身を観測できない
人並み外れた観察眼を有する矢田少年が歩んだ人生とは……?

この一話に、さまざまな子どもと、その後の人生が描かれている。
それぞれの個性は「欠点ではなく特徴」であり、それを殺さないこと。
それを認めることが「よく生きる」ための第一歩なのではないか、と思える話であった。

天才児の呪いと祝福

第77話「桃太郎のいる風景」。
教授に妙に懐くが、まったく喋らない通称「桃太郎」少年。
教授の書斎を訪れた桃太郎少年は、「ルーシー」と会話を始める。
大人たちに怖がられたり嫌がられたりするため、桃太郎はルーシーと脳内で会話し、喋らない子どもになったのだ。
そんな桃太郎君とルーシーの存在を、柳沢教授は否定することなく受け入れる。
そして表に出てきた人格「ルーシー」は、途轍もない天才だった。
彼に柳沢教授はこう語りかける。

みんなが君のことを怖がったり 否定したりするかもしれないが
君はそれによって自己を否定することはないのだよ
受け皿さえ見つけることができれば
これから君はその力を大いに生かせるようになるであろう
桃太郎君
学ぶことは素晴らしいことなのです

人間は、自分に理解できないものを恐れ、畏れる。
幼き天才の存在もまた、大人たちにとって畏れると同時に恐れ、敬遠するものであっただろう。
だがしかし、それを以て己の才を呪う必要はないのだと柳沢教授は明言するのだ。
呪縛から解き放たれた桃太郎ルーシーがその後どんな人生を歩んだか、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。

今は発達心理学で「想像上の仲間」("imaginary companion"あるいは"invisible friend")の研究も進んでいる。
きっと今なら、昔よりは生きやすくなっている。そう信じたい。

人間の証明

人間とは、かくも愉快な生き物である。
画一的ではないからこそ、素晴らしい。
学習により、予想もつかぬ進化を遂げる可能性に満ちた生き物だ。
そんなことを思わせてくれるマンガだ。

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