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鬼の埋まる庭

会社の食堂で珈琲を啜っていたら、新入社員時代にお世話になった大先輩が隣にいらした。
問わず語りで世にも奇妙な物語をうかがったので、ここに記録しておく。


それは、その方のお祖父様がまだ幼少の砌――。
お祖父様が暮らしていた、東北地方のある屋敷の話だといふ。
そのお屋敷では、なぜか不幸が続いていた。
常軌を逸するほど続くので、近所のイタコを呼んで屋敷を見てもらった。
イタコ曰く、
そこの桃の木の根本に、”””いる”””
「其奴を供養せよ、さすれば禍はおさまらん」と。

屋敷の男たちが集まり、桃の木の根本を掘り起こすと、
確かに、
いた

膝を抱えるように埋葬されているが、抱えきれないほど異様に長い脚。
額にぽっかりと虚ろな穴があいた頭蓋骨。
極めつけに、頭蓋骨の頭頂部にあたる部分には、突起がある。

それはまさに、物語に登場する鬼の角。

男たちはガタガタと震え、中には腰を抜かした者もいるといふ。
そりゃそうだ。
「供養せよ」とのことで菩提寺の住職を連れてきたところ、住職もお手上げ、白旗を上げたとのこと。
そりゃそうだ。
「並の者では供養なぞできぬ、霊験あらたかなる道士を探せ」と言われ、京の都だかどこだかから人を呼んできて引き取ってもらったそうな。

大先輩は、おそらく年の頃は知命。
その方のお祖父様となると、ざっと100年前に生まれた方であろう。
大正時代と考えれば昔だが、100年も経っていないと考えると最近だ。
そんな最近に、鬼の骨が発掘されているとは。
異界は案外、身近なところにあるのかもしれない。

そういえばその鬼の骨、引き取られて今どこにあるでしょう?
私は尋ねた。
大先輩は片方の口角を上げて、にやりと笑みを浮かべた。
その笑みの意味を問いただす勇気は、私にはない。



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